サブさぶれ
2026-05-31 12:58:03
12852文字
Public パロディ
 

【パロディ】幼馴染現パロSS集

幼馴染現パロのSSの詰め合わせです。
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ただの幼馴染/特権宣言

 お手洗いから出て数十秒。見知らぬ女子に声をかけられる。

「アオイちゃんとスグリ君って付き合ってるの?」

 ああ、またこの手の質問か。心の中で小さくため息を吐く。中学に入ったあたりからお馴染みになってしまったお問い合わせに、いつも通りの返答をする。

……付き合って、ないよ」

 スグリとは幼稚園から高校生の今に至るまでずっと、仲良しな幼馴染ってだけ。毎朝一緒に登校して、一緒にお弁当食べて、一緒に帰って、休みの日はどちらかの部屋でゴロゴロ漫画読んだりゲームするだけの——普通の関係。私たちの事をよく知っている仲良しの友人たちは「オレの知ってる普通じゃない」「SSR以上に稀」とか色々言うけれど、私たち二人にとってはこれが普通だった。
 付き合ってないとだけ確認した女の子は、笑顔全開で走り去ってしまった。彼女はスグリに告白するのだろうか。もしくはアプローチをかけるのだろうか。何とも言えない感情がもやもやと胸の中に広がる。でも、私にはどうすることもできない。
 だって、私たちはただの幼馴染で、付き合ってなんかいないのだから。


 ほんのりぐったりしつつ、鞄を取りに教室へ戻る。疲れたから、なんか甘いのでも食べて帰りたい。スグリに「生チョコパフェ食べて帰ろ」って送るためにスマホを見てみると、タイミングよく向こうからメッセージが届いた。「ちょっと遅れる。下駄箱で待ってて」って、スタンプも絵文字もなしのシンプルなメッセージ。
 もしかして。いやいやまさか。
 不安に駆られながら、昇降口で大人しく待つ。こういう時に限って、流れてくるストーリーはつまんないのばっかり。早く来ないかと何度も振り返るけど、待ち人は一向に現れなかった。
 下校する生徒でにぎわっていた昇降口はすっかり静かになり、辺りには誰もいなくなっていた。スマホも暇つぶしの相手にはなってくれず、結局ぼんやり外を眺め続けた。空の色がオレンジ色に傾き始めた頃、ようやく聞き慣れた声が背中に届いた。

「アオイ、お待たせ」

 振り返ると、何やらへんにゃりしたスグリがすぐ後ろに立っていた。ただでさえ猫背気味な背中をさらに丸め、整った顔を暗い色にしている。

「なんかお疲れモードだね。どうしたの?」

 どことなく艶を失った黒と紫の髪を撫でる。触れた指先がくすぐったかったのか、スグリは疲労感に満ちていた顔をほんの少し和らげた。

「ん? ちょっと、告白されてきただけ」
「あー……

 さっき付き合ってるかどうか聞きに来た子だろうか。はたまた別の子だろうか。確認する術などないから静かに受け流す。

「ごめん。ちょっと充電さして」

 そう言ってスグリが抱きついてきた。疲れ具合から察するに、今回の子はだいぶ食い下がってきたようだ。私にできることは、肩にのしかかってきたスグリの重みを黙って受け止めることだけだった。

「悪い事してないのに泣かれんの、しんどい……
「うん」
「好きな子いるって言ったら、そこで引き下がってくんねかなぁ……

 ドクンと心臓が跳ねる。スグリの好きな子。

「言ったの? 好きな子いるって……
「うん。言ったよ」

 胸が締め付けられて息苦しくなる。できればあんまり聞きたくない話なのに、スグリはお構いなしにつらつら続けた。

「俺の好きな子な、わやめんこくて、最近は美人さんにもなってきてんだ。幼稚園の頃からずっと憧れてて、ずーっと大好き。中三の時思いきって告白したら『私も好きだけど、付き合うのは待って』って言ってきて、そっからずーっと待たされてんの。未だに俺の部屋さズカズカ入ってくるし、手も繋いでくるし、こうしてハグもさせてくれる。なのに『まだダメ』っつって、彼氏にはしてくんねぇ。そんな変な子が、どうしようもないくらい好きで好きでたまんねんだ」

 私から身体を離してスグリが微笑んだ。優しさにとろけた最上級の笑顔。他の誰かには絶対に見せない、赤く染まった「好き」の顔。私だけの特別なスグリ。甘くて低い声が耳をくすぐる。

「なあ、アオイ。俺、そろそろアオイと付き合いたい。いい加減、俺にアオイの彼氏だーって名乗らせて?」

 上目遣いでとびっきりのお願いされる。世界中のどんなものよりステキな人に全身がキュンキュンに高鳴る。
 ああ、ダメ。やっぱりダメ。

「ご、めん……。無理……
「なして?」
「だって、まだ……心の、準備が」

 付き合う前からこんなにかっこいいのに、彼氏になっちゃったら絶対もっとかっこよくなるに決まってる。そうなったら、私の心臓なんてときめきで止まっちゃうんじゃないか。だから少しずつ距離感を詰めて慣れていって、完璧に大丈夫になるまで恋人にはなれない。
 そう言ってスグリに待ってもらってる。
 自分でも理不尽なことお願いしてる自覚はある。スグリが他の誰かに告白されて嫌な気分になるなら、さっさと自分が恋人の座に収まればいいだけとも思ってる。
 でも無理! スグリは「付き合っても何も変わんねよ」って言うけど、絶対変わる! 付き合い始めたらスグリのこと、もっともっと好きになっちゃう自信あるもん!
 急に真夏の体温になって汗をたくさんかき始めた私を見て、スグリはくすりと笑った。むず痒くなるくらいに愛情がたっぷり込められた声色だった。

