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普賢のまわりの人たち
いつかあの日の星空を
2023年9月17~18日開催のWJ版封神演義・夢作品限定ウェブオンリー「夢の国のデンキヒツジ」に合わせて書いた夢SSです。
舞台は普賢が崑崙山に来る前にいた小さな村。夢主はその村の地主の一人息子です。
普賢がどうやって崑崙山に来たのか、そして
みんながみんな、仙人道士になりたがったわけではなかったのでは、というのも想像してみました。
夢小説ってどんなものか、いまいちよくわかっていないので、こんなのは夢じゃないと思われるかもしれませんが、その場合は「モブ目線の普賢の話」としてお楽しみいただけますと幸いです。
「大丈夫、きみはここにいて」
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満月のその日、約束通り仙人が空から下りてきた。仰々しく衣を翻すその人を、大勢の大人たちが膝をついて出迎える。それを見た瞬間、親の手を振り払った。止める声も聞かず全速力で走った。後先など考えなかった。あんなのについていくなんて冗談じゃない。とにかく、どこかに逃げなければ。
月に照らされた道を走り、村はずれの雑木林に駆け込んだ。岩陰に身をひそめ、息を殺し目を閉じて耳を塞ぐ。きっとがっかりされるだろう、だけど、最初からこの程度の人間なのだ。こんな小心者は仙人さまになどなれやしない、だから放っておいてくれ。
「
……
大丈夫?」
突然声をかけられた。顔を上げた先、まるい月を背に一人の少年がのぞきこんでいた。知っている
——
彼は同じ村の、貧しい家の子だ。年は同じぐらい。いつも遊びの輪から外れて、一人で空を見たり、土を掘ったり、どこかからもらった書を読んだりしていた。親しくしゃべったことも、いっしょに遊んだこともない。変わった子だから、あまり相手にするなと親に言われていたから。
なぜここに。追いかけてきたのか? 大人に命令されて?
「仙人さま、来てたよ」
「
……
知ってる」
「どうしたの。行きたくないの」
「当たり前だろう?!」
どこか呑気な口ぶりに、今まで必死で抑えていた感情が一気にあふれ出た。
「そうだ、行きたくないさ、当然じゃないか! なんでそんな山になんか行かなきゃいけないんだ!」
不安と苛立ちにまかせて怒鳴りつけた。親にも言えずにいた本音だった。
「なんでおれなんだ! なんでお前じゃないんだ! おれじゃなくて、お前が行けばいいのに! どうせお前ひとりいなくなったって、だれも困りはしないだろう?!」
彼はしばらく困ったように立ち尽くしていた。驚いて泣き出すか、引き返すだろうと思っていたが、彼は「そっか、行きたくないんだ」と呟きながら、もぞもぞと隣に座った。
なぐさめるとか、説得するとか、そういうつもりではなさそうだった。怒鳴られたのに、委縮するでもなかった。肩が触れるか触れないかの距離で黙って座り、ときおり「ほら、星がきれいだよ」と他愛ないことを囁いたりする。指差す先に目を向けると、ちょうど月が近くの木々に隠れていて、星が瞬いているのがよく見えた。こんなに絶望的な気持ちで空を仰ぐのははじめてだった。星は悲しいほどきれいだった。
尻の下の冷たい土が体温であたたまるくらい時間が経ったころ、遠くで人の声がした。大人たちが探しに来たのだ。体がこわばる。両親と会えなくなる不安、知らないところに連れていかれる恐怖が再び蘇ってきて、さっきみたいに耳を塞いだ。震えが止まらない。
そのときだった。
「ねえ」
彼が肩をかるく叩いた。
「僕が、行くよ。きみの代わりに」
「え
……
?」
「だって、行きたくないんでしょう?」
「行きたく
……
」
「僕は、行ってみたい」
息を飲み、まじまじと彼を見つめた。
だれでも行ける場所ではない。仙人骨というのがなければ崑崙山には上がれないと仙人が言っていた。大丈夫だよ、と彼は笑った。同い年ぐらいのはずなのに、その声はとても落ち着いていて、でもやわらかな声音にとびきり挑戦的で、手に負えない悪戯心を隠しているのがわかった。もうすっかり決めてしまっていることも。
「大丈夫。きみはここにいて」
言うなり立ち上がり、まるい月に向かって駆け出す。その華奢な背を目で追った。そう遠くないところから、大人たちの怒声が聞こえたが、追いかける勇気はなかった。ふたたび静かになるまで、その場でうずくまっていた。
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