くつした
2026-05-23 16:18:21
10585文字
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No title

Webオンリーイベント展示作品です。めちゃくちゃ大遅刻すいません。
ファンタジーエリアなのにまさかの冬十傑パロです。ちょっとシリアスです。まだ未完です。

わたくしが大ファンでお慕いしているINUさんが、以前ミクシィ2でこんなお話が読みたいよ、という投稿をしていらっしゃって、わたくしがそのお話に大変ときめきまして、僭越にも書かせて頂きたいと申し上げました。そうしたら寛大にも書いてもよいよと仰って頂けたのですが、ビックリすることにわたくしのほうがそれをすっかり忘れてしまっていまして…(INUさん本当にすいませんでした)

先日INUさんにわたくしからお願いごとをしにDMで、お伺いしましたところ、「そんなことよりアレを書くという話はどないなっとんねん」とご指摘を頂き慌てて履歴を辿って思い出したという不始末でございます。救いようがありません。INUさん大変申し訳ありませんでした。心よりお詫び申し上げます。
 
もう書かなくてもよいよ〜と仰られましたが、
赦してほしいんじゃない、償いたいんだ、そして履歴を見てまたそのお話を書きたいという情熱が燃え上がったから書きたいんだ!!!と言うわけで、萌えのまま取り敢えずのところまで書いてしまいました!!!!

まだ未完でしかもかなり自己流の味付けが酷いので、INUさんのネタはもっともっと凄い萌えを与えてくださるものであったことをここに但し書きしておきます。

ここまで長々と読んでくださってありがとうございました。

5/25 追記:イベント終了に伴い全体公開としました!
 


1

 イズクはカツキの幼なじみだった。

 
 同い年で生まれ月も三月ほどしか離れておらず、物心ついた時にはもう一緒になってお互いの守護獣と一緒に雪原を転げ回って遊んでいた。
 
 同じユウエイのくにに生まれたが、カツキはオオカミ族、イズクはヒツジ族の子だった。
 
 郷には他にもユキヒョウ、ヤギ、ネコ、タカ、ウマ、カメなど様々な種族がいるが、なかでもオオカミ族は戦闘力や知能が高くカリスマ性もあり、ついでにプライドも高いので郷では昔から中央で要職につく者が多かった。

 カツキも例に漏れず幼い頃から勝ち気で生意気であり、お人好しで従順な性質のヒツジ族のイズクをはじめ、近所の子どもたちを従えて王様気取りでいたものだ。
 
 イズクはヒツジ族の中でも特に優しい性格で、誰かが困っていると自分を犠牲にしてでも真っ先に手を差し伸べるような子どもだった。

 カツキはそれが少し面白くなかった。
 
 はっきり口にこそ出さなかったものの、カツキはいずれイズクが自分のものになると信じていたし、そうしてやると決意してもいた。郷での社会的地位が高いオオカミ族の中でも、特に優秀なカツキであれば、イズクも喜んで嫁に来ると思っていた。


 イズクはいつも、「かっちゃん凄いや」とカツキを憧れの目で見て賞賛していた。


 ヒツジ族は男であっても妊娠出産のできる種族で、尚且つ多産であり、生まれた子はほとんどの場合ヒツジ族ではない方の親の種族となったため、少子出産である様々な種族がヒツジ族の嫁を欲しがった。多くのヒツジ族が望まれて他種族へと嫁いだ。
 もちろんヒツジ族同士でも結婚し出産するため、ヒツジ族自体の個体数は減ることはなく安定していた。
  
 郷では15になれば成人として婚姻は許可された。カツキは自分とイズクが2人とも15になるイズクの誕生日を指折り数えて待っていた。

 

 その夢が潰えたのはカツキとイズクが14の時だった。


 カツキやイズクが生まれるずっと前に、他郷からの侵略者を退けて郷を守ったヤギ族の逞しき英雄、現在は隠遁生活を送っているというオールマイトが種族不問で後継者を選ぶという噂が郷中に広がった。
 
 オオカミ族やシシ族、ユキヒョウ族といった戦闘力が高い種族や、ウマ族やタカ族のような高貴な血統を誇る種族の長たちは色めき立った。

 カツキはもしかしたら自分が選ばれるのかも知れないと思っていた。むしろそれが当然だとすら思った。
 同年代で、カツキよりも優秀でカツキよりも強い奴は他種族でもそうそういない。カツキが生まれたのと同じ日に生まれたカツキの守護獣のオオカミも、その辺のオオカミ族の大人の守護獣よりもずっと立派に成長していた。


 英雄の後継者か、悪くない。つまりは新しい英雄ということだ。申し分ない肩書きも手に入れて、大手を振ってイズクを嫁に迎えることが出来る。思い描いていた以上の未来だと思った。


