サブさぶれ
2026-05-31 12:58:03
12852文字
Public パロディ
 

【パロディ】幼馴染現パロSS集

幼馴染現パロのSSの詰め合わせです。
ページリンクから作品に飛べます。



花とエチュード


 幼馴染のスグリ君は七歳年上のお兄さん。三歳の時に初めて会った時から私の王子様だった。兄・ハルト君のお友達で、小学生の後半になっても幼稚園児の私に付き合っておままごとのパパ役をやってくれる優しい人。スグ君はお姫様ごっこにも付き合ってくれた。
 絵本に描いてあった王子様は、片膝をついてお姫様にバラの花を差し出してくれるの。私はそれに憧れて、どうしても誕生日にやってほしいとねだりにねだった。
 スグ君は恥ずかしがりながらも「おたんじょうび、おめでとう。アオイちゃん」って、頑張って探してくれた四葉のクローバーを差し出してくれた。スグ君は本物の王子様よりステキだった。
 五歳以降も、私はスグ君にワガママを言って誕生日にはバラの花が欲しいと伝えている。スグ君は「バラの花はまだあげられない」と言って、毎年別の花を片膝をつきながら渡してくれる。
 でも私は知っている。スグ君が私の誕生日近くになると毎年図書館に通い詰めてることも、渡してくれる花の意味も。
 カスミソウ、ひまわり、ピンクのチューリップに赤いガーベラ、白いストック。イキシア、赤いキク、ゴデチア、紫のアネモネ、ライラック、桔梗、千日紅、シラー、ブルースター、アングレカム。
 マイナーな花なら分からないって思ったんでしょう。でも、私も同じ花図鑑読んで勉強してたんだよ。

 スグ君は引っ込み思案で大人しくて、昔からお友達の数も少ないって自嘲してる。だけど、私が小学一年生になる頃には背が伸びて、優しい性格なのがだんだんバレ始めて、モテるようになってきた。
 興味ないよ、おれ、好きな人なんていないし、いらない。
 詰襟のスグ君は、公園帰りの私を家まで送ってくれながらそう言ってた。キレイな顔が身長差のせいでどんどん見えなくなっていくのが寂しくて、抱っこしてとワガママ言って困らせた。スグ君はやっぱりふわふわと笑って「はい、お姫様」って軽く抱き上げてくれた。
 好きな人なんていないしいらない、と言われて悲しかったのに、夕焼けの中、私と目を合わせないスグ君の赤く染まった顔がなんだか少しくすぐったく感じた。
 ハルト君とスグ君のお姉ちゃんがお付き合いをしだした頃から、スグ君はお休みの日に私の家に来るようになった。
「ハルトはいいよっつってんのに、ねーちゃんが公園でも行ってろってさ。理不尽すぎんべ」
 とほほ、と肩を落として、勉強道具とお菓子を持ってきてくれた。
 でも私は知っている。この頃、不審者とか悪い人のニュースがたくさん流れてて、スグ君はママもハルト君もいない、家に一人きりの私を心配してくれてたんだって。玄関から音がする度、不安げな顔を上げてたのを思い出す。なのに私は、スグ君と一緒にいられるのと、スグ君が心配してくれてたのがすごく嬉しくて、ずっとニコニコしてた。
 スグ君の好きな人じゃないかもだし、スグ君からは触れてくれないし、どんなに誘っても私の部屋にも決して入ってくれないけど、それでもスグ君の心には私がきちんといるんだって思って、嬉しかったから。
 せめてもの気持ちを、習いたてのピアノを弾いて伝える。スグ君は私がどんなにつかえても「アオイちゃん、上手だな」って褒めてくれた。
 スグ君が家に来なくなった頃——私が小学六年生になる頃には、練習曲はとっくに卒業していた。

