くつした
2026-05-23 16:18:21
10585文字
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No title

Webオンリーイベント展示作品です。めちゃくちゃ大遅刻すいません。
ファンタジーエリアなのにまさかの冬十傑パロです。ちょっとシリアスです。まだ未完です。

わたくしが大ファンでお慕いしているINUさんが、以前ミクシィ2でこんなお話が読みたいよ、という投稿をしていらっしゃって、わたくしがそのお話に大変ときめきまして、僭越にも書かせて頂きたいと申し上げました。そうしたら寛大にも書いてもよいよと仰って頂けたのですが、ビックリすることにわたくしのほうがそれをすっかり忘れてしまっていまして…(INUさん本当にすいませんでした)

先日INUさんにわたくしからお願いごとをしにDMで、お伺いしましたところ、「そんなことよりアレを書くという話はどないなっとんねん」とご指摘を頂き慌てて履歴を辿って思い出したという不始末でございます。救いようがありません。INUさん大変申し訳ありませんでした。心よりお詫び申し上げます。
 
もう書かなくてもよいよ〜と仰られましたが、
赦してほしいんじゃない、償いたいんだ、そして履歴を見てまたそのお話を書きたいという情熱が燃え上がったから書きたいんだ!!!と言うわけで、萌えのまま取り敢えずのところまで書いてしまいました!!!!

まだ未完でしかもかなり自己流の味付けが酷いので、INUさんのネタはもっともっと凄い萌えを与えてくださるものであったことをここに但し書きしておきます。

ここまで長々と読んでくださってありがとうございました。

5/25 追記:イベント終了に伴い全体公開としました!
 


2

 イズクが姿を消し、2年あまりが経った。

 後継者を迎えた直後から、オールマイトは隠遁していた住まいを捨てたと風の噂に聞いた。
「後継者を広い世界で育てるために放浪の旅に出た」
 とヒツジ族は言い、
「お稚児を連れて贅沢三昧の放蕩旅行だ」
 と他種族は陰口を叩いた。


 カツキはそれらの口さがない噂に何も反応することなく、ただ黙々と狩猟の腕を磨き、身体を鍛え、本を読んだ。


 カツキは17になっていた。


 ある日、切り立った崖でクマほどもある大型のヤギを見かけたと話を聞き、カツキはあまり風の吹かない日の早朝に強弓を持って守護獣と出ていった。

 雪も積もらぬ断崖絶壁を、たしかに目を見張るほど大きなヤギがひょいひょいと登っていた。崖の下に当たるここから射ると、ヤギは滑落してしまうかも知れないが、カツキの守護獣が跳躍して地面に叩きつけられる前に仕留めに行けるだろうと思った。岩場に叩きつけられたら肉も毛皮も価値が落ちる。


 カツキは隣で身を低くして構えるオオカミにちらりと目配せし、弓に矢をつがえた。弓を構える腕を目の高さまで上げ、ギリギリと弦と弓を均等な力で持って引く。


 と、フッと崖を登るヤギの姿が掻き消えた。


 カツキは驚いて弓を下ろした。


「君は、バクゴウカツキ少年だね?」 

 突然背後から声がして、カツキは振り向きざまに弓を構えた。
 

 鏃の狙うすぐ先に、黒いローブを頭から被った異様に背の高い男がいた。身長の割におどろくほど痩せている。男は構えられた弓など存在しないかのように、落ち着き払ってゆっくりローブの頭巾を下ろした。

 現れた前髪の長い金髪と、落ち窪んだ青い目に見覚えがあった。

 
「テメェ…………
 カツキは弓の弦をさらに引き絞った。
「何しにきやがった」


 忘れもしない。
 二年半前に、イズクを連れ去ったオールマイトの遣いの男だ。
 

 イズクはどこにいる、今どうしていると叫びそうになって、歯を食い縛ってそれを呑み込む。



 もしオールマイトの子を産んだと聞かされたら。


 

 涙が出そうだった。 
………死にたくなきゃ消えろ。二度と俺の前に現れるな」
 こけた頬の男は毫も怯まず、だが悲しげな表情で言った。
「きみの幼なじみのミドリヤイズク少年を覚えているね?」
 目を見開いた。
「覚えているか、だと………?」
 カツキの手から弓と矢が落ち、雪に突き刺さった。
 カツキは自分よりずっと背の高い男のローブの襟首を掴んで揺さぶった。
「忘れるわけねぇだろうが!!! あいつは、あいつは俺の………!!!!」
 ドンッと横から何かにぶつかられて、カツキは思わずよろめいた。驚いて見ると、大きな黒面のヒツジだった。カツキの腰になおもグリグリと捻じれた角のある頭を押しつけてくる。



