fedge
2026-05-25 20:57:10
12199文字
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タコ焼きの話

オロルンがたこやきぷれーとを貰ってあれこれする話
※ナタのみんなが「たこやき」を知らないていで話が進みます。ご了承ください。あとしれっと隊長が復活しています。

「たこやきぷれーと……聞き慣れない名前だが、やっぱり鉄板にしか見えないな」

 ボコボコと窪みがついた鉄板を、オロルンはまじまじと眺めていた。バーベキューで使う鉄板よりだいぶ小さなそれは、魔物に襲われていたスメールの商人から、助けたお礼にと押しつけられたものだ。使い方を尋ねてもはぐらかされてしまったので、おそらくその商人も、この『たこやきぷれーと』が何なのかは知らないのだろう。

「たこやき、と言うからにはタコを焼く物なのだろう」

 しばらく考えたが、それ以外に何も思いつかない。オロルンは罠のための道具をいくらか見繕い、流泉の衆のはずれにある、小さな岩礁へと向かった。
 道中、イファとカクークを見かけたので、『たこやきぷれーと』のことを聞いてみたが、二人とも知らない様子だった。暇なら一緒にタコを捕まえに行かないかと誘ってみたが、どうも今日は忙しいらしく断られてしまった。まあ、こういう日もあるだろう。
 鼻歌を口ずさみみながら日陰で罠――いつだったかの本で見た「たこつぼ」というものを拵える。中に少し白んでしまったケネパベリーを幾つか放り入れて岩礁へ沈め、暫く待つ。本来なら白い球根などが良いらしいが、白くて丸いものを餌と誤認するだけというのだから、これでも問題ないだろう。

「時間がかかるだろうから、少し離れていてもいいか」

 確かイファはコホラ仔竜のヒレがどうのと言っていたはずだ。時間つぶしがてら手伝いに行こう、と、オロルンはコホラ仔竜がよく集まっている温泉の方向に足を向けた。


 一時間ほど経って、イファの手伝いもそこそこに岩礁に戻って来てみれば、沈めたはずのたこつぼが引き上げられていた。はて、ゴミか何かと勘違いされてしまったのだろうか。次からは立札を立てるか、ずっと見張っていることにしようと思って引き上げられていたそれを覗き込んでみれば、見慣れた姿がそこにあった。

……アハウはタコだったんだな。勘違いしていて、すまなかった。今度からタコ用の餌もおやつ箱に入れておくことにしよう。流石に生魚は入れられないから、干したものでいいか?」
「ハァ⁉ 我輩は聖龍クフル・アハウだ、タコなんかじゃねー! 早くここから出しやがれ!」
「出すも何も、この『たこつぼ』は出入りを妨げるような仕掛けはつけていない。出ようと思えば出られると思う」
「出れたらとっくに出てるっつーの!」

 問答をしながら辺りを見回してみるが、どうやらキィニチは近くに居ないようだ。となればまぁ、急ぎの用をこなしているわけでもなさそうだ。
 屈みこんでアハウ入りのたこつぼを抱えて日陰に移す。日が当たってつぼが加熱されれば、それこそアハウ焼きができあがりかねない。

「おい! 出せって言ってるだろ!」
「すまない、アハウ。タコを捕まえるまでの間でいいから、少しそこでじっとしていてくれ。たこつぼのための材料は、あと一個分しかないんだ」

 蓋も何もしていないたこつぼから何故か出られないらしいアハウを退け、オロルンはもういちどたこつぼの用意を始めた。二度目となれば慣れもあって手早く済み、また静かに岩礁に沈める。

「今度は離れずに見ていよう。話をする相手もできたからな」


 暇を潰しつつアハウの話を聞くに、どうやら壷のくびれに身体が引っかかってしまっているらしかった。早く出せと少しばかりうるさかったが、勝手にたこつぼを引き上げた罰として、反省するまで入っていてもらうことにした。アハウが自力で外せないなら、取り出すために壷を割ってやるべきだろうか。
 何故こんなことをと聞いてみたが、どうやら中に入れた白いケネパベリーが気になってしまったらしい。塩水に浸かってしまったそれを食べたようだが、あれは、病気にやられてしまって身が白く濁り、甘味がなくなってしまったものだ。きっと、塩の味しかしなかったと思う。

