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河童の皿箱
2026-05-28 22:20:38
6548文字
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遊戯王:短め(2026年)
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A.D.R.A.S.T.E.I.A.とグラフレアの話
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「兄さん」。弟の口からこぼれた言葉に、兄はしゃがみ込んで微笑んだ。「ありがとう。ワタシのために、体を作ってくれたのだな」。穏やかな、諭すような声に、けれど弟は、目を開けていられなくなった。やっと顔を見れたのに。やっと向き合えるのに。これは本当の兄さんじゃない。違うんだ。でも。
「にいさん、ごめん、俺
…
こんなことしか、できなかった。できなかったよ」。喉が引きつって詰まる。目が勝手に涙を流す。手袋で拭っても、拭っても、止まらなくて。兄の幻はそっと、肩に手を添えた。「何を泣いているんだ。お前はこれからも国の先導をするのだろう?」。兄の幻影の肩口に、寄りかかっては、泣いて。泣いて。
「にいさん。死なせてごめん。助け出せなくてごめん。怖くて。怖くなって、俺
……
」。あれだけ見たかった顔を、見れるはずもなく。弟はひたすら、ひたすら泣いた。泣いて、泣いて。頭上から兄の声がした。
「
……
ワタシは死んでいないぞ」、と。
違う。兄さんは死んだんだ。あの自爆に巻き込まれて。これはただのシミュレートでしかない。こっちが望む答えを導き出しているだけに、違いない。そう言い聞かせていたら、兄は肩を思い切り掴んでは、顔を引きはがした。目の前には、困惑する兄の顔があって。
「
……
何か勘違いをしているぞ。ワタシは死んでいない」。再三にわたるその言葉に、弟はとうとう疑問を覚えた。「だって、自爆して」。兄は渋い顔をした。「あぁ、自爆した。敗北するぐらいなら、全部巻き込んだ方が国のためになると思っていた。だが、死んではいないぞ」。
弟は耳を疑った。首を傾げた。眉間を抑えた。「
……
いや、死んだはずだろ」と。兄はまた、顔をしかめた。「勝手に殺すな。ワタシは生還したぞ。生還したうえで、お前のそばにいるために、こうして武装になったのだ」、と。
弟は耳を疑った。顎に手を当てた。しっかりと、兄を観察した。時計を観察した。こいつは何を言っているのだと。兄は言った。「ワタシは、あの自爆の後に生還、転送にて帰国した。当然、五体満足ではなかった。体を残したとて、使い物にならないと知った。だから、お前のために、新兵装に生体パーツとして組み込めと命令し、急ぎ開発させたのがA.D.R.A.S.T.E.I.A.だ。最良のパフォーマンスで、最速でお前のもとに駆け付けるには、これが最も良い選択だった。ワタシは死んだのではない。お前の武器として生まれ変わることを選んだのだ」。
弟はしばらく。しばらく硬直した。
…
じゃあ、もしかして。
「
…
本人
……
?」。その言葉に、兄は笑った。「なんだ。お前はずっと、ワタシが死んだと思い込んでいたのか。随分しょぼくれた顔をしていたと思っていたが、なるほど。合点がいった。安心するといい。ワタシは生きている。お前と戦線を共にする武器としてな」。兄の言葉のひとつひとつに、そして今までの自省と自責が途端に、途端に顔の熱として襲い掛かって来た。とうとうこらえきれなくなって、つい、握りこぶしを思い切り打ち込んだ。
「いッ!?」。兄が驚愕の顔をする。また打ち込む。「な、何で怒るんだ!」。兄が防御姿勢をとる。だが、反撃はしてこない。また打ち込む。「ワタシは最善の選択をしたのだぞ!」。兄が身を逸らして逃げ出す。「こら、まて、やめろっ!」。
「アンタなんて、アンタなんて大っ嫌いだ! 最善じゃねぇよ! 五体満足じゃないにしたって義手とか義足とかあっただろうが! なんでそこで選んだのが生体パーツ化なんだよッ! 俺は! アンタの! そういうところが! 大っ嫌いだッ!」。怒りを叫んだ弟はとうとう、自室を飛び出して逃げ出した。去っていく背中を、実体仮想の体を得た兄はポカンと、呆気に取られては、急いで追いかけようとして、しかし時計から離れられないと知る。
「
…
ワタシはまた、何かを間違えたのか
……
?」。床にへたり込んで項垂れる兄の問いに、応える者はいなかった。
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