錘(つむ)
2026-06-19 23:59:21
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バッカスに花の冠を

ジョン王がビールとか飲みすぎる話 ギャグです 色々と許してください カプと言うほどまでではないと思いますが生産元がリチャジョなのでおきをつけください


 壱与に約束してしまった手前、泡の出る麦の何かをああしてこうしなくてはならなくなった。一旦部屋に戻り、姿を晩年のそれに変える。記憶は地続きで、だからこそ懈怠が強まる。それでも、なすべきことをなすという動機だけで動いている身は静かにもと来た道を戻った。
 今度は邪魔をされず、宴会場の入口をくぐった。すでに出来上がっている者も、飲み比べなのか盛り上がっている一団もあるが、一人で飲んでいる者も予想以上に多かった。厨房よりは工程が少ないのだろうが、それでも料理人のプライドか、軽食を出すための一角には食材と機材が揃っている。そこに詰まっている料理人の一人、ブーディカから会釈をされたので迷惑をかけた詫びも含めて頷く。
 この姿のジョンは目的をもとに機械的に判断するようになっている。泡の出る麦を、なんだったか。通りかかった、恐らく給仕でいいのであろうが部分的に動物の装いをした女人に声をかける。
「泡の出る麦の液体はあるだろうか」
「ハイヨーだワン! ……大人の麦コ、いっちょ前にアガリだ、ぜ?」
 通じたようで、すぐに機械にガラスのジョッキを傾けて液体を注ぎ、渡してきた。ジョンは頷いてその二層に分かれた飲み物を受け取った。マスターが「よくわからないことを言っていたらよくわからない部分を抜いて聞いていいからね。残りがゼロの時は聞き流していいからね。キャットとかジャガーマンとか」と言っていた。どちらかな気がする。
 若やいだ自分であれば椅子が硬いのこんなところで食べれないの給仕をつけろの騒ぐところだが、もはやそのような繕いも面倒な身なので、空いている折りたたみ椅子とテーブルを占拠する。なるほど泡は出ている、というか上に層になっているのでかなり出ている。
 ジョッキを傾けてみた。まず泡は普通に邪魔だった。泡が口に空気をためていくし、残る。見栄えで入れているだけかもしれない。
 ようやくたどり着いた飲み物の層はやたら冷たい。果実酒の様な色ではあるが、味は甘みもなく金気が強いと言おうか、苦みが絡む。美味いかまずいかで言えば美味さの方はよくわからない。
 口につく泡を手巾で拭いながらちびちびと傾けていると、ちらほらと視線を感じた。不調法だっただろうか。しかし頼んだのだから最後まで飲むのが道理であろう。
 やはりよく食堂にいるエミヤというサーヴァントが話しかけてきた。
「余計な口出しだったら許してほしいが、そのような泡が層になる冷たいビールを飲むのは初めてだろうか?」
「ああ。今日初めて口にする」
「やはりか。飲み方にケチを付ける気は全く無いのだが、多分その飲み方ではあまり良さを感じられないだろうから、よければ少し教えようか」
 それは願ってもないことだ。例を述べると、恐らく周りで聞き耳を立てていたサーヴァントが、わらわらと寄ってきた。
「こういうビールは喉越しを楽しむとよく言われる。最初の泡は突っ切る感じで、まず水面に当たったらぐっと」
 エミヤが説明し、柳生但馬守が口を添える。
「もし味や炭酸の刺激が苦手であれば、泡で一度こおてぃんぐ、する感じで、水面の手前から流し込むといい」
 カッツの姉、信長が、簡素な服に何故か楽器を手に通りかかった。
「ぬるいとイマイチじゃからな。ぬるくなる前に飲むのがよいぞ」
「喉越しと言っても、あんまり大量に流し込まないほうがいっすよ。むせるから」
 やはり通りすがりの原田左之助が口を挟んだ。
 次から次のアドバイスに埋もれながら、何度かその喉越しを意識して傾けていると、ふと、これか、という感覚を掴んだ。
「ああ。……わかった、気がする」
 集結したサーヴァントたちは、それぞれが満足げにうなずき、見届けたというように散っていった。居座られても相手を出来ないので助かる。
 これなら壱与にも、若やいだ自分が報告できるだろう。
 エミヤにカラアゲという鶏肉の料理を山盛りに渡され、ビールに合うと言われた。骨に当たると危ないので最初の一口は慎重に齧ったが、カラアゲの肉は基本的には骨はないと教わった。香辛料をふんだんに使った塩気の強い衣と柔らかい肉で食べやすい。
 ビールだけを何度か飲んでいると、カラアゲは好みでレモン汁を合わせるが、同じ理屈でレモンサワーとも相性がいいとおかわりの際に勧められた。確かに合うので2杯ほど続けて飲み、レモン以外にもサワーがあると分かったので何種類か試す。
 ノアにワインの話を振られて、味はわからないと伝えたがスパイスを混ぜて温めたものが回ってきた。
 度数としてはそう高いものは飲んでいないはずだが、間違いなく飲み過ぎであり、酒は無情に回ってきた。耳がボワボワとして聞こえにくく、世界が自分と世界を別軸に回り始め、壁により掛かると、白いノイズが視界を占拠しだす。