「うーん、それにしても、タコが掛かる気配がないな……

 アハウも騒ぎ疲れたのか、暫く静かな時間が過ぎた。壷の中からすぴすぴと寝息が聞こえている。新しいたこつぼを沈めたものの、たこは全然かからなかった。集中して辺りの気配を追ってみても、小さな魚の気配くらいしか拾えない。
 ううむと首をひねっていると、少し離れたところからこちらに向けて歩いてくる人影が見えた。

「オロルン、アハウを見ていないか? こっちに飛んでいったとムアラニから聞いたんだが」
「こんにちは、キィニチ。アハウなら、壷の中で大人しくしている」

 はい、と壷ごと差し出せば、キィニチは少し驚いたように目を見開いた。

「これは……何かの罠か? すまない、迷惑をかけたみたいだな」
「たこを捕まえるための罠だ。でも、上手くいっていない。たこやきを作るために、タコを捕まえたいんだが……
「たこやき?」
「そうだ。この鉄板を見たことはないだろうか。これは『たこやきぷれーと』と言うらしいんだが、使い方がわからない。たこやき、と言うからにはタコを焼く物だろうと思って、タコを捕まえようとしているんだ」

 キィニチにも鉄板を見せてみるが、聞き覚えが無いらしい。最近は仕事で国外にもたびたび出ているキィニチですら知らないのだから、『たこやきぷれーと』とは一体何に使うものなのだろうか。
 アハウが迷惑をかけた詫びに、と、キィニチもタコを捕まえるのを手伝ってくれるとなった。壷に手をつっこんで眠っているアハウを無理やり引きずり出し、新たに餌を入れてオロルンが先に沈めていたものと少し離して沈めた。ちなみにアハウは寝ぼけ眼のままの状態でキィニチがテープでぐるぐる巻きにしたので、今はふごふごと意味を持たない音を出しながら岩の上で転げまわっている。

「これでいいか?」
「ああ。これで暫く待つ必要があるんだ。……手伝ってくれるのは助かるが、時間は大丈夫か?」
「問題ない。今日の仕事はもう片付けてきてある」

 たまにはゆっくり過ごすのも悪くないだろう、と、二人(と、グルグル巻きの一匹)は潮風に当たりながらゆったりと水面を見ていた。

「キィニチー! アハウは見つかった? ってあれ、オロルンも来てたんだね!」

 とりとめなく無く続いていた会話も切れかけていた頃、ぶんぶんと手を振りながら明るい声が近づいてきた。ムアラニは二人に駆け寄ると、グルグル巻きのまま萎れてしまっているアハウを見て、ぷぷっと笑いを漏らした。

「アハウも無事に捕まえられたみたいだね! 今度は何をしでかしたの?」
「オロルンのタコ用の罠を壊したらしい。罠に掛かって出られなくなっていたようだ」
「タコ? 何かに使うの?」
「ああ。そうだ、ムアラニは『たこやきぷれーと』って知ってるか?」
 これなんだが、と凹凸のある小さな鉄板をムアラニに見せてみる。ムアラニは興味深げに鉄板を見るが、ふるふると首を横に振った。
「うーん、知らない。たこやき? って、タコを焼くってこと?」
「ああ。その名前しかヒントが無いんだ。だから、とりあえずタコを焼いてみようと思ったんだが……全然罠にかからないんだ。掛かったのはアハウだけだから、このままではアハウ焼きをすることになってしまうな」
「んむぐぐぐ、ぐぐんぐ!」
「『我輩はタコじゃねぇ!』だそうだ」
「んぐー!」
「あはは! タコなら、罠にかけるより、潜って取ったほうが早いかも。水着、貸そうか? あたしも手伝うから、その……たこやき? は皆で一緒に食べよーよ!」
「ありがとう、罠は効果がなさそうだから、別の手を試さないとと思っていたんだ」

 レンタルの水着を借り、三人はタコを求めて海へと入っていく。

「んぐぐ……んぐ?」

 簀巻きにされたアハウだけが、何やら少しだけ様子の違う水面に違和感を抱いていた。