秘めたる想慕の雪月花

MHRウ教×ハ♀。両片想い。
ハ♀視点。

心の声が聞こえているのかと。

ウツシ教官は、とても不思議な人だと思う。今も、修行時代も、いや、それよりもずっと前から。

「やあ、おかえり愛弟子! お疲れさま!」

溶岩洞での狩猟を終えたわたしが、無事にカムラの里に帰還した直後のこと。

門から里に入ってすぐ、宵闇の中でもよく目立つ朱色の太鼓橋の前で待っていてくれたらしいあなたは、にっこりと柔らかに微笑んで、大きく片手を振ってくれた。

昔からずっと秘めたる想いを募らせている大好きなあなたの笑顔が、お出迎えが嬉しくて、わたしはいつも駆け寄ってしまう。

すると今日のあなたは、空いていたもう片手を、わたしに差し出した。

「はい! 今日は特に喉が渇いたろう? しっかり水分とってね!」

笑顔で告げながら差し出してくれたあなたの片手の中には、細い竹水筒たけすいとう。わたしの竹水筒は、とっくに空っぽ。

色々な意味で驚いて、あなたの顔と竹水筒を交互に見ていると、あなたは「遠慮しないで、さあ!」と、更に竹水筒を前に突き出してくる。

わたしは思わず、大きく目を瞬かせた。

これまでのわたしの行動を全て見守ってくれていたのかと錯覚しそうになる純粋な驚きと共に、きゅっと唇を噛みしめる。
あなたへの想いが、密かに熱く脈動するのを感じた。

竹水筒を見つめるうちに、ごくり、と自分の喉が鳴った音が、妙にはっきりと耳に響いた。

両手で竹水筒を受け取り「ありがとうございます」とお礼もそこそこに、わたしは迷わず蓋を開いて中身をあおる。

竹水筒の水とは思えないほど冷えていたので、少し驚いた。
からからだった喉に冷水が染み渡り、凄く美味しくて、とても心地良い。

「ぷはぁ、おいし……! ウツシ教官、ありがとうございました!」
「どういたしまして! しっかり飲んでくれて嬉しいよ、愛弟子!」

答えてくれたあなたの笑顔に口角を緩ませながら竹水筒を返そうとした時、わたしはやっと気付いた。

図々しくも、自分が竹水筒の中身を全て飲み干してしまっていたことに。

不思議なほど血の気が引いて、緩んだはずの口角はたちまち一直線に結ばれた。
手が震えそうになりながら、わたしは両手でウツシ教官へ空っぽの竹水筒を差し出す。

「ご、ごめん、なさい……! 教官のお水だったのに、ぜ、全部飲んじゃいました……!」
「うん? 謝ることなんかない! いいんだよ! キミに飲んでもらいたくて持って来たんだからね!」

軽快にわたしの両手から「ありがとう」と竹水筒を受け取ってくれたあなたは、先ほどと変わらない笑顔。

片手で竹水筒を軽く振り、水音が一切しないことに、満足そうに目を細めてくれた。

「いいぞぉ愛弟子! しっかり水分補給しようね! そしてもちろん、その後は食事だ!」
「はい……! ありがとうございます! お腹ぺこぺこですし、ちゃんと食べます」
「良かったら、俺と一緒にどうだい!? オテマエさんの特選焼肉定食を食べに行くところなんだ!」
「えっ、いいん、ですか!? しかも焼肉! 行きます、ぜひ!」

数分前まで血の気の引いた青ざめた顔だったのに、それは瞬く間に林檎色に染まって、ふくふくっとアイルーのように口元が震えた。我ながら百面相だ。

あなたも嬉しそうに「じゃあ、早速行こうか!」と笑って、わたしと並んで集会所の茶屋の方に向けて歩を進め始めてくれた。

幸せは鉛のような疲労感を吹き飛ばしてくれて、全身が軽くなる。
胸が高鳴って、顔が熱くなって、口角は勝手にどんどん上がった。

大好きなあなたと一緒に、こうして並んで歩いたり、晩御飯を食べたり。

それだけで空の彼方まで昇れそうなほど嬉しいのに、ちょうど食べたかった焼肉定食、しかもオテマエさんの特選。美味しい予感しかしない。

たくさんの小さな幸せが重なっていることが、あまりにも嬉しくて。

先ほどの水のことと言い、わたしは思わず考えずにいられなくなった。

(……ウツシ教官。何で、わたしの欲しいものとか、今してほしいことが分かるんだろう?)

単なる偶然で、片付けるには少し無理がある。

こういったことは、修行時代から──いや、わたしが幼い頃から度々あるのだから。

@acadine