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サブさぶれ
2026-05-31 12:58:03
12852文字
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パロディ
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【パロディ】幼馴染現パロSS集
幼馴染現パロのSSの詰め合わせです。
ページリンクから作品に飛べます。
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5
「無題」
意外に思われるかもだけど、美術館って結構好き。ゲージュツとかさっぱり分かんないけど、色んな絵とか像とかあって割と面白い。「これ何だろうね」って内緒話するのも楽しいし。難しい顔作ってそれっぽいこと言ってみたりして。
私が大真面目にふざけると、幼馴染のスグリがクスクス肩を揺らす。中学に上がってからビミョーに避けられてる気がしてたけど、こうしていると昔に戻ったみたい。思い切って「一緒に回ろ」って誘ってよかった。小声で話さなきゃならないから、距離感も小学生の時に戻れるしで、いいこと尽くめだ。
遠足の一環で訪れた古い市立美術館には、私たち以外にもたくさんの同級生たちと先生たちがいて、だけどみんな大して興味ないのか、中高生絵画コンクールのコーナーにはほとんど誰もいなかった。水底に生きる貝の気分で、順路に沿ってしずしず絵や像の並びを眺めていく。訂正。しずしずではない。怒られないようにって注意しあってたけど、私たち、だいぶはしゃいでた。私はもちろん、多分スグリも同じくらいの温度で。
描く気があるのかないのか不明なくらい薄い色で描かれた抽象画を眺めていると、スグリがおもむろに口を開いた。
「解説さない絵ってさ、」
「うん」
「何も分かんねよな」
「しかも『無題』ときたら、いよいよ何も分かんないよね」
「な」
金ピカきらりな瞳を細めて笑う。イタズラっぽい、幼稚園時代から変わらない顔。それからすぐに、何かに気付いたみたいな表情を一瞬浮かべて絵の方へ向き直る。長い前髪に阻まれてるせいで、どんな顔してるのかもう分からなくなってた。今だけじゃない。いつ頃からかスグリはたくさんの秘密を抱えるようになっていた。遠い昔に「なかよし二人に隠し事は無しね」って約束したはずなのに。やっぱり無しね、なんて言ってないのに。まったく、仕方のない幼馴染だ。
前髪をざりざりいじりながら、スグリが小声で言う。
「そろそろ、次いく?」
「うん」
私の返事を聞いたスグリが次の絵へと歩きだす。何度言っても治らない猫背のせいで、制服の白いシャツと髪の毛の隙間からボコボコしたうなじが覗いてる。去年まで私の方が大きかった背丈は、今は同じくらいにまで伸びていた。そのうち、いずれ
——
。目線はどれくらい上がるかな。彼のお姉ちゃんと同じくらい、いや、もっと伸びたりして。
考えてる内に数歩先の次の絵にたどり着く。今度はお腹に風船を巻きつけて空を飛んでる猫の絵だった。タイトルは、
「スグリくーん!」
凪いでいた私たちの空間を、にぎやかな声が切り裂く。私より先に反応したスグリは、これまた絶妙な顔で振り返っていた。ミルクティー色のポニーテールを揺らした女の子が、私とスグリの間に文字通り割って入る。
「スグリくん。一緒に回らない?」
スグリの細腕に謎の女子が絡みつく。途端、金色が濁る。十年以上の付き合いの中でも見たことのない表情に、ビックリしすぎて何も言えなかった。
「え、と
……
」
チラッと私を見るスグリ。ギロリと私を強く睨むどっかの誰かさん。前者の気持ちは読み取れないので、ひとまず「邪魔するな」って意図を張り付けた般若様のご意向に従ってみる。へらりと笑って、害などないとアピールする。
「じゃ、私別のコーナー行ってるね」
「だってさ! 行こ!」
「
……
。
……
うん」
ほら、また。ぷくぷくの下唇を山の形にして、餌をもらいそびれた仔犬みたいに眉毛を下げて、なのに眉間に皺寄せて。どんな色なのか分からない顔してる。誰か、スグリの首に解説文ぶら下げてくれないかな。せめてタイトルつけてほしい。不機嫌ですとか、困ってますとか。そうじゃないと、スグリのこと、どんどん分かんなくなっちゃうよ。