 大学生になったスグ君は相変わらずモテる、かと思いきや、そうでもないらしい。ハルト君曰く「俺、ロリコンだから同い年無理」とあしらいまくってるらしい。好きな人がいる、とは相変わらず言ってくれなかった。会う度に「スグ君好き! アオイと付き合って!」って伝えてるのに、毎回「うんうん。ピアノ今でも習ってんの? 今度聞かせてな」って雑にかわすだけ。年に一回の誕生日プレゼントだけが、彼の心を知る術だった。
 けど、決定的と思える出来事だってあった。スグ君が二十歳になった直後、私の家でハルト君と初めてのお酒を飲んで酔い潰れた時。深夜一時のリビングで、スグ君は机に突っ伏していた。
「寝てる?」
 寝息を立ててるハルト君に毛布をかけてから、スグ君の隣に座る。赤ら顔から吐き出される息はお酒臭かった。ぼやけた金色がのろのろ私を捉える。
「アオイちゃん、」
「なに?」
「ほかに好きな人できたら、すぐ教えてな?」
「どうして?」
……どっか、知らないとこさ、ひっこしたいから」
 淀みなく告げる。瞳が伏せられる。長い睫毛の細かな動きを観察しながら私は答えた。
「じゃあスグ君は、ずーっとお引越ししない人生だね」
「どうだべ」
「ダメ。ずっと引っ越さないで、アオイのそばにいて」
 大人の人のゴツゴツな手を撫でる。スグ君は自分からは触れてこないけど、私が触るのは拒まない。いつもそう。だから余計に不安になる。
 スグ君が顔だけ起こした。
「本気にするよ」
 ギラリとした、怖い瞳が向けられる。スグ君ってそんな顔もできるんだって一瞬怯んでしまったけど、全然平気ですよって顔して手の力を強めた。
「して」
 とろんとした瞳がやにわに移ろう。それから、ふっとほどけた。
「んだば、アオイが二十歳さなって同じきもちなら、そん時は薔薇わたふな」
「今すぐちょうだい」
「ダメ……。おとなさなんまで、がまんするって……
 スグ君が意識を保っていられたのはそこまでだった。すうすう、大人しい寝息が聞こえはじめる。後ろにまとめた髪がほつれて影ができる。空いていた手で黒と紫の髪を避ける。大人の顔のはずなのに、あどけなさも残ってて、かっこいいのに可愛くてキレイな、ずるっこな顔。少し乾燥してる薔薇色の唇。……まだ何も知らないでいてほしい。我慢なんてしないでほしい。そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
 はじめてのキスは、お酒の味がした。スグ君はすやすや寝息を立てるばかりで、ぴくりとも動かなかった。
 でも私は知っている。スグ君、この時本当は起きてたよね。だから次の朝「酔ってない?」って真っ赤な顔で聞いてきたんだよね。何のこと?ってとぼけたけど、しきりに唇を撫でるスグ君から目が離せなかった。
 はやく、大人になりたい。時計を回せたらいいのにって、毎日、毎秒思った。

 中学を卒業して高校に入り、スグ君たちは社会人になった。ハルト君とゼイユちゃんは結婚して、スグ君は会社近くのアパートに引っ越した。遊びに来ていいよ、とは言わなかったけど、スマホで地図は見せてくれた。一駅しか違わない場所だった。
 会えない日が増えた。その分メッセージをたくさん送り、スグ君はその全てに律儀にお返事してくれた。
 ママと喧嘩して家にいたくないって言ったら、平日の夕方だったのにドライブに連れてってくれた。何も聞かないし、余計なことも話さないところがますます好きだと思った。だから、いつもみたいにそのまま伝えた。
 好きだよ。大好き。ずっとずっと好き。スグ君しか見てない。スグ君の彼女になりたい。キスしたい。その先だってしてみたい。同級生はもうしてるんだって。だから私もスグ君と……
 ぽつぽつ、恥ずかしいおねだりまでしてみる。スグ君はやっぱり、
「ダメ。アオイんこと、絶対大事にしたいから。まだダメ」
 と突っぱねた。けれども結局泣きやまない私に困り果てて、首からお腹の間だけだったら好きにしていいよって許してくれた。
 ちょっとくったりし始めたワイシャツに頬を寄せて、肩に額を乗せる。スグ君は狭い車の天井を見上げていた。三つ編みが首筋をくすぐっても、スグ君はたじろぐこともなく、私の気が済むまで身体を好きにさせてくれた。——踏み込む勇気なんてないから、ただひっついてただけだったけど。
 街の灯りが増え始め、星も薄らぼんやり観察できるようになった時間になって、私はようやく気持ちに一区切りを打てた。スグ君はママに「こんな時間まで連れ出してごめんなさい」と頭を下げた。ママは私に「あんまり困らせちゃダメよ」とだけ言った。
 またね、と手を振るスグ君をまともに見られなかった。メッセージを送る頻度を下げた。困らせたくなくて、距離を置いた。
 スグ君は変わらなかった。四日に一度くらいの頻度で、道端の花の写真に感想を添えて送ってきたり、思い出したように映画や水族館、美術館に誘ってくれたり。ひたむきに、密やかに、私を見つめてくれていた。
 誕生日には変わらず片膝をついて「おめでとう」とうっとりしちゃう微笑みを添えて、一輪だけの花をくれた。
 何歳の頃からか忘れちゃったけど、恋は愛に変わっていた。
 伝えきれない気持ちをどうにか鍵盤に乗せた。甘く優しく切ない旋律ばかり上達していった。一駅先に住むあなたに届きますように、と無茶な願いを込めて弾く曲たちを、あなたがくれた花たちだけが聞いていた。

