Koishirotae
2026-07-10 18:36:29
5242文字
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オー晶ドロライまとめ

夢森5ドロライまとめ(別垢投稿分含む)



嘘つき

「賢者様って最低」
 食堂に入った瞬間、開口一番にそう罵られた晶は目を丸くした。
 じっと晶を睨みつけているのは北の魔法使い。その色白な顔にクリームと思われるものをつけながら、彼は呆れたようにため息をついた。
「嘘つき、偽善者、最悪」
「ええと……何かありました?」
 晶には心当たりがない。なぜ朝の挨拶もすっ飛ばしてオーエンに罵られているのだろうか。その一心で尋ねれば、ますますオーエンの顔が歪んだ。汚く舌打ちをしてから手の甲で口元を拭う。そのまま手についたクリームを舐めながら、オーエンは信じられないものを見るような眼差しで晶を見つめた。
「本気で言ってるの?」
「えっと、はい」
 オーエンは黙り込んだ。不快感や嫌悪感を丸出しにする彼に、晶はますます戸惑う。なにか彼を怒らせてしまうようなことをしてしまったのだろうか。けれども特に何かした記憶は――……
……いや、したな)
 つい数日前の出来事に晶は辿り着いた。

 晶には小さな秘密があった。誰にも明かしていない、そんな秘密。それを晶はつい勢いでオーエンに言ってしまったのだ。よりにもよって、ミスラとの喧嘩で死にかけていたオーエンに。
『あなたが傷つくところは見たくないんです』
……なんで。おまえには、関係ないだろ……
『なんでって……
 晶はオーエンの止血をしながら言葉に詰まった。悲し気に顔を伏せてから、静かに口を開く。
……私が、オーエンのことを好きだから』
 そう口を滑らせてしまったのだ。

 もしかしたらそれが嫌だったのかもしれない。あれからオーエンはうんともすんとも言わなくなって、まるで晶の告白なんてなかったかのようにいつもの日常に戻った――のだが。
「あの件に関してはすみません。聞かなかったことにしてください」
 もしかしなくてもオーエンは晶の告白を覚えていたのだろう。そもそもオーエンは意外と律儀なところがあって記憶力もいい。忘れてくれた、なんて、それは晶の希望的観測でしかなかった。
 そう恐る恐る謝ってから晶はちらりとオーエンの様子を伺う。彼の眉間のしわはますます深くなっており、晶は身を縮こまらせた。
「それ、何に対して謝ってるの?」
 大量のクリームが入った皿をテーブルに叩きつけてから、オーエンは苛立ったように立ち上がった。そのままずかすかと晶の方へ大股で歩いていき、彼女をじっと見下ろした。その眼差しには深い怒りと失望、苛立ちが現れていて、晶は思わず緊張で呼吸を止めた。
「おまえ何もわかってないだろ。鈍感、間抜け」
「す、すみません……
 晶は思わず一歩後ずさる。そんな彼女を逃がすまいとオーエンが腕をつかんだ。怒りのこもったそれは見た目に反して力強く、晶は思わず顔を顰める。
「あの、ちょっと痛い……
「僕のことが好きって言ったくせに、なんで昨晩はミスラとずっと一緒に居たの」
 一瞬理解が遅れた。オーエンの言葉を飲み込んで、晶は慌てたように目を見開いた。
「もしかして寝かしつけのことですか?」
「わかってるよそんなこと!」
 苛立ったようにオーエンは声を荒げた。
「ああ、わかった、賢者様は本当は魔法使いなら誰でもいいんだろ。浮気者」
 嘲笑するように鼻を鳴らした。晶を傷つけるための言葉を選んで並び立てていく。けれども、そんな彼が一番傷ついているようにも見えて、晶は真剣に彼を見つめた。
「誰でも良くないです。もちろんみんなのことは大切な友達だと思ってますけど、特別になりたいと願ってしまうのはオーエン、あなただけです」
「だったら僕のことだけ見てろよ。好きって言うくせによそ見ばっかり、全然面白くない」
 オーエンの言葉に晶は思わず失笑した。そんな彼女を見てオーエンはますます不快になる。先ほど飲むようにして食べていたクリームが胃の中でぐるぐるして、オーエンは再び大きな舌打ちをした。
「何がおかしいの? 北の魔法使いをからかってそんなに楽しい?」
「からかってないですよ。……ただ、その」
 晶は挑発的に笑った。あの北の魔法使いに対して、随分と大胆な笑みだった。
「オーエンって結構私のこと好きなんですね」
…………はぁ?」
 オーエンは気の抜けたような声を出した。同時に彼女から向けられる視線がくすぐったくて、咄嗟に腕を振り払う。
「調子に乗るなよ」
 気がそがれた。そう言いながらオーエンは煙となって姿を消した。
 残されたのは晶と大量の生クリームだけ。静かになった食堂で、晶は緩む口角を必死に堪える。
 ――彼が怒っていた理由。それは晶を期待させ浮かれさせるには十分すぎるものだった。