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コロポックル
2026-07-01 01:22:35
16603文字
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どうせ全部呪いのせい(アズラオル│R-15?)
魅了を食らった経営顧問と、それに振り回される所長のアズラオルです。
かっこよくない経営顧問、捏造設定、露骨なカップリング要素などが含まれます。
まだ本番行為はないです。まだ。R-15にはなるか?
1
2
3
前略。
カルデア現経営顧問にして冠位暗殺者のアズライールは、通りすがりの敵性体にちょっとした魅了を食らった。
「ばかじゃないの?」
呆れ返ったオルガマリーの呻きを、藤丸は至って真剣な面持ちで否定する。
「いやいやいや、これは由々しき事態ですよ。だって」
言いながら、その視線がオルガマリーへ
——
というより、その背後にぴったりとはりついているものへ
——
向けられた。
つられて、オルガマリーも首をやや左上に捻る。
ふたり分の視線を受けたそれが、これまた至って真剣に、低く牽制じみた声を上げた。
「なんだ。やらんぞ」
「ほら所長、あの経営顧問がこんなになっちゃってますもん」
こんなになっちゃった経営顧問と、それを大真面目に警戒する藤丸に挟まれて、オルガマリーは無言で頭を抱えようとする。胴ごと縛められた両腕はびくともせず、実際には身じろぎひとつ叶わなかった。
そもそもの原因は、この英霊のもつ性能にあったという。
レイシフト先での戦闘中、謎の敵性体が放った何某かの呪いをモロに受けてしまったアズライールであったが、さすがは冠位のサーヴァント。即座になんらかの
抵抗
レジスト
が働いたらしい。
ところが、彼の対魔力では、呪いの効果を完全に防ぎ切ることはできなかった。
技術顧問曰く『ある種の魅了魔術』であるらしいそれの、本来であれば複合的に作用して術者への敵意を削ぐはずであった効果のうち、ほんの一部だけが残留してしまった、と。要するに、そういう話のようだ。
「
……
それで、こんなふうになるわけ?」
「なっちゃってます」
「なっちゃってるわね
……
」
なっちゃったのである。
ちなみに、くだんの敵性体はアズライール本人がその場で始末しており、今後も掘り下げられることはない。都合よく現れる魅了持ちエネミーに合掌。
珍しくアズライールが攻撃を食らったということで、念のため、オルガマリーもその後の動向は注意深くモニターしていた。
あくまで、そばにいる藤丸とマシュの安全を懸念したのであって。カルデア所長の領分を超えて、特定スタッフを個人的な贔屓目で心配したとか、そんなことは断じてまさか全然これっぽっちもありえないのだが。
なにはともあれ。
少なくとも、微小特異点を修復してカルデアへ帰還するまでのあいだ、アズライールに特段の異常は見られなかった。
そう、帰還するまでは。
レイシフトを終え、管制室へと戻った彼らが、めいめい帰還の挨拶や報告を口にする中で。
突如、オルガマリーの全身を浮遊感が襲った。
ひゃあ、と思わずもれた悲鳴が、背中に押しつけられた体温に詰まる。なにごとかと振り返った藤丸たちが、こちらを
——
否、自分のさらに背後を
——
見上げて、ぎょっと目を丸くした。
オルガマリー、と。
すぐ耳もとで、ひそめるように低くささやいた、その声が。
記憶にあるそれより、はるかに甘く、熱く、とろけるように響いたから。
筋肉質な両腕に締めつけられ、圧迫された腹も。軽々と地面から引き離された足も。背中から、自分のからだをすっぽりと覆う、大きな影も。
己の身に起こった異常のすべてを把握する頃、彼女は思い至ったひとつの仮説に青ざめた。
アズライールが食らい、防ぎ損ねたという魅了効果。
それが、なんらかの理由で、オルガマリーを対象に発揮されている。
ぎこちなく振り向いた先には、星のない夜空よりも暗い瞳がふたつ。一見、普段と変わらぬように思えるそれらが、よく見ればどろりとした熱を湛えていて。
欲に濡れたその眼差しを、オルガマリーは知らない。少なくとも、自覚のある範囲において、彼女は他者からそういった欲望を直接向けられた経験がなかった。
それなのに。
