fedge
2026-05-25 20:57:10
12199文字
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タコ焼きの話

オロルンがたこやきぷれーとを貰ってあれこれする話
※ナタのみんなが「たこやき」を知らないていで話が進みます。ご了承ください。あとしれっと隊長が復活しています。



「凄い量だな」
「これでも半分には減ったんだ。さあ、遠慮せずに、部隊のみんなで食べてくれ。それと、もしよければ『たこやき』も振舞わせて欲しい」
「感謝する。だが、『たこやき』とは……覚えのない料理名だな」

 たこ焼きで消費しきれなかったタコを手に、オロルンはファデュイの駐屯地を訪れていた。最初はシトラリの家に持って行ったのだが、「一人でこんなに食べられるワケないでしょ!」と追い返されてしまった。足を一本だけ貰っていったので、おそらく今日の酒のあてにしているだろう。その足をあげる代わりに、少しだけ凍らせてもらったのでまだ鮮度は保てている。
 なんやかんやあって目覚めた『隊長』はとある理由でナタを離れることが叶わず、残り続けていた彼の直属の部下達と共に現地調査を続けている。もっとも、スネージナヤの女皇は容認こそすれど支援は行えないとの姿勢らしく、物資のやりくりには腐心している様子だった。それもあって、時折育てた野菜を差し入れていたので、今回のタコも持ってきたというわけだ。


 『隊長』の許可も得られたので、炊事担当の兵に声をかけてたこ焼きの用意を始める。流石にたこ焼きだけでは消費しきれないと告げると、残りは任せろと幾人かが鍋ごと運んで行った。一部はそのまま焼いて今日食べて、残りは干物にするようだ。
 皆に聞いてみたが、やはり「たこ焼き」は稲妻以外ではなじみがない食べ物らしい。瑞希さんから貰ったレシピ通りに生地を作り、今度は採れたてのキャベツもたっぷり入れてたこやきを作る。入れると美味しいと書いてあったし、ちょうど畑で収穫したものがあった。それなら、入れてみるしかないだろう。焼きあがったたこ焼きを、味見がてら一つ皿に上げる。ソースは流石に作り切れないので、似ている味のバーベキューソースだ。スパイスが少し効いているが、まぁ味は大きく変わらない。

……うん、美味しくできたみたいだ」

 昼に食べたたこ焼きとはまた違うが、これはこれでいい。ソースの塩気とキャベツの甘味がちょうどいいし、なによりキャベツで嵩が増えているから、たくさん作れそうだ。
 香るソースの匂いにつられて、兵たちが続々と集まってきた。手伝ってくれた兵を優先しつつ、焼けた傍から皿へと盛って渡していく。いったん全員に行き渡るまで焼き終えて、ふぅと一息ついていると、机上に置いていたレシピ本が風に煽られ、ページが捲れた。ふと何の気なしにそれに目を落とすと、気になる文言が書かれていた。

「スネージナヤ式たこ焼き……?」

 どうも、中に詰めるもののバリエーションが乗っているページのようだ。香辛料の類がたくさん書かれているが、どれも今ちょうど手元にある。スネージナヤ式というのであれば、彼らの故郷の味かもしれない。オロルンは一つ頷くと、スネージナヤ式たこ焼きを焼くために、新しく生地を作り始めた。

「オロルン、あれ……あのたこ焼き? というやつはまだあるか?」
「ああ。今追加の分を焼いている。足りなかったか?」

 鉄板いっぱいに生地を広げ、試しに端の数個をスネージナヤ式たこ焼きにしてみる。そろそろ焼けてパリッとしてきたなと転がしていると、兵の一人が炊事場へと戻ってきた。

「あまりに美味かったからよ……その、『隊長』様の分を取っておくのを忘れたんだ。もし追加で作れるのなら、頼もうと思って……
「俺のことは気にするな」
「はっ⁉ 『隊長』様⁉ も、申し訳ありません……