スグリは何度か私の方を振り返りながらも、引っ張られるまま順路の方へと歩き始めた。何を伝えたいのか分からない顔を、何度も何度も私に向ける。ポニーテールの女の子は、さながら恋人のようにスグリにぴったり寄り添っている。彼女には、すぐ隣の人が浮かべる怪訝な顔が見えてないみたい。人にベタベタされるのが得意ではないスグリにほんのり同情する。そのあまりにも可哀想な姿を見てられなくて、背を向ける。別のコーナー行くって言っちゃったしね。仕方ないね。
日の当たらない打ちっぱなしのコンクリートの壁は、初夏とは思えないくらい冷ややかな色をしている。部活の友達や仲良い子たちのグループに飛び入り参加しようかとも考えたけど、何だか静かなままでいたくて、流れに逆らってずんずん歩いた。
スグリと好き勝手言いあってきた素敵な絵や像たちは、改めて見ると大して面白くも何ともなかった。
気がつくと、美術館の隅っこ、パーテーションに囲われた「世界の名画紹介コーナー」にいた。いかにも量販店で間に合わせましたって感じの絵が雑に掛けられている。ミニマムサイズの額縁の下には厚紙製の手書きタイトル。解説文は当然ない。
「何の絵だろ、これ」
目についたのは、キャンバスのど真ん中に描かれた黄色い四角の絵だった。小さすぎてよく見えないけど、黄色の中にさまざまな色が点々としてる。タイトルは「接吻」。つまりキス。これのどこがキスなんだろう。じっくり眺める。温度のない静寂の中、解説文のない謎の名画を見つめる。つまらない時間がつるり滑っていく。
私の静寂を壊したのは、人生で一番聞き馴染みのある声だった。
「アオイ!」
息を切らして、スグリが狭いパーテーションの中、一人きりだった空間に駆け込んでくる。
「よかった。追いついた」
やわらかく微笑む顔は安心に緩みきってきた。つられて私ものんびり笑う。
「おかえりー。一人?」
「うん。あんまくっつかれんの好きじゃねって言ったら、怒ってどっか行っちまった」
「あー
……
」
悪びれもなくスグリは宣う。晴れやかに笑ったまま、自然な流れで隣に収まって、私が見ていた謎の絵画に目をやった。
「これ何?」
「『接吻』だって。この黄色い四角のどこが?って思って見てたの」
「うーん
……
?
……
あ、ここ顔ある」
「本当だ。じゃあこっちの黒いのがもう一人か。なるほどねー。
……
この体勢キツくない?」
「はは。首ぐにーってなってんな」
「あはは、痛そう」
ささやかに笑いあう。スグリのほどけた目元に、胸がじんわり熱くなった。
スグリはひとしきり笑った後、「接吻」の絵をまじまじ観察しはじめた。先に見ていた私は、彼が満足するまでの間、スグリの横顔を見てることにした。少し前に小さなコブが一つ追加された首、上向いた口角、光に透ける黒と紫、穏やかに色づくふくふくのほっぺ。私しか鑑賞者がいないのが何でかちょっとだけ嬉しい、一つの絵画みたいに整ったスグリの顔。コーラルピンクの唇がゆっくり動いた。
「あー
……
、あのさ、」
「ん?」
「ここ、中学生は無料で見れんだって。美術館、結構楽しかったし、もっかいゆっくり見たいし
……
。よ、かったら
……
、また今度、見にこない?」
絵を向いたまま、視線だけで私の反応を窺ってくる。チラチラ見える顔は、相変わらず何を考えてるのか分からない。タイトルも解説文もないまんま。けど、さっきみたいなモヤモヤ感は不思議となかった。頬をゆるませ答える。
「部活休みの日だったらいーよ」
「やっ
……
!
……
んだば、日曜ね」
スグリは大きな口をいっぱいに開けて何か叫びかけて急停止し、すんと澄ました顔でちゃっかり日程を決めてしまった。予定もないから別にいいんだけど。
半袖シャツから伸びてる白い肌をつつく。スグリは無言だったけど、必要以上に肩を跳ねさせて驚いていた。
「そろそろ、次見よ」
「うん」
流れに沿って足を進める。同じ歩幅で、同じペースで、足音ひとつ立てないで。ひたひた、二人の時間が過ぎていく。
美術館って、結構好き。特に理由はないけれど。結構、だいぶ、かなり好き。
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