保科
2026-06-08 01:35:46
15522文字
Public 超かぐや姫!
 

きつね一匹、部屋の中

かぐいろ かぐやと目が覚めたら部屋に居たキツネのお話/獣化パロです!時系列は9月の1週目後半くらいでお願いします

そのうちキツネをディスプレイ越しに甘やかすヤッチョがめっちゃ奮闘する時とはあるかも
→書いた ヤチいろ ギリ付き合って……ない……?

6/14 なんか続いたの書いた かぐいろかぐキツネ

かぐやとキツネ


目を覚ますと、目の前にキツネがいた。
―――
キツネ、キツネだ。黒みがかった茶の毛の、ふわふわの、かぐやの身の丈の半分はありそうな大きさのキツネ。彩葉の服の中で丸まって、かぐやの隣で寝ている。
「え、やば、かわいー……
起床1秒、かぐやは突発異常事態にもう目ェぱっちりだった。スッキリさわやかな目覚め、いやなんじゃいこれは。
状況の読み込みに数秒、先日調べた鳥獣保護についての資料の内容の参照に数秒――敢え無くライバー卒業が決まっちゃったかぐやのかわりに、猫ちゃんとか置いていこうかと思ったらこのマンションはペット不可だから断念したのだ――え、もしかしてそんなかぐやを察しての彩葉のサプライズとか?そういう気遣い?そんなわけない。どんな因果逆転。
昨日は、曲作りに疲れ果てた彩葉を無理やり布団に押し込んで、そいでかぐやも同じ布団で一緒に寝た。目が覚めたら、この状況だ。変哲なこともなく、当たり前の日常の中。
わたしと、きつねが、ふとんにいる。……当たり前じゃないこと。
そこから推理できることというか――まあ月人として、目の前の生物が何者であるか、見抜けぬはずもない。構造が変わろうが、彼女は彼女でしかなく。
――……いろは?」
だから、答え合わせの名前を、おずおずと口にした。それを契機に、ゆるく、キツネが眠りから目を覚ます。
「キュウ……、」
それがおはよう、といったのか、模倣対象であるヒト以外のコミュニケーションに疎いかぐやには定かではないけれど。弱々しく鳴いたキツネがもぞもぞと動く。誘われるように、思わず、手を伸ばして頭を撫でる。あ、毛ってちょっとだけゴワゴワなんだな。と、そんなことを思った手の先――キツネの体が不自然に硬直する。そして、鋭い一鳴き。
「キャウ!?」
「うわぁ!?」
慌てて手を離す。途端、キツネは彩葉の服を吹き飛ばしながら大きく飛び退ると、全身の毛を逆立てた。ぶわ、と膨らむ尻尾、真ん丸の目のまま、踵を返すと彼女がいつも使ってる勉強机の下に飛び込む。勢いよく蹴り飛ばされたキャスター付きの椅子がかぐやの横に盛大にドンガラ転がる。驚かせちゃった、ど、どうしよう。ぐるぐる、暗がりから聞こえてくる唸り声は警戒一色だ。
「い、いろは!ごめん、えっと」
今、何が悪かっただろう。わかんない、から、考える。かぐやにはそれしかない。いつも急に抱きつくと怒るし、今回もそうなのかも、……いやでも最近はまんざらでもない気もするし。それか、姿が変わってること?ヒトが別の姿に化けることが稀なのは、知っている――決して覗いてはなりませんよ、という、かぐや姫と同じ御伽噺のセリフを思い出す。彩葉も同じ?見られたくなかったの?
彩葉は今、きっとめちゃくちゃ焦っている。でも、それは私に向けられた警戒であって、自分の身に起きた異変への困惑ではないように見えた。彩葉は何が起きたか知ってるから、それをかぐやに知られたくない……
――ああもうやっぱり考えたって分かんない、でも、とにかく落ち着けないと。
「かぐや、もう、触らないから!ね、大丈夫、ごめんっ」
机の下の隅っこで、変わらずぐるぐる唸るキツネへ、ね!ね!と幾度となく言い聞かせる言葉はなんとか届いたようで。
程なく、徐々に落ち着きを取り戻してくれた――かぐやが取るべき対応は、ひとまず合っていたっぽい。
机の下の隅も隅で。大丈夫、をかぐやが繰り返すたび、逆立っていた毛が垂れていき、膨らんでいた尻尾が細くなり――そうして、顔も体も低く伏せられた。怯えるように。
「大丈夫――大丈夫だよ、いろは」
「キュウ……
ぺたり、と。額に張り付いた耳が、その弱々しさがあまりにも可愛くて、うっかり手を伸ばそうとして――いや、いやいや、と、かぐやはもう片方の手でそれを抑える。一瞬で言ったことを反故にする気か。極力、明るく聞こえるように、かぐやはテンション高く声をかける。
「ごめんごめん、急に触って驚かせちったよね〜、いやぁ、かぐやってほら、新しいものとかすぐ興味津々だから?ご覧の通りの宇宙人ですのでついうっかり?」
………
「だから、えっと……、うっかりで、ごめんね。怖かったよね。えっと、えっと。……か、かぐや、部屋、出てるから。その、何かあったら――いや何かあったんすけどねぇ!?」
特大の事象が進行形でしょうが、と慌てるかぐやの間抜けぶりが障ったのか、キツネはほんの少しだけ顔を起こす。
じ、と、見定めるような――いや、困ったような視線は、いつも、彩葉が浮かべているものと同じだ。だから、自然と口をつく。
……彩葉が、謝ることじゃないよ?」
そうだろう、事情は分からないけど、きっとこれは、かぐやに遠慮することじゃないはずだ。つい、こぼれ出た言葉に。ぱち、とキツネが瞬きする。何で言いたいことが分かるの、――そう言うみたいに、不思議そうに。
こういう時、分かるよ彩葉のことくらい、って、彩葉みたいに言ってあげたいのに、でも、今のかぐやはそれ位しか分かる気がしないのだ。彩葉はきっと、かぐやの言葉、分かってるのに。
あーもう、情けなくて、不甲斐なさに視線を落とす。一方的に、気まずすぎる。
………えーーーーとぉ。
かぐや、リビング、いるから。
何か、へへ、あっしでも役立てそうとかでしたなら、来てくだされば……
今の彩葉を放ってなんて、正直おけないけれど――でも。今しがた、彩葉に嫌な思いをさせたのはかぐや自身なのだ。もう少し、距離を空けて落ち着けてあげるべきだろうと、そういう分別はかぐやにもある。もう、備わっている。
彩葉を極力刺激しないように、目を扉へとそらしながら、部屋を出ようとして。――するり、不意に、ふくらはぎをなでる柔らかな感覚に足を止める。
左の足首を囲うように、いつの間にか、机の下から出てきていたキツネが――彩葉が、体を寄せて、こちらを見上げていた。じ、と見上げる目が合う。身動きが取れない――下手に動けば踏んでしまう――取れなくて、だから、そのまなざしが孕む意図は何よりも雄弁だった。
――ここにいていいよ。
「い、……彩葉ぁ!」
たまらず抱きしめようとしたら即座にひらりと躱された。くそぅ、動物でも素直でない。



