錘(つむ)
2026-06-19 23:59:21
7000文字
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バッカスに花の冠を

ジョン王がビールとか飲みすぎる話 ギャグです 色々と許してください カプと言うほどまでではないと思いますが生産元がリチャジョなのでおきをつけください


 しかし、すんなりと帰れはしなかった。
「ジョン!」
 よりによってリチャードが、通路から飛び出してくる。この姿で、この状態で。かなり露骨に嫌そうな顔をしてしまったかも知れない。
「いつからいたのですか」
 リチャードは、笑って誤魔化そうとして、苦笑に切り替えた。
「ずっといた」
「兄上。困ります」
 揺り起こされなければ朝まで寝こけていただろうし、約束もしていないのに勝手に待たれるのは困る。自分なりに語気を強めると、リチャードは首筋を掻いた。
「通りかかったと嘘をつこうかとも思ったんだがな、ジョンにはどうせわかってしまうしな。やめた」
「悪いが見てのとおり、愚かにも酒を過ごしました。お相手できるような状態ではない。失礼する」
 自分ではすらすらと喋ったつもりだが、舌は情けなくももつれていただろう。リチャードは笑うことなく、柔らかく通せんぼをした。
「ああ、問題ない。今日はジョンにお休みの接吻をしてもらいに来たんだ」
 ちょんちょん、と自分の唇の端を示すリチャードに、ジョンは酔ってためらいの減った頭だからこそ明確ないらだちを覚えた。
 若い自分とは、在りようはだいぶ異なるが、記憶自体は連続している。若い自分は、はじめの頃は逃げていたが、最近は逃げても無駄と悟った半分、絆され半分で兄とも交流を行っている。家族の新愛の証なのだから当たり前などと乗せられて、挨拶の口づけまで交わすようになっている。そのあたりは何も言うまい、若い自分がすることなので。
 しかしこの姿のジョンはそもそも、兄ともだいぶ没交渉であり、当然接吻などしたことはない。にも関わらず、平然と同じ要求を行う。待ち伏せるだとか、酔っている時に要求を通そうとするだとか、どさくさに紛れて当然の顔をするやり方が、どうにも承服しがたい。
 なんなら踏み込んできそうな勢いのリチャードに、ジョンは口元を袖で抑えて態度で拒んだ。
「酒を過ごした、と申し上げた。酒臭いので身を寄せないでほしい」
「なんだ、そんなことか。全然気にしないぞ! 酒は飲んだらそうなるんだからな」
 ため息を付いた、自分の吐息の酒臭さに、完全にスイッチが入ってしまった。
 普段なら、特にこの姿なら、絶対にやらないような真似を、思考の許可が降りる前に反射で行った。この姿ならジョンのほうが背が高い。手を伸ばすと、リチャードは言うことを聞いてくれるとでも思ったのか満足げにこちらを見ていたが、顎より両頬を挟まれて初めて(なにか違う)の顔をした。
「わ、た、し、が。気にするのだ、兄上がではない。おわかりか」
 掴んだ口がモゴモゴと動く。家鴨のくちばしのようだ。顔が端正な分、滑稽さが強まる。もう少し感情が残っていれば笑っていたのかもしれないが、酔っていても真顔は崩れなかった。
「それほどまでにお望みなら、枉げて応じて差し上げても良い。ただし、これを限りですよ。よろしいか?」
 口元は変な形に抑え込んでいるので、表情の変化は目でしかわからないが、リチャードは確かに瞳を輝かせた。
 なぜに。
 なにか、触ってしまったと酒で鈍った頭で気づき、手を引くと、リチャードはやはり何故か想定外の嬉しさを得た瞳で何度も頷いた。
「わかった。ジョンが嫌がることはしないよ。最後でも困るしな」
 目を細め、ジョンは顔を背けた。
……失礼する」
 頭はずっとぐるぐると酒が回っているので、もう今夜は何も考えない。とにかく部屋にたどり着いて、目を閉じて再度シャットダウンをするのだけが今行うべきことだ。兄を置き去りに少し早足で去った。が、酔った身体には負荷の高い速度であり、大した距離も稼げないままうずくまった。めまいが酷いので無理に立ち上がると棒切れのようにぶっ倒れる可能性が大変高い。
 案の定、兄がものすごく素早く回り込んできた。
「ジョン! 大丈夫か、やはり相当飲んだんだなジョン!」
「うるさ……。あっちへ行ってください」
「手を貸すぞ! 肩も貸すからな!」
 しゃがみ込んだまましっしっと手で追い払うジョンと、その前を一人で飛び交うように動いている兄。
 怪奇! 行動がより怪しい方が素面!



 ジョンは翌日、自分のベッドの上で引き続き酒臭い半身を起こし、ずきずきと酒毒に痛む頭を抱えて呻いた。
 やらかした。
 残念ながら記憶は全部残る体質である。