河童の皿箱
2026-05-28 22:20:38
6548文字
Public 遊戯王:短め(2026年)
 

IC&IO

A.D.R.A.S.T.E.I.A.とグラフレアの話



 「なるほどな。事情はよーく分かった」。目の前の浮世絵師はにやっと笑った。「ただし、俺たちは安かねぇぞ? それに、かなりハードな要求だ。それなりの対価を差し出してもらうぜ?」と。それでもなお、花火師は頷いた。「俺に出来ることなら、なんでもする。どうか、兄さんに体を作って欲しい」。その覚悟にまた、絵師は笑った。
 ここはPONTシティ。神芸学都よりも、迅雷帝国よりも、もっともっとずっと、遠い遠い町。空に浮かんだ大都市は、今日も今日とて夜を知らずに輝き続ける。そんな大都市を圧巻の渦へと呑み込んだ芸術集団――そのリーダーがそう。この浮世絵師、娑楽斎である。彼らが持ち得る技術は実に緻密で、そして高度である。ちょっとした小物でも宙に浮かばせることができるし、そのホログラムの精密さは、技術大国に居た花火師すら舌を巻く。遠く離れたドゥムドゥークでも、注目が集まるほどだ。『それだけの技術が本当にあるのなら、軍事転用すれば良いものを』。それが、彼らの大まかな評価であった。しかし、彼らは争いごとを好まなかった。ただただ、芸術のために技術を磨き上げているのだと知ったのは、彼らが神芸学都にやって来た時だった。浮世絵師と花火師が意気投合するのに、時間はかからなかった。お互いの実践を見て、互いに声をかけたのだ。校外のプロの話を聞けるなんて貴重な機会と思っていたのもつかの間、連絡先だのなんだのを交換した。空間を彩る彼の芸術に、そして争いを好まぬ彼らに、花火師は心を寄せたのだった。

 さて。浮世絵師はひとつ、書面を取り出した。「結構デカい依頼だからな、契約書を交わさせてくれ」。花火師は真摯にその文面に目を通した。彼らはA.D.R.A.S.T.E.I.A.の改良に手を貸す。が、ここからはまだ白紙であった。「こっちから頼みたいのは、祭りの準備の手伝いだ。お前の花火やアートで会場をババンッ! と飾りてぇなって思ってたところなんだよ。こっちでいくつかのプランを立てているから、学業に無理を出さずに実現できそうな範囲も含めて、再検討したい。期間はそうだな。このぐらいでどうだ?」。契約書上に書き足された情報を見て、花火師は首を傾げた。「本当にこれっぽっちでいいのか?」と。相当な無茶を言っている自覚はあった。けれど絵師は笑い飛ばした。「未来ある若者を縛り付けるつもりはねぇよ。芸術は自由があってこそだ! ちょうど休暇期間もあるだろ? 短期集中講義だと思って手伝ってくれよ。ファイアもラゼンもデモンスミスも、会場設置で来るしさ」、なんて。あっけらかんとした絵師の態度に、けれども花火師は釈然としなかった。「なあ、もう少しぐらいなんかこう」。そんな抗議に、絵師は唸った。「良いか? 俺がこれで釣り合い取れるって言ってんだから良いんだよ。どーしてもお前がこれで納得しないんなら、プライベートでおまけしてくれ。それだけ俺たちにとってこの祭りは大事なもんで、それだけ俺は、お前の芸術が好きなんだ。俺にとっちゃあ、夢の競演なんだぜ?」、と。じっと真顔で見つめる絵師に、花火師はどうにも顔が熱くなり、早々に降参した。「なら決まりだな」と、絵師と花火師は互いの名を書き示し、1枚ずつを所持する運びとなった。

 「さぁて、こっから楽しい楽しい開発の時間だぞ? まずはそれの解析から始めねぇとなそのおにーさんが一体どういう原理で動いているのかうっかり何らかの演算をずらしちまうのはまずいから、一旦スパイダーに投げるか。あぁ、あくまで俺たちが解析すんのは兄貴の部分だけだ。どのみち軍事転用なんてする気はねぇからな。あーいや効率とか素材とかそういうところは見させてもらうかんで、目標が今、2パターンある。実際の兄貴に近づけたアンドロイドボディを作る、もしくは、ホログラムだな。ホログラムに実体を持たせることだってできるぜ? 例えばこっちだったら」。捲し立てる絵師が空間に描いた未来図。ざっと落書きされた時計と兄の姿がどうにも可笑しくて。そして流し込まれる情報量の多さに、けれども花火師は必死で食らいついた。
 とはいえ、二つ返事でここまでとんとん拍子に進むとは、思ってもいなかったのだけれど。