頷くと首を振るはできる、そんなキツネ彩葉に、かぐやはイエス・ノーの問いを投げることにした。
「彩葉、だよね。人間……戻れるの?」――イエス。
「誰か呼んだほうがいい?その、……お母さんとか……――ノー。
「大丈夫?その姿で苦しいとか、ない?」――イエス。
「今日、お休みだけど。病院とか、そーゆー連絡、なんか必要かな」――ノー。
「彩葉。落ち着いてる。……こうなっちゃうの、彩葉は知ってた……?」――……イエス。
――分かったこと。かぐやには何もできない、ということ。それ以上確認できることを考えて、答えが出なくて、それで結局一番聞きたいことを聞くことにした。
……撫でてもいい?」
最初の約束を反故にする、そんな最後の問いだけ、彼女は動きを止めた。
布団の上に足を崩して座り込んだかぐやをみながら。正面、行儀よくおすわりの体勢をとっていた彩葉はピクリと耳を震わせると。のそりと立ち上がる。
てちてち、かぐやの前までやって来る。細まった目で私をじっと見つめて、キュウ、と一鳴き。
イエスでもノーでもなく。……察しろ、と言わんばかりの態度はまさしく彩葉のそれで――かぐやが、そういう時どうするかなんて決まっていた。つまりは感情の赴くままに。
「ほぅわぁ………
ためらわず頭を撫でる。抵抗されることなく、ぱた、と尻尾が揺れた。顎下を撫でる。きゅう、と甘やかな声。――かわいい。なにせこちとら動物かわいさに犬DOGEまで作っちゃってる身の上なのだ、彩葉どうこうを抜きにしたってアニマル大好きっ子だ。背中を撫でて、足を触って、わしゃしゃと全身撫で回す。ぎゅう、と彩葉が何かをこらえるように鳴くのがいじらしくて、思わずだっこするように抱き寄せた。あっやべーと思いつつも抱き寄せた以上その手は止まらない。持ち上げれば見た目より全然軽い。彩葉と同じだ。
――きゃう!?」
悲鳴じみた声を上げた彩葉は、当然、ぶわわ、と毛を逆立てて、けれど、さっきのように飛び退ることはせず、かぐやの腕のなかでじっとしてくれていた。どうやらかぐやは、許された、らしい――胸の中が、彼女の鳴き声みたいに、きゅう、とうれしさで一杯になる。
ふすふす、肩に乗った頭から、耳元に聞こえてくる落ち着きのない呼吸音をききながら、その背中をかぐやは撫でる。
……ふわふわだねぇ彩葉」
よくよく嗅げば、彩葉の使ってるシャンプーの香りがする。安くてシンプルな清涼感のある香りは、彩葉っぽくて好きだ。状況は不思議だけれど、でも、なんだか面白いしこういう彩葉もかわいいなぁ、って間抜けたことを考えていれば。背中にふわりとした感触――体にしっぽが回されてる。無意識かな。意識してかな。
「んひひ。――かわいーね」
……ぎゅ」
声に出た褒めそやしに、彩葉はなにか言いたげに呻く。次の瞬間、ぐ、と、頬に顔が寄せられる――目の近くで、ピクピクと震える耳がくすぐったくて、ああ意識してる方なんだ、と、思わず口元が緩んで――
「んぇ」
「あ」
突然。重みを増したそれによって、かぐやはなすすべなく背中から後ろに倒れ込んだ。幸いにして布団の上だから痛いとかはないけど、ええと、なんかふわふわだったはずの彩葉がすごいぬくくてやわらかくてなんか、この、胸元にあたるふんにゃりした双丘は、
―――
べしり。瞬きより先にかぐやの視界が人肌でふさがれる。なんという神業。彩葉の手だ。
「かぐや」
いつもの彩葉の声だ。ちょっと硬くて焦ってる。キツネから戻ったんだ。よかったね。なぜか言葉は声にならない。
――いいって言うまで目、閉じてて」
…………ぅい」
