fedge
2026-05-25 20:57:10
12199文字
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タコ焼きの話

オロルンがたこやきぷれーとを貰ってあれこれする話
※ナタのみんなが「たこやき」を知らないていで話が進みます。ご了承ください。あとしれっと隊長が復活しています。



「ぷはぁ。おっかしいなぁ……いつもだったら、この辺りにたくさんいるはずなんだけど」

 ムアラニの案内に従って潜りながらタコを探したが、影の一つも見つけられなかった。水中にある洞でよくタコを見かけるとのことだったが、タコが棲みつくにしては些か大きい穴のような気もする。

「二人とも、ありがとう。また、日を改めて探すことにする」

 海から上がって水着から着替え、一緒に探してくれた二人に礼を伝える。これだけ探しても居ないということは、今日はそういう日ではなかったんだろう。

「見つからないなら、仕方ないもんね……
「いっそ、本当にこいつを焼くか? たこつぼに掛かってたには違いないからな」
「だから我輩はタコじゃねーって言ってんだろ!」
「アハウ、お手」
「犬でもねー!」

 お仕置きの簀巻きから解放されたアハウがやかましく騒ぐ中、そういえばたこつぼを仕掛けたままだったなと思い出す。一縷の望みをかけて引き上げてみるべきだろう。

「どうした? オロルン」
「潜る前にたこつぼを仕掛けただろう? もしかしたらそっちに掛かっていてくれないかと思って」

 たこつぼを沈めた場所を見てみるが、どうやら少し流されて、岩に引っかかっているようだ。濡らしたくないので右手のグローブを外して岩場に屈みこみ、直接たこつぼを掴もうと水に手を入れた、その時だった。

「な⁉」

 ぐん、と何かが手を掴み、勢いよく引っ張られた。咄嗟に足に力を入れたが、大きく体勢を崩されてしまう。子供の腕程もある、ぬめりを帯びたなにかが、にゅるりとオロルンの腕へと絡みついた。

「オロルン!」

 駆け寄ったキィニチが、絡まれているのと逆の腕を掴む。抵抗の甲斐あってか、子供の腕ほどの太さがある「なにか」を振りほどくことができた。捉えられていた腕を見てみれば、吸い付かれたような丸い痕が、いくつか赤く残っている。
 ――刹那。大きく、水面が揺れた。
 三人を太陽から遮るように現れたのは、浅黒い肌にぬめりを纏った――巨大な、タコだった。


「流石にこの大きさは、この『たこやきぷれーと』では焼けそうにないな」

 ざっと見積もって三十人くらいはお腹いっぱいタコを食べられそうだなと目算していたが、あのプレートで焼くには少々骨が折れそうだ。おそらく足を輪切りにして乗せれば、ちょうどプレートいっぱいにはなるだろうが……それを三十人前となれば、普通のバーベキューグリルを出してきた方が早いだろう。

「わかった! この子がこのあたりの餌を食べちゃってたんだね、だから小さいタコが全然いなかったんだ」
「だいぶ大きいな、ここまでの大きさとなると下処理が大変そうだ」

 ムアラニは事象に合点がいったようで頷いているし、ふむ、と値踏みするようにキィニチもタコを眺めている。

……?」

 あまりに動じない三人の様子に、巨大ダコ側が困惑を露わにしていた。
 まあ、おそらく、考えていることは三人とも同じだろう。ムアラニ、キィニチに目配せし、雷元素を手中に集める。藍色の光弾がタコの表皮に爆ぜ、バチバチと紫電を走らせた。タコはそれがオロルンから放たれたと認識するや否や、いっとう太い足を振り上げる。だが、今まさに叩きつけられようとしたその足は、放たれた鉤縄によって動きを咎められた。

「ざぶざぶサメくんアターック!」

 動きを封じられたタコの頭に向かって、海上を滑って勢いをつけたムアラニの、強烈な一撃が叩き込まれる。タコは岩場に全身を叩きつけられ、勢いのままに海面から離された。反撃しようと蠢くタコに雷を追撃してやれば、ビクビクと震えて動きが鈍くなる。
 陸にあげてしまえばこちらのものだと言わんばかりに、キィニチの大剣も振り下ろされる。タコの頭を綺麗に両断すると、足こそまだ蠢いているものの、生命の意志のようなものは感じ取れなくなった。

「これだけあれば、たこやきもできそうだな」
「やったー! たっこやき、たっこやき! ところで、たこやきってどうやって作るの? 焼けばいいの?」
「実は僕も知らないんだ。とりあえずこの『たこやきぷれーと』で焼いてみたいと思っている。専用のものなのだろうから、きっと美味しく焼けるはずだ……っ」

 タコを拾い上げて持ち帰ろうと手を伸ばしたが、ぬめるそれに触れた時にじくんと染みるような痛みが走った。顔をしかめて一度手を引いたところをムアラニに見つかり、ばっと腕を掴まれた。

「オロルン、怪我してるじゃん! このタコはあたしとキィニチで運ぶから、先に流泉の衆に戻って手当してもらって!」
……すまない、ありがとう」
「いーのいーの! 手当が済んだら、みんなでたこやきパーティーしよ!」

 このくらい大丈夫だ、と言おうとも思ったが、無理はするなと心が止めた。素直に厚意に甘えることにして、一足先に帰らせてもらうことにした。イファはまだ流泉の衆に居るだろうか。