とある本丸怪談・参

現地調達する本丸/
とある首無しの顛末/
満開の桜の/
うちの犬が何かを育てている。



うちの犬が何かを育てている。


この本丸は、建物の中を除いた全ての地面が、ぽち太郎の縄張りだ。ぽち太郎とは審神者が実家から連れて来た犬で、曾祖父の代から様々な大型犬や猟犬の血を受け継いだ本丸最強の生物である。見た目は母堂のゴールデンレトリーバーの特徴が強く穏和そうだが、ひとたび不届き者に牙を向けば極めた大太刀ですらも抑えられない。いつも彼女は強者故の余裕をたたえて、庭や畑を優雅に見回っているのだった。

さて、そのぽち太郎だが、最近何かを隠している。畑の西に薮があり、そこを陣取って誰も近寄らないように目を光らせているのだ。蜂須賀虎徹と秋田藤四郎は偵察と称して少し遠くから様子をうかがっていた。ふたりとも、ぽち太郎とは本丸立ち上げからの仲であって、隠し事をされたのは初めてであった。
「ぽち太郎はどうしたんだろう」
「主君も心配してました……
このままでは埒が明かない。ふたりは意を決して、ぽち太郎の前に立った。
「ぽち太郎さん、どうしちゃったんですか」
「俺達に話してくれないかな?虎徹の名に賭けて、悪いようには絶対にしない」
「ぽち太郎さん……
「ぽち太郎……
ぽち太郎はしばし逡巡する様子を見せたが、やがて徐に藪へと入って行った。駄目であったかと落胆する蜂須賀と秋田の前にひょいと顔をだしたぽち太郎は、小さな獣をくわえていた。
「これは……、なにかの幼獣かな?」
「ぽち太郎さんは、これを育てていたんですね」
かくして皆の知るところとなったぽち太郎の養い子は、本丸で保護されることとなった。

養い子は、たま助と名付けられた。本丸で保護するとは言っても相手は野生の獣である。世話するのはせいぜいがイヌ用の乳を用意してやるくらいで、その他のことの一切はぽち太郎が取り仕切った。
「うーん……
「どうしたんだい、主」
「たま助、何なんだろうと思って」
「なにって、見ての通り獣の赤子だろう」
「犬ではなさそうだし、タヌキにしてはすらっとしてるし、イタチかなぁ」
データベースを見てもそれっぽい動物がいないんだよな、と審神者はしきりに首をひねっていたが、たま助はすくすくと育っていった。育つにつれて、タヌキからもキツネからもイタチからも遠ざかって行った。

さて、このたま助であるが、行方知れずになってしまった。
ある春の嵐の夜、そこいらじゅうで稲光が走り、いっそ花火か祭りかと言わんばかりであった。刀剣男士は金気であるからどうにも雷というものが苦手であったし、審神者も少しばかり臆病な性質であったので、みな部屋に籠ってまんじりとしながら嵐が去るのを待っていた。ぽち太郎は台所の土間でたま助と身を寄せ合っていたはずであった。しかして翌朝、たま助は姿を消していた。ぽち太郎は少し悲しげに鼻を鳴らした。その背を撫でてやりながら、審神者にはまるで雷と共に行ってしまったかのように思われたのだった。

あれ以来、ぽち太郎は遠くで雷が鳴れば、その方をじっと見つめている。そして少しだけ遠吠えをするのであった。