今、この男は、はっきりと自分を
そ
・
う
・
い
・
う
・
目で見ている。否応なしに突きつけられた事実に、ぞわりと全身が粟立った。
そこから、時間にしておよそ三十分。管制室では、著しく自由を奪われた所長を中心に、依然として膠着状態が続いていた。
とはいえ、当のアズライールは意外にもおとなしい。唯一の関心ごとであるオルガマリーさえ手中にあれば、周囲から好奇なり怪訝なりの視線を向けられようと、眼前でなんらかの作戦会議めいた会話が繰り広げられようと、興味を示すこともなく泰然と突っ立っていた。
問題は、オルガマリーを解放する意志が微塵もないことだ。
離してほしい。一旦、床に降ろしてくれないか。そういった交渉を幾度となくもちかけたものの、アズライールは頑として彼女から離れず、むしろ対話を試みるごとに拘束は強まっていった。
幼い子どもに抱えられたぬいぐるみのような姿勢で、オルガマリーはもう何度目になるかもわからないため息をこぼす。
「ねえ、見て、アズライール。藤丸たちの首、こちらを見上げすぎてほぼ直角よ」
「オルガマリー。私以外の名を口にするな」
「ああそう、もはやそのレベルなのね。OKわかりました」
なにひとつOKではない。事態は想定よりはるかに、劇的に深刻であった。
いよいよあからさまに敵意を向けられたせいか、藤丸たちもかなり気まずそうというか、いたたまれない顔をしている。ムニエルに至っては「馬に蹴られたくねえ」という気持ちを隠そうともしない。減給である。
いちばんの問題は。
オルガマリー・アニムスフィアは、女性であり、成人であり、この男の親族でもなければ恋人でもないという点で。
よく見れば美青年どころか美少年じみた顔立ちをしたアズライールとて、その実態は見てのとおり屈強な大男である。間違っても、ただの同僚にあたる女性をぎゅうぎゅうと抱きかかえ、所有権を主張するかのように牽制を撒き散らしていい立場ではなかった。
状態異常による一時的なエラーとはいえ、本人のためにも矯正はせねばなるまい。オルガマリーはひそかに腹を括った。
「
……
経営顧問。まず、わたしは女であなたは男。それはわかっていて?」
「見ればわかる。それがどうした」
「どうした、じゃなくて」
しみじみと、今のアズライールは異常なのだと思い知らされる。本来の彼は
——
たしかに、ちょっぴり浮世離れしているし、感覚が一般人のそれとは大きく乖離している部分もあるが
——
一応、最低限の良識を備えたしっかり者の英霊であった。
部下の不調は、上司たる自分の責任でもある。カルデアの司令塔として、組織を束ねる長として、オルガマリーはあくまで指導者の立場から説得を試みた。
「一般論として、恋人でもない異性にこんなふうに触れるのって、マナー違反よ。わかるでしょ?
……
わかるわよね? セクハラ講習とか、今さらやらなくてもいいわよね?」
だから、とりあえず抱擁は解いてほしい。彼女としては、当然、そのように主張したつもりであった。
しかし。
「そうか。では、今からおまえと恋仲になろう」
今日のアズライールは止まらない。
「こっ
……
!?」
思わず、盛大に声が裏返る。藤丸は、というより周囲にいるだいたい全員が、一様に「マジか」みたいな顔をした。
無論、いちばん「マジか」と思ったのはオルガマリーそのひとである。
「こい、なかって、あなた
……
簡単に言ってくれるけど! 意味、ちゃんとわかってるの!?」
「私をばかにしているのか」
拗ねたような声とともに、武骨な右手がオルガマリーの顎を掬った。
「なッ!? ちょっ、なによ急に
……
っひぅ!?」
するりと耳裏を撫でられて、素っ頓狂な悲鳴が上がる。
強く抱きすくめられたまま、猫でも愛でるように顎をくすぐられ、額やこめかみに口づけられて。こそばゆさとこみ上げる羞恥に全身が熱くなった。
今や左腕のみに支えられた肢体は、未だ床に触れることさえ叶わず、逃れようにも片手間の拘束はびくともしない。格が違いすぎる、と思った。いきものとしての、格が。
上向けられた顔を覗き込まれ、覆い被さった拍子にさらりと左右へ垂れ落ちた髪が、さながら勿忘草色のストリングカーテンのようにオルガマリーの視界を囲い込む。
当惑に見ひらかれた目に、吸い込まれるように黒い双眸と、傲慢さに満ちたあどけない美貌だけが映った。
