fedge
2026-05-25 20:57:10
12199文字
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タコ焼きの話

オロルンがたこやきぷれーとを貰ってあれこれする話
※ナタのみんなが「たこやき」を知らないていで話が進みます。ご了承ください。あとしれっと隊長が復活しています。



「それで引っ張られたときに絞められて擦れた、ってわけだな」
「ああ……いだだだ! イファ、それ止めてくれないか、痛い」
「消毒液だ、我慢しろ。そりゃ皮が剥けてんだから痛いに決まってるだろ」
「うう……

 流泉の衆に戻ってすぐ、ちょうど仕事を終えたイファを捕まえることができた。「俺は竜の医者だぞ」と言われたが、僕も半分竜みたいなもんだろと返せば呆れたようにハイハイと返された。冗談のように流そうとしたくせに、怪我を見せればおいおい、マジかよとてきぱきと処置をしてくれる。

「ったく、冗談かと思ったぜ。「コホラ仔竜が終わったんなら、僕も診てくれ」なんて言うもんだから」

 事の顛末を話しながら手当をしてもらっていると、大鍋にタコを入れて抱えながら歩いてくるキィニチが見えた。下処理もしてくれたようで、タコから湯気が上がっている。
 包帯を巻き終えたイファは大鍋を覗き込み、感嘆の声を上げた。

「おわ、凄い量だな。これがオロルンが言ってたタコか」

 鍋からはイファの顔と変わらない大きさの、タコの断面が覗いている。見るだけでぶりっとした歯ごたえが感じられる、つやつやとした美味しそうな身だ。

「かなりの大きさだったから、解体に時間がかかってしまった。残りも処理したが、一旦これだけ持ってきた」
「ん? これで全部じゃないのか?」
「ああ。あと同じサイズの鍋が五つある」
……おいおい、マジかよ。そんなに食ったらタコになっちまう」
「イファ、人間はタコにはなれない」
「例えだ、例え!」

 人はタコになりうるのかをイファと話していると、遠目からこちらを呼ぶ声がした。ムアラニだ。 

「オロルーン! この大きさでいいー?」

 イファと遊んでいる間に、小さめのバーベキューセットを借りてきてくれたらしい。イファとカクークもそのまま巻き込んで、流泉の衆の畔で『たこやき』を作ることにした。



「イファ、とても重要なことに思い至ったんだが」
……なんだってんだ、きょうだい」
「僕は『たこやき』の味を知らない。正しい味付けができないと思う」

 コンロにセットした『たこやきぷれーと』を前に大事なことを告げると、イファとカクークがずさーっと滑り転けた。別に冗談を言ったわけではないんだが。

「んなこったろうと思ったぜ。そもそも、ここに居る全員がわかんねーよ」
「それもそうだな」

 じゃあ気にする必要もないか、と、キィニチが用意してくれた大鍋からタコを一切れ――といっても、ぶりっと太い一本の脚だが――を取り出し、用意してもらったまな板に乗せた。ちょっと贅沢なステーキ肉くらいの厚さに一枚切り分け、それを、熱々に熱した『たこやきぷれーと』の上に乗せた。
 ジュージューと焼けるいい音が鳴り、程よいタイミングで返す。するとそこには、ぼこぼこと並んでいる円をそのまま焼き色に写し取っただけの、タコのステーキがあった。

「これが……たこやきなのか? 変わった模様をつけるためのプレートなんだろうか……

 まだ片面を焼いただけだが、皆で揃ってその焼き目を覗き込む。もう片面が焼けるまでの間、わざわざ専用のプレートを用意する意味を考えたが、その場にいた誰にもわからなかった。
 焼き上がったものを皿に上げて切り分け、流泉の衆でよく使われているソースで食べる。フルーティな味は、いつものバーベキューと何ら変わらない。タコ自体は、歯ごたえがあって美味しかった。

「これなら、串に刺して直火で炙ったほうが美味しそうだね……。うん。あたし、串を取ってくる!」

 せっかく捕まえたんだから美味しく食べよう! と、ムアラニは道具を取りに行った。確かに、その方がこのタコもきっと嬉しいだろう。



……もしかして、この窪みに入れるんじゃないか? そもそも普通のタコは、こんな大きい身をしていない」
「おー、確かに一理あるな。んじゃ試してみるか」

 せっかくだから色々試すか、と、イファとキィニチがタコを一口大に切り始めた。確かに、この窪み自体に意味があるのかもしれない。二人がタコを切っている間に火の番をしていると、存外早くムアラニが戻って来た。ただ、一人じゃなくてカチーナと、もう一人、薄水色の髪の女性を連れている。

「みんな! たこ焼きを知ってる人が居たよ!」
「こんにちは、あたしは夢見月瑞希。初めまして……の人が多いかな? 普段は稲妻で心理療法士をしているの。よろしくね」
「こんにちは。僕はオロルンだ。君が「たこやき」を知っている人か?」

