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彼方の作品倉庫
2026-05-27 12:13:09
13239文字
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利こま
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【長めのサンプル】室町かれいどすこーぷ
書き下ろしの話について、長めのサンプルです。
全部で4話あります。
1
2
3
4
嘘つきのホントウ
「現在あそこは情勢が厳しい為、調査に一ヶ月ほどかかるかもしれません。それでもよろしいですか?」
学園長先生からの依頼に対する返答。嘘だ、と思った。
「依頼主からお礼にと貰ったんだ。でも今はお腹が空いてないから、よかったらみんなで食べるといい」
しんべヱ君に渡したお団子。嘘だ、と思った。
「申し訳ありませんが、人違いではないでしょうか? あなたとお会いした覚えがなくて
……
。それに私がこの町へ足を運ぶことはあまりありませんし、ましてや職人だなんて
……
」
親しげに挨拶してきた人への対応。嘘だと、思った。
◆◆◇ ◆◆◆◆ ◆◇◇◆
息をするように、利吉さんはよく嘘を口にする。何気ない様子を装って言うものだから、余程のことがないと気づく人は少ない。
学園長先生や山田先生、土井先生辺りは気づいているかもしれないけれど
……
。でも、敢えて指摘したりはしなかった。利吉さんには利吉さんなりの考えや都合があるのだろうと理解しているのかもしれない。
そういう僕も、利吉さんの嘘はすぐに見抜ける。なぜかはわからないけれど、感覚的に「嘘だ」とわかってしまうのだ。
だから、学園長先生の依頼が一ヶ月も経たずにやり遂げられることもわかった。もしかしたら他の依頼も引き受けていて、場所や目的に重なる部分が多くて一緒にこなす為に時間がかかるのかもしれない。
しんべヱ君のお団子が、依頼主から貰ったものではないこともわかった。きっとどこかの茶店で、店員さんにオマケにとでも押し付けられたのだろう。
そして、町で挨拶してきた人とは初対面でないこともわかった。おそらく忍務で何かの職人として潜入していた時に、顔を合わせたことがあったに違いない。
……
全て、推測でしかないけれど。
そんな嘘を何回も聞いてきた。騙していることなどおくびにも出さず、鋭い指摘にも素知らぬフリで通して。言葉と表情、時に動きで巧みに誤魔化す。
それは忍者としての習性なのか、それとも利吉さんの癖なのか。はたまた、忍務などで嘘をついている内に癖になったのか。彼の本心も、嘘をつく理由も。僕は何も知らない。わからないことだらけだ。
◆◆◇ ◆◆◆◆ ◆◇◇◆
「だからもう、直接訊こうと思いましてぇ」
「それをド正直に真っ向から訊ねてくるのも、君くらいなものだよ」
「そうなんですか? えへへ」
「褒めてない褒めてない、照れるな」
うどん屋で昼食を食べながら質問してみると、利吉さんは大きく溜息をついた。少しの間だけ無言になり、ぼんやりとお椀の中に視線を落としている。逡巡しているようだった。
これは答えてくれないかな
……
。困らせてしまうのは本意ではない。僕はさっきの質問を取り消そうとした。すると
――
。
「別に大した理由じゃないよ。自分のことをあれこれ知られるのが嫌ってだけ」
答えてくれた。意外にもすんなりと。少し驚きつつも、僕はその話の先を促した。もし注意されたら、そこで話を切り上げよう。
「詮索されたくない、ということですか?」
「誰にだって、人に知られたくないことの一つや二つあるだろ? 仕事柄、私はそれが他人より多いんだよ」
「じゃあ学園でも嘘をついてることが多いのは
……
」
「嘘を見抜けるかどうか、忍たま相手にはいい練習になるだろう? 現に六年生などは看破してくることがある。先生方は普通に気づいているよ。まぁ互いの利害に影響がないから、察されても特段指摘はないのだけれど。もう社交辞令みたいなものだよ」
「そうだったんですねぇ」
悪意を持って騙してる訳じゃないとは思っていたけど、答え合わせができて安心した。やっぱり、本人の口から聞くのが一番だ。
「
……
まぁ、小松田君は隠し事なんてなさそうだけど」
「ムッ、僕だって隠し事くらいありますよぉ!」
「来る直前、こっそり煎餅のつまみ食いをしたこととか?」
「な、なぜそれを
……
⁉ はっ、まさか天井裏から盗み見
……
!」
「待ち合わせに来た時、服に食べカスがついてた」
神妙な顔で疑いの目を向けるが、一気に拍子抜けしてしまった。そ、そんなところからバレるなんて恥ずかしい
……
! でも、細かいところまで気づくのは「さすがプロ忍者だ」と感心する。観察力がすごい。
「安心して。君に嘘は言わないから」
「どうしてですか?」
「だって小松田君、嘘も本気で受け取るだろ? そうやって騙す形になるのは私も嫌だからね。変に曲解されて、濡れ衣を着せられるのも困るし」
「濡れ衣だなんてそんなこと
――
!」
「冗談だよ。
……
いや、君を理由にしたのはズルかったな。まるっきり冗談という訳でもないんだが」
「それはそれでちょっと傷つきます
……
。確かに疑わずに信じちゃうこともありますけどぉ
……
」
「その素直さは長所として受け止めておきなさい」
ずず、と利吉さんはお椀の中のツユを啜った。そしてまた、ぼやっとした双眸でお椀の中を見つめる。
うどんを見てる訳でも、僕から視線を逸らして考えに耽っている訳でもないと、ここでようやくわかった。利吉さんは、ツユに映る自身の姿を見ているんだ。
……
透き通る水面に浮かぶ
鏡像
自分
に、利吉さんは何を思っているのだろう。
(サンプルここまで/次の話→)
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