錘(つむ)
2026-06-19 23:59:21
7000文字
Public
 

バッカスに花の冠を

ジョン王がビールとか飲みすぎる話 ギャグです 色々と許してください カプと言うほどまでではないと思いますが生産元がリチャジョなのでおきをつけください


 酒の作用には様々なものがある。
 明るくなる、暗くなる。口が軽くなる、泣きだす。酒乱などはわかりやすく迷惑だが、顕著な酒癖でなければ酒の悪作用は見過ごされがちだ。
 酒の恐ろしいところは、思考能力の低下と言えばそれまでだが、よく吟味せず判断させることである。そして、酒席には酒が豊富に用意されている。その契約書の内容を読まずにサインをしまくるような愚挙は、眼の前にある酒に向けられるのだ。
 普通の思考能力があれば、今までの経験から照らし、やらかしを始める酒量、翌朝体調が悪化する酒量を把握できているはずなのだから、そこでやめておけばいい。それを実践できずに二日酔いに苦しむ理由は、酒そのものが限度を超えて飲ませる性質を持っているからにほかならない。
 つまり酒はとても悪いのでほんとうによくないし限度を超えてのんでしまうのは酒があるせいでもうこれは明日は終わった
 肩を軽く揺すられて、目を開ける。蘭陵王と秦良玉が覗き込んでいた。二人ともさほど酒は過ごしていないようで、楽しみに来たと言うよりは様子を見まわっているようだ。
「ここで寝ないほうがいい。立てますか?」
 蘭陵王が白い手を差し出す。
 ぼうっとしてしまったが、その表情を不服ととられたのか(生前からよくあることだった)、秦良玉が口を添える。
「さっきも、荊軻さんがジョン王の寝顔を覗き込んでいて。ご存知ですか、荊軻さん」
 知らないと答えると、二人はそれぞれ難しい顔をした。
「王を暗殺するのが仕事……、趣味……、いや、ライフワーク……?、そういう感じの、酒好きの方で」
「厄介な、酒癖だな」
「いや、酒癖だろうか、あれは。王ならだいたい狙うのだから仕事というよりもはや性質では」
「どうなんでしょうね。だいたい酔ってますからね」
「ジョン王、だな」
 突然、瞬間的に姿を表したかのように、白い頬を酒気に染めた女人が見下ろしていた。ここまで気配を消していたのだろう。酔って見えるが、只者ではない。
「荊軻さん!」
 蘭陵王は凛々しく庇い、秦良玉はすばやく応援を呼びに行った。
 荊軻は大輪の花のように微笑むと、この至近距離で何故か投げキスをした。
「イっエーイ! やっと起きたかー! ご紹介に預かり光栄な荊軻ちゃんでっす! 匕首とキッス☆ もう一〜度〜。あれ、待てよ。YOU暗殺されたことある?」
「未遂なら幾度も」
「これはすまないな。お詫びの印にファースト匕首キッス、いっとく?」
「遠慮する」
「そう言わずに。王なんでしょ〜、わかるよ。殺したいぜベイベ!」
 ジョンはなるべくなら誰かになんとかしてほしいが命じでもしない限り積極的に助けるものなどいないだろうから感情を消してやり過ごしているときの顔になっている。
 間をおかず、秦良玉が連れてきたベオウルフやナポレオン、呂布などが酒盃を置いて駆けつけ、刃物を虚空に振り回す荊軻を引き離していった。
「この伝説の酔っ払いをしまっておくんだ、下手すると次回我々がまとめて出禁になる」
 ナポレオンの言葉に、女海賊が素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「えー!? 出禁になるとしたら荊軻さんだけでは?」
「そんなに丁寧に仕分けしてくれないよ、アン」
 相方に指摘され、アンは「そんなあー」とぼやきならが一段に加わった。
 見ているだけのトリスタンがなにか大事なことのようにどうでもいいことを言う。
「なんで言い回しが微妙に英語っぽいのでしょう……
「さあ……合わせたつもりなんじゃねえのか」
 引っ張っていく途中のベオウルフが適当に返した。
「はーなーせー! あの無防備な寝顔は誘ってたんだー! 匕首をー」
 呂布がなにか、人語ではなさそうな言語で恐らくたしなめている。
 蘭陵王が振り向き、肩越しに伝えてきた。
「すみません、あの方は我が国でも故事になるほどの酒癖でして。……今のうちに戻ってください」
「感謝する」
 立ち上がると、酒精がごっそり回る感覚にくらくらする。酔って立ち上がって倒れる無様だけは何とか耐えた。少し休みたかったが、このまま居座ると迷惑をかける。
 それにしても、自分でもわかるレベルで酒臭い。明らかに飲み過ぎである。
 だいぶ出来上がった集団は盛り上がり、潰れているものもちらほら発生している会場の大部屋を出る。少々フラフラするが、多少直線移動が斜め方向にズレていたとしても方向さえあっていれば部屋にたどり着く。最悪壁を辿れば帰れると、ノイズ多め視野狭めの世界を歩こうとした。