「分かった。俺がじーちゃんになる前までに心の準備さつけてな」
「そこまではかかんない、はず……

 どうにか夏休み前までには心臓を手懐けたい。そう思って頑張ってるけど、この調子じゃ高校卒業まで無理かも。

「いつでもいいから。待ってんな」

 頬に手が添えられる。紅葉みたいな手を並べていたのは遠い昔。スグリの手はいつの間にか、ざらざらゴツゴツの男の人の手に変わっていた。
 あ、来ちゃう。慣れるためなんだからと身体に言い聞かせ、うっとり近付いてくる顔から目を逸らさない。
 わざとらしいリップ音がすぐそばで響いた。スグリがキスしたのは自分の手の甲。先週からキスの予行演習で始めたやつだけど、未だに慣れません。

「顔、りんごみたいに真っ赤でめんこい。ね、早くほんとのキスさせて」

 私しか映さない満月色の瞳が愛おしさに輝く。あまりの美しさに、息が詰まった。

……ごめん。まだ、しばらくダメかも」
「そんなぁ……

 スグリががくんと肩を落とした。よわよわの心臓で、スグリのこと大好きすぎてごめんね。でも、絶対に誰にも渡さないから、いつまでも待っててね。


 私たちはまだ、ただの幼馴染。付き合ってはいない。ただ、両想いなだけ。



特権宣言


 どうして君は、正式な彼女ができたにも関わらず、相変わらずおモテになるのでしょうか。どうして君は、誰にでも微笑んでしまうのでしょうか。優しいのは美徳だけども、優しすぎるのは毒なんですよ。少なくとも、私にとってはあんまりよろしくない。覚悟を決めてようやく君の彼女になったのに、モヤモヤの気持ちは収まることを知らない。
 当の本人はどこ吹く風で、私に極上のトロトロ笑顔を向けてくる。ああ、好き。大好き。やっぱり心臓慣れさせておいてよかった。

「ね、アオイ? 今年の誕生日プレゼントは何がほしい?」

 関係性が変わってから初めて迎える誕生日。ぷわぷわに浮かれた君の脳内を推理する。きっと、指輪とかネックレスとか、重たいものをプレゼントしたいと目論んでいるんだろう。だから、もっと重たいものをねだってみることにした。

「キスマーク」
「え?」
「キスマークが、ほしい……

 我ながら、大胆すぎるおねだりだと思う。けど、こんなに素敵で特別で最高のモノをもらえるのは世界中で私だけなんだって、君に近付いてくる人達全員に喧伝して回りたかった。知らしめたかった。醜い独占欲を、許してほしかった。
 金の瞳がぱちくり瞬いてから、ゆっくり細められる。

「いいよ」

 私に君の影が落ちる。期待を込めて目を閉じる。リップ音の後、柔らかい部分が強く吸われた。

「んうっ……!」

 経験したことのない類の甘い痛みに堪えられず、やらしい声が出る。身体をしならせ痛みを逃がそうとする私の両手首を掴んで、スグリが誕生日プレゼントを施す。愛の印が完成するまでの僅かな間、私は恥ずかしい声をずっとスグリに聞かせ続けた。

「ん。できた」
……なんで、そこぉ?」

 スグリがつけたのは、私の胸の谷間。やや左寄り。ドクンドクン高鳴る、心臓の真上。ムッと唇を尖らせる私を見て、スグリは意地悪く笑った。学校にいる誰も知らない顔だった。

「アオイは俺んモノって、ちゃんと分かってもらいたかったから」

 剥き出しの肩から、伸ばしっぱなしになっている黒髪がさらりと流れる。両想いになれますようにって願掛けで伸ばし始めたらしい髪は、付き合い始めた今も尚切らずにいる。切らない理由を知っているのは、この世に私一人だけ。
 私だけのスグリが増えていく充足感に目の前が滲んでいく。それなのに。ねえ、どうしよう。まだまだ、スグリが足りないの。
 唾液で濡れた赤色にチュッと口付けて、汗ばんだ頬同士をくっつける。悪戯心に任せて大きくて丸い耳に息を吹きかけると、色素の薄い胸板がヒュッと跳ねた。

……ね、スグリ。もういっこ、ちょうだい」
「うん。何でもあげる」

 低い声で甘美に囁きながら柔らかく微笑むスグリを一度抱き締める。そして——

*

 次の週。スグリのクラスメイトの男子が、スグリのうなじを見て飛びあがった。

「え、おまっ……。スグリ! 首の後ろ、どったの?」

 スグリのうなじには、大判の絆創膏が貼られていた。髪を保護するためなのか、普段よりやや高めの位置で髪を結んでいる。そのせいで、でかでかと貼られた絆創膏がとても目立っていた。よく見ると、絆創膏から赤い傷跡がはみ出している。緩やかにカーブを描くそれは、まるで何かの噛み痕のように見えた。

「ああ、これ?」

 スグリが振り返る。絆創膏をそっと撫でる手つきは、見た者全員を魅了する謎の色香が含まれていた。

「特権宣言、だって」

 目撃した同級生曰く、その時のスグリは見たこともない極上の笑顔をしていたそうな。