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どそ
2026-06-18 01:39:37
30067文字
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明順応
botw中の話
6月に出す本に乗っけたい話の進捗置き場でした 6/21完成
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4.
対峙していた機械仕掛けの兵が軋むように震えた。
体に亀裂が走り、白い光が輝く。内側から音と共に爆ぜると、外殻の破片がその場に崩れ落ちた。爆風で飛び散った歯車や細かな部品が石畳に跳ね、軽い音を立てる。硝煙の匂いはすぐに風で流れて消えていった。
ふう、と息をついて辺りを見回す。城下町のそこかしこで聞こえていた駆動音はすっかり消え、動くものは見当たらない。思ったよりも時間が掛かったせいでもう日が暮れつつあった。手傷を負ったりはしていないが、少し疲れを感じ始めてはいる。
(今日はもう休んで、城に入るのは明日の朝にしよう)
佇んでいる城の周りでは、ここから見える範囲でも飛行型の機械兵が何体か動いていた。彼らが眠ることはない。特に夜に攻め込む利点が無い上、城内の状況が分からないなら、今のうちにしっかり休息を取っておくのがいいだろうと思った。
城の正面に築かれた、堅牢な城壁の中に踏み入る。魔物が居ないことを確認してから腰の荷物や盾を床に降ろした。
いくらか持ってきていた薪を積み、薪の横に少量の乾いた松葉を寄せて、その上で火打石を打ち金に擦って火花を落とす。何もかも忘れていた頃、台地で老人に火の付け方を教わったのが、ひどく昔のことのように感じる。勢いを増して揺れる炎を眺めながら、そんなことを考えた。
指を軽く擦る。微かに電流のような閃きが指先に走る。水の流れに浸っているような感覚も、目を閉じて意識を集中させれば身体のどこかに残っている。硬い岩に背をつけているときや、風が自分ごと草や葉を揺らしているときの感覚もそうだ。
力を少しの間借りている。肉体を持たないからもう使えないんだと託された力だ。本来の持ち主を離れて、今だけ自分のところにあるそれらはきっと、近いうちに彼ら彼女らの元に還っていくのだろうと思った。たぶん、使命を果たし終えたら、その時に。
城下町の方に視線を遣った。崩れた何かの建物の群れを薄く茜が染め始めている。
(
……
少しの間だけ町の中を見ておこうか)
ふとそう思い立って身体を起こした。立ち上がり、城壁の外に出て辺りを見渡す。明日起きて、腹ごしらえだけしたらまっすぐに城に向かう。城内に入る前にじっくりと町の様子を見ておくなら今しかなかった。
(暗くなり出したらやめよう)
思いつつ、壊れた木箱や樽が散乱する横を通り抜ける。幅の広い坂はかつては馬車が通ることも多かったのだろう。
昔は非常に栄えていて賑やかな場所だったらしいと誰かが言っていた。道沿いに残っている壁はどれも煉瓦でできていて、柱や屋根に木を使っていたようだった。だから残っている部分が多いんだろうか、近くに寄って見上げ、そこでようやく気付いた。さほど高さもなく並んでいる建物は、元は二階ないし三階立てのつくりだったのだろう。
壁がほとんど崩れて空や向かいの建物が見える。屋根の青い瓦が剥がれ落ちている。柱がいくつかひしゃげて全体が傾いている。それを一軒一軒、訪ね歩くように見ていった。
(何か、思い出せることはないか)
自分に訊いてみる。ものによっては土台さえ大きく削れている。壁の内側に土が入って草で覆われている。
旗が下げられた柱、石畳で舗装された道、道沿いにある石の塀。目にするもの全てが欠けて崩れていた。僅かにさえ何も浮かんでこないまま、崩れた壁に触れてみた。
辺りがいよいよ暗くなり始めて、少しずつものが見えにくくなってからも、町の中を歩き続けていた。窓枠の傷だとか、窪んだ壁だとか、そういう小さな欠けが薄闇に溶けてわからなくなる。完全に日が沈んで町が闇に包まれたとき、ふと、我に返って顔を上げた。
――
松明でも持ってこようか。一瞬そう頭に浮かんで、首を振って立ち上がった。
(
……
際限が無くなる)
もう寝よう、と思った。来た道を戻り、さっきまで見てきたものの横を通って、焚き火の近くまで帰ってきてから町の方を振り返る。
しんとした静けさが広がっている。この町の元のすがたも、そこに暮らしていた人々のことも、ほとんど思い出せていない。けれどどうしてか、小さな灯りの一つさえ見えないことがひどく寂しく感じられた。
城壁の中で、焚き火の側にまた座り込む。外套にくるまるように身を横たえ、丸まって目を瞑った。
なにか、夢を見たような気がした。
誰かが、何か喋っているのが聴こえてくる。
ざわざわとした話し声は一人のものではない。複数人、もしかしたらもっと多くの人がそこに居るようだった。
辺りはうっすらと明るい。体を動かすことはできなかった。声の大きさからすればさほど遠くはないはずなのに、ざわめきはひどく不明瞭だった。そのせいか囁いているようにも聴こえる。
うっすらと知っている声、聞いたことがあるような声。知らない声。
まどろみの中に居続けている。目が覚めない。だから、これらは現実に聴こえているものでは無いのだとわかった。
ひとの気配よりも、もっと透き通って軽く、決まった形をもたないものが遠くで揺れている。
きっとこれらは今だけ形を持っているんだ、とぼんやりと思った。まだ辺りが暗いからそこに在る。光の中では、朝日に照らされれば、もうどこにも捉えられなくなるのだろう。
『思い出すのは、怖いと思うか』
インパに言われたことが頭に浮かんで、そんなことないよ、と心の中で呟いた。いま分かった。
焼けたパンや肉の匂い。人で込み合っている道。こっちに気付いて手を振ってくれた誰か。
断片でしか浮かんでこないけれど、それら全部を、自分は好きだったんだと思い出した。そしてそれを全て失ったことも。
でもそれは本来、ずっと昔に起こったことだ。半透明だったものが透明になる。ただそれだけだ。
形も匂いも分からなかったものが、ぐんと近づく。最後にそれらにしっかりと触れることができる。そうして今度こそ遠ざかる。
じゃあね、と呟いた。
もしかしたら、また、どこかで。
身体の下に硬い石の感触を感じて目を開けた。
城壁の外はもう明るくなっていて、入口から陽の光が差し込んでいる。手持ちの食料で簡単に作れるものを食べ終えてから、剣を背負い、弓や矢筒と一緒にいくらかの荷物を腰に結んだ。
入口から外に出た途端、眩い朝日が目に飛び込んできて思わず目を細める。すぐに目は慣れて、再びはっきりとした視界には、昨日と同じでかつて家屋だったものの瓦礫がいくつも並んでいた。
光が、井戸の跡や土に埋もれた煉瓦を照らし出している。粉々になった扉や大きく抉れたような物見台も、陽の下でどこまでもはっきりとしていた。
塀を越え、城に繋がる道を進む。青く乾いた空の中、遠く四方から伸びている赤い光が城の中心に集まっている。
そこで彼女が待っている。
遮るものがないせいか、後ろからの風が強く吹いてきた。
王国を示す旗を揺らし、背中を軽く押すようにして、横を通り抜けていく。
町をもう一度だけ振り返る。そうして、城の方に足を踏み出した。
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