腕の中で縮こまる女を見下ろして、一挙手一投足が強引な青年は心なしかご満悦だ。彼女の表情に、なにか、自分にとって都合のいい感情の揺らぎを読み取ったのかもしれない。
かり、とピアスごと耳朶を甘噛みしながら、アズライールは得意げにささやく。
「
……
恋仲とは、こういうものだろう?」
蜜よりも甘ったるい声色に、くらりと眩暈すら覚えた。
魅了とは。精神操作とは、かくもおそろしき呪いか。
魔術師らしく合理性を信奉するオルガマリーは、ヒトの愛情などという胡乱なものを左右するだけの状態異常など、大した脅威に感じていなかったのだが。直近わずか数十分程度で、彼女の認識は大きく塗り替えられた。
とんでもないことだ。ひとの心を、好意を、対人感情を、これほどまでに跡形もなく捻じ曲げられるなんて。
アズライールが、自分を愛しているなど。あっていいはずがないのだから。
一応、自己評価が低くなりがちなオルガマリーも、彼に心の底から嫌悪されているとまでは思っていなかった。
たしかに、アズライールは彼女の首を狙っている。執拗に狙っている。おはようから次のおはようまで、ラ●オンも引くほど狙っている。その点については疑いようがない。
しかし、オルガマリーに対する彼の態度は、ことのほか柔和な部類であった。
無意味に不穏当なことば選びをすることもあるが、仕事仲間としてのコミュニケーションに障りのない範疇に留まっている。むしろ、頻りに首が云々と言ってくるのも、場を和ませようと彼なりに気を利かせたジョークである可能性が高い。悲しいかな、このご時世にパワハラ芸はウケないのである。
以前など、冗談交じりに口説き文句めいた言い回しをされたこともあった。悪意どころか殺気がちらついたので極端な皮肉と受け取ったが、あれも、気心の知れた同僚に対する一種の悪ノリだったのだろう。
そういった日々のやりとりを踏まえて、さすがのオルガマリーも、この経営顧問から「軽口を叩ける間柄」程度の好感は得ていると自負していた。
それはそれで、つらくもある。
命を狙われているだけにひどく怯えはするものの、こう見えて、彼女はアズライールに一定以上の好意を寄せていた。なにより顔がいいし。意外に、おつかいとか頼まれてくれるし。こわいことばかり言うけど、たまーに優しいような気がしないでもないし、なんだかんだで危険からは守ってくれるし。
絵に描いたようなトラウマボンドである。彼女は気位の高い女性だが、自律神経が弱い上に結構チョロかった。
しかし。
いくら一方的に想い続けるのがつらくとも、ひとの心を無理やり改竄するなど、あってはならないことだ。魔術師としてはやや珍しく、彼女は至極真っ当な感性の持ち主でもあった。
どうにか拘束を逃れようと身をよじっていたオルガマリーが、声をかけられてふと顔を上げると、心底気まずそうな藤丸と目が合った。さらに視線を上げれば、アズライールがこちらを見下ろしてにこにこ笑っている。にこにこと、あの、アズライールが。
こわい。
ほかにも数名いたはずの職員は、どういうわけか、みな忽然と姿を消していた。
どうやら生贄にされたらしい。ちょっぴり殺意すら芽生えたが、淑女らしく減給で手打ちとすることにした。
「えー
……
っと。ダ・ヴィンチちゃんが言うには、明日の朝には呪いが全部抜けるはず、だそうです」
おずおずと報告する藤丸に、オルガマリーはにわかに眉をひそめ、次いで小さく嘆息する。
自分が経営顧問にもみくちゃにされているあいだも、状況の分析はちゃんと進んでいたらしい。それについては素直に評価できた。
ただ、それが、彼女にとって都合のいい結果にはならなかっただけで。
明日の朝には効果が抜ける。
すなわち、ただちに状態異常を除くことは能わず、自然に治るのを待つしかない、と。そういうことだ。
「
……
そう。あしたの、朝。そうなのね。それは、短いような、長いような」
「ですね
……
まあ、そういうわけなんで」
——
あとは頼みましたよ、所長。
なにかを諦めたような顔で、藤丸はそう言って親指を立てた。
あんなにへし折りたい親指は初めて見た。
のちに、オルガマリー・アニムスフィアはそう語ったという。
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