いつかあの日の星空を

2023年9月17~18日開催のWJ版封神演義・夢作品限定ウェブオンリー「夢の国のデンキヒツジ」に合わせて書いた夢SSです。
舞台は普賢が崑崙山に来る前にいた小さな村。夢主はその村の地主の一人息子です。
普賢がどうやって崑崙山に来たのか、そして
みんながみんな、仙人道士になりたがったわけではなかったのでは、というのも想像してみました。

夢小説ってどんなものか、いまいちよくわかっていないので、こんなのは夢じゃないと思われるかもしれませんが、その場合は「モブ目線の普賢の話」としてお楽しみいただけますと幸いです。

「大丈夫、きみはここにいて」


明け方、疲れて寝入ってしまったところを見つかった。両親には叱られ、祖父母は「一族の恥だ」と泣いた。仙人は自分の代わりに彼を連れて行ったという。
仙人骨など、案外だれにでもあるのかもしれないし、なくても行けるところだったのかもしれない。だって、おかしいではないか。仙人骨がなければならないともったいぶっておきながら、素性の知れない身代わりでよしとするなんて。あるいは、仙人はこうなるとわかった上で、最初から彼を連れていく算段だったのかもしれない。

結果として、望んだ通り、村にとどまることになった。与えられた土地を継ぎ、与えられた役割をこなす平穏で変化のない一生。変わったことといえば、村人たちの目がひどく冷たくなったことぐらいだ。
それまでちやほや持ち上げていた人々が、手のひらを返したようによそよそしくなった。名家の息子が貧しい家の子供を身代わりにしたことに幻滅し、軽蔑しているのだと、子供ながらに理解した。それでも見知らぬ山に連れていかれるよりはましだと思った——あいつなんか知らない。だって勝手に行ったんだから。
自分がしたことの意味がわかるようになるのに、数年かかった。「行かずにすんだ」では済まない、幼かったからというだけではとうてい言いわけなどできないと気づいたとき、過去の自分の浅はかさを、胸をかきむしるほど呪った。たんなるわがままで人一人、知らない場所へ追いやったのだ。突然いなくなった彼を、彼の親や兄弟が探したかどうか、怖くてだれにも聞けなかった。そもそも親や兄弟がいたんだろうか。
あいつ、名前はなんといった?
取り返しのつかない後悔と、自身への失望は、何年かかっても拭えなかった。それどころか変化のない日常のふとした瞬間に「僕が行くよ」という声が脳裏に蘇った。消えたと思った炭がいつまでも熱を持ち続けるのに似ていた。
触れれば火傷するとわかってあえて、それを思い起こしてみることもあった。わざと痛みを握りしめ、のたうち回る夜を幾度もすごした。いまさらだれにも打ち明けられない罪悪感を紛らせわるためだった。酒も浴びるほど飲んだ。気づけば村人はおろか、親族さえだれも近寄らなくなっていた。
手紙を書こうと思い立ったのは、人生の終わりが見えたからだ。病は深刻で、医師のみたてによるともってあと一年、もしかしたら数カ月かもしれないという。真っ先に思い浮かんだのが、あのときの少年だった。ひとことだけでも謝りたいと思った。手紙を書いたところで、なにが報われるわけでも、過去をやり直せるわけでもない。届けるあてもない。どうしようもなく独りよがりなのはわかっている、それでも、なにかせずにはいられなかった。
彼はどうしているだろう。仙人になれただろうか。途中であきらめたり、厳しい修行に辛い涙を流してはいないだろうか。あのとき、お前が行けと言い放った自分を恨んではいないだろうか。