 そして今日。二十歳の誕生日が来た。
 これまでもらった花たちは、すべて大切に押し花にしてある。一本一本、花言葉もきちんも書き記して。スグ君の気持ちの変遷を噛み締める。そんなに変わってないけど、それが逆に嬉しい。スグ君はずっとずっと、私のことを想ってくれていた。
 スグ君から「薔薇、百八本飾れるスペースある?」と、電話で事前確認がきた。胸が苦しくなる。息も絶え絶え、返事をする。
「片付けとくから、絶対来てね」
『うん。……待たせてごめんな』
「ううん。最高の誕生日プレゼント、ありがとう」
 涙声、バレてないかな。バレてもいいや。今更だもんね。
 ああ、どうしよう。いろいろすっ飛ばしすぎだよって言って、私が練習してたリストの曲も聞いてもらって、それからそれから。たくさんのことをあなたとしたい。してあげたい。
 ひとまず部屋を片付けよう。一等オシャレな服に着替えて、メイクもばっちり整えよう。さあ、急がなくっちゃ。
 スグ君の家からここまで車で二十分。
 プロポーズされるまで、あと二十分しかないのだから。



アオイ5歳 スグリ12歳
かすみ草「永遠の愛」
この時はまだ花言葉を知らない

アオイ6歳 スグリ13歳
ひまわり「あなただけを見つめる」
好き好き言われすぎて意識しはじめるスグリ

アオイ7歳 スグリ14歳
ピンクのチューリップ「誠実な愛」
花屋さんに花言葉聞いた

8歳 15歳
赤いガーベラ「愛情」
図書館に通いはじめる

9歳 16歳
白いストック「ひそやかな愛」
七歳下の友達の妹(正確には義妹、アオイはハルト宅に引き取られた親戚の子)にガチ恋するのヤバいよな、という意識はあった。

10歳 17歳
イキシア「秘めた愛」
ヤバいと思ってても、まっすぐ好き好き言われるし、何よりアオイがものすごくいい子だから惹かれずにはいられなかった。

11歳 18歳
赤い菊「愛しています」
どストレート告白。伝わってないと思ってる。
ハルトに聞き、アオイも図書館で植物図鑑を読みはじめる。

12歳 19歳
ゴデチア「変わらぬ愛」
どんどん魅力的に成長していくアオイに焦るスグリ

13歳 20歳
紫のアネモネ「あなたを信じて待つ」
引っ越さないで側にいて、という言葉もファーストキスも、きちんと覚えていた

14歳 21歳
ライラック「初恋の感動」

15歳 22歳
桔梗「変わらぬ愛」

16歳 23歳
千日紅「色褪せぬ恋」

17歳 24歳
シラー「変わらない愛」
連絡の頻度が下がったのに内心焦ったスグリ。変わらないよと花だけで伝えていた。ピアノの曲は詳しくないが、実家に寄る度に彼女が奏でる旋律に思いを馳せていた。

18歳 25歳
ブルースター「幸福な恋」
ここまでよく耐えた。あともう少し、という気持ちが滲んでる

19歳 26歳
アングレカム「いつまでもあなたと一緒」
幼い頃にアオイからもらったオモチャの指輪を本物にするために始めた貯金がいい感じの額になってきた。

20歳 27歳
108本の赤い薔薇「結婚してください」
泣いて喜ぶアオイを抱き締めた。自分の意思で彼女に触れた、はじめての瞬間だった。