 何だお前、と言いかけて、ハッと気がついた。



………お前………、イズクの守護獣か………?」
 ヒツジはベェェ、と鳴いた。さっきから何の役にも立っていなかったカツキのオオカミが、クゥン、と鼻を鳴らしてヒツジに身体を擦り寄せた。


 カツキが夜ごと夢に見ては恨み、そして恋しい想いを募らせていたイズクの存在を実感させる目の前の生き物に、喉元まで何かがこみ上げた。   


 守護獣は、主が生きている限り死なず、主が死ねばひっそりと死ぬ。今この瞬間も、イズクはどこかで生きているのだ。


……元気だったか、ずいぶんデカくなったな」
 カツキはヒツジの首の柔らかな毛を撫でた。イズクがまだ腰ほどまでしかなかったヒツジのそこによく手を置いていた事を思い出す。カツキは雪へと両膝をつき、ギュッとヒツジの首を抱き締めた。ヒツジはまたベェ、と鳴いた。


「バクゴウカツキ少年、僕は君に謝らなければならない」
 いつの間にか巨大なヤギを傍らに寄り添わせていた金髪男が言った。断崖絶壁のあのヤギはこの男の守護獣だったらしい。
 カツキはヒツジを離し、濡れた頬を手で拭いながら言った。
………イズクに会わせろ、もうそれだけでいい」  
「ああ。ぜひ会ってあげて欲しい」
 オールマイトに咎められるから、と渋られると思った申し出は、予想外にあっさりと頷きでもって受け入れられた。
……いいんか。オールマイトに逆らって」
 金髪男は首を横に振った。
「それも謝らなくてはいけない。私はオールマイトの遣いの者と名乗ったけれど、それは嘘なんだ」


「私がオールマイトだ」
 
 
 カツキは目を見開き、それから一瞬で雪に刺さっていた弓と矢を掴んで男の喉元へ向かって引きつがえた。
………殺す」
 オールマイトと名乗った男は項垂れた。
「私はもう役目を終えたものだ。殺してもらっても構わない。だが、今私が死ぬとミドリヤ少年が一人になってしまう」
 まるで妻を遺す夫の様な台詞に、カツキは悔しくてギリギリと歯を食い縛った。殺す。殺してイズクを取り戻す。例え子がいても構わない。
……ほっとけや、俺が面倒見たるわ」
 オールマイトは目を上げた。
「ありがとう。それを君に頼みたいんだ」
 カツキはまたピキッとこめかみに青筋を走らせた。
  

 
「ミドリヤ少年には今、君の助けが必要なんだ」






 オールマイトは森の奥深く、今にも雪で潰されてしまいそうな粗末な掘っ立て小屋にカツキを連れて行った。
「ここかよ」
 カツキはまた怒りが湧いた。
 イズクをこんなボロいところに住まわせているのか。金も名誉も腐るほど持っているだろうに、イズクに使うことはしないのか。カツキの表情を見て、オールマイトは申し訳なさそうに言った。
「すまない。目立つことができないんだ」
 オールマイトは身を屈めて皮の剥がれた木戸をくぐった。ヤギは小屋の外にとどまったが、ヒツジはそのまま入っていった。カツキは俄に緊張した。ここに本当にイズクがいる。


 会ったら何を話すというのか。何を話せばいいのか。恨みごとを言えばいいのか。会いたかったと抱き締めたら、抱き締め返してくれるだろうか。



 お前はオールマイトのものになっていたのかと詰らずにいられるだろうか。



 
 オオカミを小屋の外に残し、オールマイトに続いて薄暗い小屋に入った。外と変わらないほど寒い小屋の中は、とても静かだった。
「ミドリヤ少年、バクゴウ少年を連れてきたよ」
 オールマイトが部屋の真ん中の低い寝台に屈み込みながら、幼子をあやすように優しく言った。 
 だが、寝台からは何の反応もなかった。嫌な予感がした。


 カツキは竦む心臓を感じながら、ゆっくりとそこに歩み寄った。



 寝台には、青白い顔のイズクが目を閉じて横たわっていた。とても生きている人間の顔色には見えなかった。
………ンだよ、これ………
 いとけないそばかすが散っていたイズクの右頬には、そばかすの代わりに引き攣れた大きな傷が縦に走っていた。
 カツキは震える手をその頬に伸ばした。冷たい。指先から熱を奪われたように背筋までゾクッとした。
 バッと分厚く掛けられていた掛け物を剥いだ。上着の併せを開いて裸の胸に耳を押し付ける。そこも冷たかった。何の音もしない。振動もない。息をしている気配もない。