 後継者とは具体的に何を継ぐのかは誰も何も知らなかった。だがただひたすら栄誉と名誉を求め、様々な種族の長たちは争うようにして隠遁していたオールマイトの住まいに貢ぎ物を持って日参した。 

 だが、全ての種族の訪問を丁重に断り続け、姿も見せることのなかった英雄オールマイトは、ある時月桂樹ほども身の丈のあるとても痩せた顔色の悪い金髪の男を遣いとして郷の中央に寄越した。


「ヒツジ族の子に会いたい。緑色の髪の少年がいるんじゃないかな?」


 そして中央の要職者たちに案内されてヒツジ族の集落に現れた痩せた男は、ヒツジ族の大人たちに背中を押されてやってきたイズクに向かって言った。



「君は英雄になれる。僕と一緒に来てくれるかい?」
 


 自分たちの種族から英雄の後継が指名されたと半狂乱になって喜ぶヒツジ族とは真逆に、有力他種族の長老たちは鼻白んだ。

「英雄オールマイトが聞いて呆れたもんだ、後継者と言って弱いヒツジ族を選ぶなんて。ただあの子を使って自分の子を成したいだけなんじゃないのか」
「どうせ慰み者にされるだけだ、ヒツジ族は男でも具合が大層良いというからな」
「選ばれたのはまだ成人してもない、とても幼い顔をしている子だというじゃないか。全く名にし負う英雄も年を食ったら色に狂って始末に負えないってことか」

 オオカミ族の集落で、車座でやけ酒を飲みながら好き放題言う年寄りたちの話を聞き、カツキは青ざめてヒツジ族の集落へと走った。


「イズク!!」
 
 玄関からひっきりなしにヒツジ族の有力者が出入りするイズクの家の裏に周り、カツキはイズクの部屋の窓に小石をぶつけた。
「かっちゃん……!」
 木枠の窓を開けてイズクは目を丸くした。 
「出て来い、年寄り連中に見つかるなよ」
 カツキが言うと、イズクは少し部屋の外を気にしてから、窓から跳んで地面へと降り立った。ボスッと雪に大穴があいた。


 カツキはイズクの手を掴んで誰も来ない森の中へと獣道をどんどん分け入って行った。

「イズク、お前オールマイトんとこへ行くつもりなんか」
 人目のない森の中で、カツキはイズクを責めるように言った。絶対に認められないと思った。
 

 イズクはオールマイトの慰み者にされ、子を産まされる。冗談じゃない。腸が煮えくり返るような気持ちだった。


 怒りをあらわにしたカツキを前に、イズクは戸惑ったように言った。
「え……と、………う、うん、………
 頷く出久に、ガン、と頭を殴られた気がした。
………んでだよ」
 青褪めて呟いた。 
「お前、英雄の後継者だなんて言われてその気になってんじゃねぇよ。バカくせぇ、ヒツジのお前がオールマイトんとこ行っても英雄になんかなれるわけねぇだろ?」
「あ、あのね、かっちゃん、」
 前言を撤回せずになおも何かを言おうとするイズクに腹が立った。

 言わずにいられるならそのほうがいいと思ったが、このままではこの間抜けで人を疑うことを知らないヒツジはころっと騙されて本当に連れて行かれてしまう。 

「オールマイトに選ばれてテンパッてるヒツジ族の連中はお前にホントのこと言わねぇと思うから教えてやるけどよ、お前はオールマイトの慰み者にされるために連れてかれるんだぞ! オールマイトの子を産まされるんだとよ! それでも行くってのか!?」
 イズクはギョッとしたように目を見開き、それから大慌てで手と顔を振った。
「ち、違うよ、そんなわけないじゃないか、オールマイトはそんな人じゃない」 
 幼なじみでずっとそばにいた自分の言葉よりも会ったこともないオールマイトを信じるというのか。カツキはカッとなった。
「そもそもあの貧相な金髪男が本当にオールマイトの遣いなのかも怪しいと思わねぇのか!? オールマイトの姿をお前一回でも見たのかよ!? このままついてったらあのヒョロガリ男に犯されて外郷で売り払われるかも知んねぇとか思わねぇのか!?」 
「あ、会ったよ!! オールマイトに僕は会ったんだ!! 話をした!!」
 

 叫ぶイズクの言葉に、カツキは呆気に取られた。


……オールマイトに会ったんか?」
 イズクはおどおどと視線を彷徨わせながら「う、うん………」と頷いた。
………いつ、……いつ会った」
 え、とイズクは口ごもった。
……少し、前だよ……、オ……あの、遣いの人がヒツジ族の集落に来るもっと前……、オールマイトが後継者を選ぶって噂が立つ前だよ………。ぐ、偶然、少しだけ会って話をしたんだ」

