錘(つむ)
2026-07-05 21:04:21
6873文字
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戯曲

転生現パロリチャジョ 叔父甥になるまで 現代かな?ちょっと前かも

リチャードの生まれた家での設定などは「ジョン王」から一部拝借しております そっち視点が多い


 客間の椅子に座る、その男はやはり異質だった。座しているだけで周囲の空気を澄んで張り詰めた真冬と入れ替えるような、支配する側の静かな圧を纏っている。長男は自分の家だというのに男の隣に、当然のように客側に腰掛けている。親子ほども離れて見えるが、男の顔色の悪さから実年齢よりも上に見えるだけでそこまでではないのかもしれない。
「息子さんと知り合った経緯は長くなるので割愛させていただいてよろしいか」
 三人がそれぞれ、素早く首を肯かせた。絶対に何かをやらかしており、藪蛇なので、聞きたくなかった。
 男は淡々と、だが冷ややかではない穏やかな声音で語る。うっかり聞き惚れると内容も吟味しないままうなずいてしまいそうなほど心地よい響きがある。
「私には幾人か兄がおりました。全員、早くに亡くしましたが」
 それは黒い噂として聞いていた。死に不審な点のある家族も多いのだと。
 それが息子と何か関係が、と口を挟む前に、男は奥方に顔を向けた。
「単刀直入に伺うが、奥方は、我が兄をご存じなのではありませんか?」
……? それは、どういうことですの」
 男はすぐに答えず、傍らの若者に目をやった。眉を下げ、目を細め、微笑みまではしなかったが、そこに柔らかいものを含ませていた。再び、三人に向き直る。
「息子さんは亡くなった兄と、よく似ているのです。年の頃も、兄に聞いていた話とちょうど合う。……私は常々、兄の忘れ形見の可能性がすこしでもある人物が現れたのなら、手元に置いて不自由なく生活してほしいと考えていました。ゆくゆくは後を継いでもらいたいと」
 意図を汲んだ奥方が、顔を紅潮させる。
「あたくしと、お兄様の子ではないかと仰るの」
 男の緑色の瞳に温度はなく、ただ視ている。長男も同じ眼を向けていて、奥方はゾッとした。
 夫と次男は目線を合わせて、奥方を両方から宥めた。
「おまえ、少し落ち着くんだ」「母さん、ちょっと」
 反論したい様子の奥方を抱えるように立ち上がる。
「少し、外してよろしいですかな。家族で話したく」
「どうぞ。押しかけた身です、如何ほどでも待ちましょう」
 長男は当然のように動かない。ただじっと、成り行きを見ているだけだった。

 廊下まで出て、奥方はさすがに抑えた声でだが怒りを爆発させた。
「あなたたち、またあたくしの不名誉になるようなことを。ロバート、あたくしの恥ならあなたの恥ですよ。あの子は自分勝手に生きているしあなたまでお父様と一緒になって母親を、ああ、なんて情けない。あたくしの味方なんてこの家に誰一人いないんだわ」
 次男に向き直って責め立てる。夫が肩を押さえて首を振った。
「落ち着け。今はそれはどうでもいいんだ」
「今は!? どうでもいい?? あんなに責めておきながら!」
 声が高くなる母親を、今度は次男が宥めた。
「父さんは、これは厄介払いのいい機会だと言っているんだよ、母さん」
「さすがに、おまえが本当にその死んだ兄とやらと関係があったとは思っておらん。向こうもどこまで本気だか知らんが、いくらなんでもただ渡したら、本家が何て言うと思う」
 今までの積み重ねからして、ふしだらな関係の相手とみるだろう。下手をすれば連れ帰ってこいとまで言われそうだ。
 そこへ一応、亡くなった兄にそっくりなので偲ぶためにどうしてもと希われて、とそれらしい理由がつくならどうか。母親は興奮を下げようやく思案を浮かべた。
「でも、それじゃあ。やはりあたくしの不名誉だわ……
「他人のそら似でいいじゃないか。勝手に解釈されるだけなら仕方が無いだろう、面と向かって言われたらわしも否定してやるから」
「なんですか、その言い方」
 ぶつぶつと文句を言いながらも、母親の怒りは力をなくしてきている。どうせ不義だなんだと囁かれており、覆せない噂であれば、知らぬ顔をしてあの男に押しつければ少なくとも厄介の種が減るだけ得である。

 しらじらしい笑みを浮かべて、三人は戻ってきた。
「いやはやお恥ずかしいところを」
「いえ。こちらが不躾でした。気が急いていたもので」
 着席が終わると、男は再び口を開く。 
「勿論、兄は亡くなって久しいので法的な認知までは行えません。私の養子という形になるでしょう。その場合は言いにくいのですが、そちらとは縁を切っていただく事になりますが」
「ええまあそれは、そうなるでしょうね」
 どうぞどうぞを三者三様に顔に浮かべて、家族の話し合いの成果が露骨に現れていた。それに気づかないふりをして、男はさらに提案を重ねた。
「ところで、今、私が滞在している館ですが、近々引き払う予定です。このあたりで行っている商売もいくつかある、手放すには少々惜しいが離れるならば煩わしい。信用できる相手になら、管理をお願いしたいと考えているのですが。どうでしょう、ご検討いただけますか」
 今すぐにでも、そちらの気が変わらないうちに決めてしまいたいと全面に出ている三人だったが、男は全くペースを崩さなかった。
「どちらも、今すぐ決めてほしいとは言いません。必要な書類はこちらで用意します。顧問弁護士の連絡先を入れておくのでなにかあればそちらに」
 引き留める間もなく優雅に去って行く。長男はやはり、当たり前のように男と一緒に帰った。もう、何もかも、決まったようなものだった。