 話を聞くに、丁度今日、カチーナが瑞希さんから稲妻のおやつを教えて貰う約束をしていたらしい。ムアラニが串を取りに行ったついでに二人に出くわし、「たこやき」のことを話したそうだ。

「タコ焼きは、稲妻で人気のあるおやつだよ。小麦粉で作った生地の中に、タコを入れて焼くの。カチーナちゃんに教えるために持ってきたレシピ集に載っていたんだけど、プレートが無いから作れないなって、丁度話していたところだったんだ」

 何冊か持ってきたから、君もどうぞ、と渡されたレシピ集をぱらぱらと捲る。そこには最新の稲妻グルメだと銘打たれているレシピがいろいろと掲載されていた。キノコピザというのが気になるので、今度それは別で作ってみることにしよう。

「君たちさえよければ、そのプレートを貸してもらえないかな。もちろん、作ったたこ焼きはみんなで食べて」
「ああ、構わない。タコもたくさんあるから、気にせず使って欲しい」


 瑞希さんは手際よく材料をそろえると、実演してみせるね、とプレートの前に立った。油を薄くプレートに引き、手にした器から生地をじゅわっと流し入れた。

「ここに、タコをいれるの。天かすは、あったら入れたいところだけど、ナタだと用意が大変かもしれないから、無くてもいいよ」

 天かすというのは天ぷら? を作るときの衣を散らして揚げたものだという。それも稲妻料理のようだから、今度図書館で稲妻料理の本を探しておこう。
 生地に火が入って固まり出したところで、瑞希さんは串を手に取った。窪みの間を分けるように切っていき、焼けた生地の端を窪みの方へと纏めていく。くるくると転がされた生地は丸みを帯びていき、見ているうちに真ん丸の綺麗な球状に焼き上がった。瑞希さんはそれをひょい、と串に引っ掛けて拾い上げ、平皿の上に並べた。これまた「たこやき」用だという焦茶色のソースをたっぷり塗り、仕上げだといってカツオブシとアオノリと呼んだものをふりかける。

「はい、どうぞ。食べてみて」

 皿の上に並べられた真ん丸からは、ソースのいい香りが漂っている。先程ふりかけられたカツオブシというものが、熱に踊らされてゆらゆらと揺れていた。

「いただきまーす!」

 ムアラニがいの一番に一つ摘まみ、口へと放る。

「あっ、ムアラニちゃん! そんな食べ方したら……
「あっふい!」
「やっぱり……
「んんー、へお、おいひい!」

 はふはふと熱を逃がしながら、満面の笑みでムアラニが答えた。皆もそれに続いてひとつずつ、瑞希さんの焼いてくれた『たこ焼き』を口に入れる。
 外はカリッと、中はふんわり。中に入っているタコのコリコリとした歯ごたえがたまらない。ソースも甘辛くて美味しいし、振りかけたカツオブシとアオノリの風味も抜群だ。
 一つ目を味わい終え、皿にひとつだけ残っていたたこ焼きに、全員の串が向けられた。

「ふふ、気に入ってもらえたみたいだね」

 第二陣はカチーナが挑戦してみることとなった。瑞希さんの教え方がいいのか、カチーナはいくつかぐちゃぐちゃにしてしまったものの、コツを掴んでからはきれいな形をすぐに作れるようになった。因みに崩れた分は、ムアラニが片っ端から食べていた。
 その他の面々も、そのあと数度、教えて貰いながらたこ焼きをひっくり返した。串を持てなかったカクークと、はなから食べること以外眼中になかったアハウ以外、皆きれいに球状を作れるようになった。


 暫くたこ焼きを焼き続け、焼けた傍から皆の胃袋へと消えていった。タコはまだまだあるが生地は底をつき、皆の腹も大方満たされたため、そろそろお開きとなりそうだ。

「そうだ、最後にデザートも作ろうか」
「え? タコを甘くするのか?」
「わかった! 甘い生地を焼くんだね!」
「その通りだよ。カチーナちゃん、生地を持ってきてくれる?」

 任されたカチーナはぱぁと明るく微笑んで瑞希の店の台所へ消えた後、すぐに目的のものを持ってきた。どうもこの集まりに出る前に「どらやき」というお菓子を作ろうとしていたようで、それの生地らしい。それを『たこやきぷれーと』に流し込み、タコの代わりにチョコレートを入れている。焼き上がったそれはころころと丸く、割るとチョコレートがとろりと出てくる、可愛らしくて美味しいケーキになっていた。「どらやき」には本来であれば「あんこ」というものを入れるらしいが、ナタ仕様にアレンジしてチョコレートを入れることにしたらしい。

「すごいな、こんな使い方もあるのか」
「他にも、この窪みを利用して色々作れるよ。そのレシピ本に書いてあったはずだから、試してみて」
「ああ。ありがとう。助かった」


 焼き上がったケーキをつついて異国の味に舌鼓を打つ。大戦中では考えられなかった和やかな風が、皆の頬を撫でていった。