手が、身体に乗っていた重みが離れていくけれど、閉じたままの視界は真っ暗だ。引きつったみたいなみょうちりんな返事がまろびでたのは、キツネの周りに散乱した彩葉の服のことをよく覚えていたからで、だからつまり、今の、彩葉は、えーーーーーと、いやお風呂とか入ったことあるし?別に?そんな特別あれこれどうとか、
……、いいよ」
「アッハイ」
一体何分考えていたのか。無駄な思考を断ち切って言われるがまま目を開ければ、硬い顔の彩葉がくちゃくちゃのパジャマを着て、正面に座っていた。誰かやったのか、撫で回されまくったかのようなボサボサの髪を手ぐしで直している。
…………
…………
気まずい沈黙を先に打ち切ったのは、彩葉だった。
……一応、説明しますとですね」
「うん」
ぜひともぜひとも。手で促すと、彩葉は言葉を選ぶように、慎重に続けていく。
「体質、みたいなもので……ずっと発症してなくて、まさか再発するとは思ってなかったから、ごめん……
「体質」
地球人ってそんなのあるんだ。もうすぐ2カ月になるけど知らなんだ。はぇーという間抜け顔で鸚鵡返しするかぐやに、彩葉はため息交じりに続ける。
「私が特殊。かなりのね。
ストレス値?みたいなところが一定になると、なるんだよね……キツネ。原因が解消されると戻るんだけど。目の前で人間が化けて、どう思った?」
「はい!なんかすっごいめっちゃかわいかった!」
「そのアホみたいな感想で何もかも片付ければいいんだけど一般通念的には突然アニマル化するのは異常事態なので、隠さないとなんですー。というわけで黙ってた。ごめん。
てかこのあたりの気配り、最近すっかり忘れてた……あーもう、本当、かぐやにこの姿見せる気なかったのに」
なぜか落ち込んでいる彩葉。いやいやなんでだよ。
「もー、そんなこと言わないでよぉ。
かぐやは見れて触れて嬉しかったよん?こっちだってほら、正真正銘ヒトガタに化けてる宇宙人なわけですし。彩葉もかぐやとお揃いだねっ!」
……あー、その視点はなかったな。……そっか、お揃いか」
かぐや式の即興ライトな和ませに、彩葉はやっと口元を緩めた。よかった。ついでとばかりに、かぐやは畳み掛ける。
「ね、また見れる?キツネ彩葉、かーわいかった!」
「見れません見せません。事故です事故。
やっぱ薬、ちゃんと飲んどかないと……うっかりしてたわ」
「えー!」
「えーじゃないって。マジで起きたら良くないんだってこの現象は。
はぁ、朝からめっちゃ疲れた……
ぐったりと肩を落とす彩葉に、かぐやはぶうたれた態度を取りつつ、ねえ、と追及する口を開くか迷って、やめた。なんとなく、答えが分かったような気がするからだ。
……かぐや?」
「うー、今!写真撮っとけばよかった〜という後悔と戦ってるから!ちょっと待って!」
「撮らせいでかあんな……恥ずかしい姿」
「彩葉に恥ずかしい姿なんかないよ!キツネでも全裸でもかわいいよ!?」
「おまっ……それマジでかい声で言うな!え、てか、見てないよね私の裸!?」
――ねえ、彩葉。ずーっと、発症してなかった、キツネになっちゃうくらいのストレスの原因って、私なの?とか。
それも、原因が解消されれば戻ると言ったのが、本当ならさ。さっき、彩葉が元の姿に戻るトリガーになったのって、なら、私があなたに与えてしまった原因の正体は――とか。
視界の端のカレンダーに赤ペンでぐるぐるにされたラストライブの日は、もう1週間後に迫っている。そんな、出来もしないあなたのためにしてあげたいことを沢山、沢山考えて。あーあ。
ふさがれたまま、見えないふりをする。