静かな夜だった。風の音も鳥の鳴き声もない。しんとした部屋で、消えかけた蝋燭だけがじりじりと鼓膜を揺るがしている。残された時間はあと少しだ。震える手で筆を取った。寒さでかじかんで思うように動かせないが、それをかばう余裕はなかった。力尽きる前に手紙を書き終えなければならない。
もう五十年以上前のことだ。名前は思い出せない。記憶に残る面影もおぼろげで、でもその声ははっきりと脳裏に刻まれている。
「大丈夫。きみはここにいて」
隣にいた少年が小声で言って立ち上がった。引き止めはしなかった。行けと言ったのは自分なのだ。でも、本当に行ってしまうだなんて、思わなかった。目の前で起きているすべてのことに目を、耳を塞いだ。閉じた瞼の奥には星空が焼きついていた。
永遠に夜が明けないような気がした。
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