 ゾッとした。

 オールマイトはイズクに会っている。その上で来いと言っている。ということは、あの遣いだとかいう金髪男がイズクを連れて行ったものの、オールマイトがイズクを気に入らず、子を成さずに集落に戻される可能性がなくなったということだ。


………やめろよ、行くな」
 カツキはイズクの手首を掴んだ。


 イズクはカツキのものだ。イズクが生むのはカツキの子であるべきだ。イズクはカツキのもとを離れてはいけない。離さない。


「え、」
 イズクは驚いたように掴まれた自分の手とカツキの顔を交互に見た。
「か、っちゃん?」
「行くな。もう戻って来れねぇかもしんねぇんだぞ」
 カツキは真剣にイズクの目を見て言った。
「そ、そんなことないよ、ちゃんと戻ってくるよ」
 イズクは何かを誤魔化すようにヘラッと笑った。
「行くな、ここにいろ」
 カツキは必死で言った。
「お前は英雄の後継者なんかになれねぇよ、ヒツジ族だぞ? 英雄ってのは強ェ奴だろ、肉食大型獣族とか、猛禽族とか、」
「お、オールマイトもヤギ族だよ」
「屁理屈言ってんじゃねぇ!!」
 カツキが怒鳴ると、イズクはビクッと肩を竦めた。そして俯いたまま言った。
「か、かっちゃん……、僕、僕なんかじゃ力不足かも知れないけど、僕、頑張るから……、頑張ってくるからね」
 カタカタと細かく震えながらイズクは顔を上げ、無理やりと言った顔でニコッと笑った。



「かっちゃん、元気でね」



 カツキは愕然とした。
……お前マジで言ってんのかよ」
 イズクは泣き笑いの顔のまま、コクンと頷いた。
……ふざけんなよ、ばかやろう、」

 その時、「居たぞっ!」という大きな声と草木を踏み倒す派手な音がした。振り向くと、大勢のヒツジ族の大人が獣道の灌木に積もった雪を散らしてこちらに押し寄せて来るところだった。
「オオカミ族の子どもと一緒だ!」
「オオカミ族め、英雄の後継者を妬んで害しに来やがったな!!」
 手に手に鋤や鍬などの農機具を持って血相を変えるヒツジ族の大人たちにイズクはあっという間に掴まってカツキから引き離されてしまった。カツキは守護獣を連れてこなかったことを後悔した。アイツがいればこんな奴らなど蹴散らしてやれたのに。
 イズクが「ただ話をしていただけです、かっちゃんに絶対に酷いことをしないで」と泣いて訴えたので、カツキは小突かれた程度でヒツジ族の集落から追い出された。
「あの子はもうお前みたいな悪ガキの遊び仲間じゃない、英雄の後継者だ。二度と来るんじゃないぞ」

 

 その夜、帰ったオオカミ族の集落で母親に叱られ、長老たちには「やるならもっと派手にやってこんか」と説教され、カツキは自分の部屋に押し込められた。


 東の稜線から陽の光が差し始める前に、カツキは自室を抜け出してまたヒツジ族の集落へと守護獣の背に乗って走った。青い雪に真っすぐな足跡を残し、カツキのオオカミは風のように駆けた。

 守護獣の背に括った雑嚢には、自宅にあったありったけの食料を詰めていた。イズクとともにこのまま他の郷まで逃げてやる。


 イズクだって本当は行きたくないはずだ。だからあんなに強張った顔をしていたんだ。



 だが、窓の玻璃を割って侵入したイズクの部屋は、しんと静かで誰もいなかった。カツキは慌てて窓から身を乗り出して雪原を見た。降り積もる雪で、すでにカツキとカツキの守護獣以外の足跡は消されていた。
  

 震える白い息が夜空に立ち昇った。


 開いた窓から吹き込んだ雪が舞う暗い室内で、月明かりを頼りにカツキは書き物机の上に手紙の束を見つけた。一つ一つがやけに分厚かった。
『お母さんへ』
『長老さまへ』
『先生へ』
『薬師学校のみんなへ』

 その中に、カツキの名前はなかった。

 だが一通、『ともだちへ』と書かれた薄っぺらいものがあった。カツキは躊躇わずその封を切った。
 封筒のなかにはもう一つ封筒が入っていた。封筒の表にはこう書かれていた。

『お母さんへ この手紙はかっちゃんに渡してください』

 封筒を破り捨て、たった一枚の便箋を広げる。


『かっちゃんへ

 黙っていなくなってごめん

 どこにいても、何をしてても、

 僕はずっと君のともだちだよ

 また会えたらいいな

             イズク』


 カツキはそれを懐に入れ、泣きながら窓の桟を蹴って飛び出した。



 裏切りもの、裏切りもの。
 今からどこで、何をして生きるというのか。





『ともだち』などという残酷な言葉とカツキをたった一人残して。