「死んでんじゃねぇか………!!!」


 カツキは怒鳴ってオールマイトの顔を殴った。中腰の姿勢だったオールマイトは吹っ飛んで床に叩きつけられた。
「何やってんだよテメェ!! イズクを、イズクを死なせたのかよ!!!! お前を信じてついてったコイツを!!!!!」
 ぶるぶるとおこりのように震えて拳を握り締めた。信じられなかった。信じたくなかった。


 ああ、行かせなきゃよかった、閉じ込めてでも、縛り付けてでも。イズク。イズク。


 床に尻餅をついて口から出た血を袖で拭っている貧相な役立たずに背を向けて、イズクの顔を身体を撫でた。涙が次から次へと溢れた。
「イズク、イズク………
 いつもカツキとつないでいたイズクの右手に触れた。指まで傷だらけでボロボロだった。こんな傷はなかったのに。どんな目に遭っていたというんだ。俺の知らないところで。
「イズク、」
 抱き上げたイズクの首は人形のようにガクンと力なく後ろへ倒れた。それにまた涙があふれた。
 その時、背中にドンッとまた衝撃があった。見ると、イズクのヒツジだった。
「お前邪魔すんな……
 言おうとして、カツキはあることに気が付いて脳天に雷を受けたように痺れた。


 そうだ。さっきコイツを見て、イズクが生きてると思って安堵したのだった。主が死んで、守護獣が生きていることはない。絶対に。



 イズクは死んでない。
 


 カツキはイズクの首を支えて再び横たえてやりながらオールマイトに言った。
………どうなってんだよ。何で死んでねぇのに息をしてねぇんだ。何が起こってんだよ」
 オールマイトは項垂れて少し口角を上げた。
「さすがだね。ミドリヤ少年が言っていた通り、君はとても聡明だ。…………………呪いなんだ」
「呪い?」
 眉をひそめた。


 オールマイトは長い長い時間をかけて語った。


 数年前から、オールマイトが大昔この郷から退けた悪しき暴徒たちの流れを汲むものが力を溜めて再興の機を狙い始めていたこと。オールマイト自身は過去の戦いで大きく腑を損傷してしまい、脈々と受け継がれてきた強大で不思議な力を継ぐ者を探していたこと。その力には特別な器が必要で、誰にでも与えられるものではないこと。2年半前に森の中でオールマイトが偶然イズクと出会い、イズクの中にその器を見つけたこと。イズクをヒツジ族の集落から連れ出してから、郷を離れ悪しき暴徒たちに見つからないようひっそりと隠れてイズクを鍛え上げ、その力を譲ったこと。そして、様々な郷に潜んでいたオールマイトの仲間と共闘して、互いに多大な犠牲を出しながらも暴徒たちを殲滅したこと。


 信じられなかった。カツキの目に映っていた世界はこの二年間ずっと退屈なほど平和で、偶に他の郷が荒れているという噂は入ってきたものの、物流や商品の価値が変わるかもなとは思ったが、それが自身の命と関係があるとはついぞ考えなかった。イズクはその陰で命を賭けて、こんなにボロボロになって戦っていたのに。



 カツキはまるで子どもだったのだ。



 オールマイトはイズクのヒツジを撫でてやりながら言った。
………敵の中に、強い呪いを使うものがいたんだ。その者自身の命をかける呪いで、魔王ともいえる立場の者を倒した直後のミドリヤ少年を襲った。……結果、ミドリヤ少年はこうして彼の時を止めてまるで死んだようになった。だけど生きている。君の言うとおり、守護獣が生きているからだ」
「呪いを解く方法は」
 カツキはすぐに尋ねた。呪いとは、必ず規則と対価と解除方法があるものだ。
 オールマイトは顔を上げて言った。 




「『ミドリヤ少年が愛し、運命を共にするものからの口づけ』」







 だがカツキの口づけは、出久の呪いを解くことはなかった。





 それからカツキは、17歳から年を取らず、髪も爪も伸びず、水も食べ物も受け付けず、排泄もせず、呼吸も鼓動もないイズクを連れ、呪いを解く方法を探して郷から郷へと旅をして生きている。





 8年間も。




(続く)