 気配なくぬっと現れた黒い影に、兵はびっくりして飛び上がった。焦りと緊張だろうか、ぺこぺこと頭を下げている。『隊長』はフッと息を吐くと、低く穏やかな声で宥めた。

「気にするなと言っている」
「それなら今焼いている分は『隊長』と食べることにしよう。残りは後で皆のところに持って行くから、待っていてくれ」

 兵は、胸をなでおろし、『隊長』の声とオロルンの言葉に心底安堵した表情を見せた。わかりましたと皆のもとへ帰っていく背を見送りながら、オロルンは焼き上げたスネージナヤ式たこ焼きをひとつ、皿に拾い上げた。

「ちょうど『スネージナヤ式たこ焼き』という作り方を試していた所なんだ。熱いから気をつけてくれ」

 この列で焼いているのがそれだ、と指しながら、隊長に小皿を渡す。

「ふむ……

 何やら思うことがあるのか、『隊長』は動きを止めた。少し間を開けてから仮面の下を持ち上げてたこ焼きを口に放り入れ、咀嚼し始める。

……
「どうだろうか。スネージナヤの味がするか?」

 『隊長』はその問いには答えず、ゆっくりと机上にあった予備の串を手に取った。

「オロルン」
「ん?」
……お前も食べてみろ」

 『隊長』は先ほど指し示したスネージナヤ式たこ焼きの一つを器用に拾い上げ、眼前に差し出してきた。不味かったのだろうか? 相も変わらず仮面をつけている彼の表情は読み取れない。魂の機微で探ってみるかと思ったが、意思を研ぎ澄ませる隙は与えてもらえなさそうだから、そのまま差し出されたたこ焼きを口に入れた。
 カリっとした外皮は我ながらよく焼けてい……

「か、辛っ……!」

 灼けるような刺激が、口内で暴れた。
 机上に置いていたコップをひったくり、中に半分ほど入っていた水を一気に口に入れる。熱と辛みを水で冷やし、程々に嚙み砕きながらスネージナヤ式たこ焼きを流し切ったが、通り過ぎた喉がまだ熱い気がする。

「これが「スネージナヤ式」だと言ったな。長くファデュイに身を置いているが、このようなものは食べた覚えが無い。食べ物で遊ぶなど、お前らしくないが……
「待ってくれ、遊んだわけじゃない! ……この本に、これがスネージナヤ式だと書いてあったんだ」

 見てくれ、と件のページを開いたままのレシピ本を差し出す。隊長がじっとそれを読んでいる間、気が気ではなかった。何故だ、これがスネージナヤの味ではないのか。
 目を通し終えたのか、『隊長』はパタンとレシピ集を閉じた。ハァと一段深い溜息と共に、手近にあった飲料水の瓶に手をかけ、机上にあった二つのコップに注ぎ入れる。

「これは一種のゲーム用のもののようだ。どこが出所かは知らんが、一つだけハズレを用意して、それを引かぬよう楽しむ遊びを「スネージナヤ式ルーレット」と呼ぶらしいな……そう落ち込むな、俺達の為を思って作ったのだろう」

 呆れを存分に含んでいた声音だったが、途中で優しく宥めるものに変わった。顔には出さないようにしていたのだが、気落ちしていたのがバレてしまったらしい。

「オロルン、普通の『たこ焼き』を貰えるか?」
「もちろんだ、少し待っていてくれ」

 差し出された皿に、今度は普通のたこ焼きを拾って渡す。こちらは問題なく旨いと言ってもらえたので、ほっと胸を撫でおろした。ぽつりぽつりと隊長と話しながら、焚火を囲んでいる兵たちに渡す追加のたこ焼きを焼きつつ、幾つか拾い上げて二人で食べた。時折ぱちっと爆ぜる火にあたりながらたこ焼きを焼く時間は、とても穏やかなものだった。
 

 一つだけ残っていたスネージナヤ式たこ焼きは、追加で焼いたものと併せて兵のみんなに渡した。(もちろん、きちんと趣旨は説明した)
 それでハズレを引き当てた兵士が辛さに目覚め、彼が当番の日は食事が辛すぎると問題になったのは、また別の話――