錘(つむ)
2026-07-05 21:04:21
6873文字
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戯曲

転生現パロリチャジョ 叔父甥になるまで 現代かな?ちょっと前かも

リチャードの生まれた家での設定などは「ジョン王」から一部拝借しております そっち視点が多い



 庭を望むテラスで、ジョンとリチャードは軽食を摘まんでいた。
「反対されなくてよかった、あの人たちのためにも」
 リチャードの視線が薪割り途中の斧に向けられているのに気づき、ジョンはかすかに眉を顰めた。
「四十回と四十一回をやられていたらさすがに庇うのに難儀しそうだ」
「よんじゅ……?」
「戯れ歌です、お気になさらず」
 気にするなというので気にしないことにした。
 それにしても。リチャードは辺りを見回す。コーギー犬が走り戯れる庭は手入れが行き届いており、館自体も古いものだが補修をまめに行っているようで生活に支障はない。
 なにより今生で出会って過ごした思い出と言えば思い出の場所ではないか。
「この館まであげなくても、俺を厄介払い出来るんだからタダで断らなかった流れだと思うぞ」
 ジョンは紅茶を傾けながら、ちらりとリチャードを見た。
「名義を渡すわけではない。管理を頼んだだけだ。……あの一家は収入と支出が不均衡であるようだが」
「まあ、そうだな! よく本家に無心に行っていた」
「兄上は、金に難儀している人間の判断力のなさを侮らない方がいい。喉元過ぎればの喩え通りに、金蔓として思い出す。実母と実弟と育ての父として、恩義を全面に押し出して現れる」
「そうかなあ?」
 見たくも考えたくもないと思うんだが。リチャードは大きく首をかしげたが、ジョンはかまわず続けた。
「あの手合いは、泳がせておけば必ず使い込む。金の動きの痕跡は完全に消し去れるものではないのだ。名義を換えさえしなければ私の持ち物であるから、訴え出るのは容易い。いつでも弱みを握れる」
「おお。さすがジョン。だが、使い込みせずきちんと管理していたらどうするんだ?」
「その賢明さがあれば目先の幻の金を追うことなく、我々を放っておけるでしょう」
 リチャードはうんうんとうなずいた。やはり戦のない世の中ならジョンは強いのだ。
 サンドイッチを飲み込んでから、別のことを口にする。
「そういえばさっきの、どこかで聞いたような気がしていたけど、思い出した。あれだろ、斧で両親を殺したとか言う」
 女性が父と継母を斧で殺したとされる事件が元になった、血なまぐさい童歌だ。四十回と四十一回は、歌の中での殴打回数である。
「司法の判断としては無罪放免だったようだが。歌になってしまえば拭いようがないな」
「危なかったのは、そっちじゃないんだよな」
 ぽつりと呟いた。
 そしてすぐまた、話題を変えた。
「なあ、ジョン! 俺も名前で呼んでくれよ。兄上もいいけどさ」
「そういえば兄上の今の戸籍上の名は」
「おおっと勘弁してくれ! そっちじゃなくて」
 少し拗ねてみせると、微笑みまではしないが目元が優しくなる。年上のジョンもよいものだと、リチャードはかみしめた。
「分かっている。養子の手続きとともに改名も勧めよう、リチャード」
 我慢をしておいてよかった。捕まったら、きっと出会えなかったものな。
 嬉しくてリチャードは、椅子を跳ねるように立ち上がるとジョンの口の端を狙ってキスをした。