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織音
2026-05-16 23:20:00
9851文字
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赤色運命論
「自分勝手だって構わないから、命を差し出しても贖えない罪でできたハッピーエンドを頂戴!」
指揮官敵堕ちIF。全部捏造と幻覚です。ほんの僅かに26章『クレイドルパレード』の内容を含みます。⚠︎ほんの僅かに流血表現、創作指揮官の容姿に関する記述あり。
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2
3
戦場の音が反響する暗闇の廊下を歩いていた。
聴覚モジュールにこびりついているみたいに異合生物の悲鳴が止まない。既に主戦場からは遠く離れているというのに、未だ聞こえてくる悲鳴はどこか懺悔や命乞いのようで酷く耳障りで、耳を塞いでしまいたくなる。人間よりも優れた聴覚を持つことを今だけは恨んだ。
控えめながらも上品な装飾が施された重厚な扉の目の前で簡易的なスキャンを実行する。周囲の敵生体反応なし。依然としてこの建物内部のパニシング濃度は異常と呼べるほど高い。が、超刻機体はパニシングに対する完全な耐性を持っているから問題はないだろう。
押し開けた扉の向こう側から差し込んだ光が暗い環境に最適化していた視覚モジュールに刺さって、軽く俯いた。しかし人間の視覚とはかけ離れたモジュールは優秀で、五秒とかからないうちに明るい環境への最適化が完了する。
最適化されたモジュールが目にしたのは荘厳な造りの舞台だった。壊れ意味を為さないままぶら下がる照明器具、ボロボロに破れ最早元の柄がわからなくなった緞帳、遠い過去に置き去りにされたままの精巧な造りの楽器と色だけが褪せた舞台のセット。それらを壊れかけの天井から差す光が照らしている。
人間の頃から縁のない場所ではあるが、世界芸術協会の中で何度か似たような場所を見たことがある。確か劇場、と呼ばれていた場所のはずだ。ステージに向かって放射状に設置された幾つもの椅子の向こう、何もかも見慣れない景色へ視線を向ければ、目的の人物はそこで一人静かに息をしていた。
オーケストラピットの中に満ちる赤潮と戯れるように靴の先を沈め、光をゆらゆらと反射する水面を随分機嫌の良さそうに眺めるその眼差しを見紛うことなどない。
きっと、既に此処に誰かが来たことには気付いているはずだ。それでも視線を水面に落としたまま頭を上げないのは祈りを捧げ、赦しを乞う敬虔な信者のようにも見えるが
――
これからその人物に与えられようとしているものは、赦しとは酷くかけ離れたものでしかない。
「
――
指揮官」
劇場の中で響いた声に呼応するようにステージの上、その淵に座っていた人物から短い呼吸が溢れた。赤潮に向けられていた視線が静かに上げられ、その瞳が客席の一番奥に立つ僕を捉える。
「
……
リー」
微笑み混じりにこちらを呼ぶ。今まで彼が両の手では収まらない回数繰り返してくれた、やり取りの始まり。
「久しぶりだね、ちゃんと話すのは
……
半年ぶりくらいになるのかな」
前に会ったのは二週間前の戦場だったはずだが、こうやって他の誰もいない二人きりの空間で話すなどもうどれほど長い間できていなかったのだろう。叶うならば腰を据えて時間の許す限り話をしたいが
……
残念ながら、今は呑気なことをしている場合ではないのだ。
右手の震えを押し隠すように固く握った銃を持ち上げる。硬質な音と共に外れたセーフティー。深淵にも似た闇を湛える銃口は真っ直ぐに
――
今、人類の敵たる存在へと向けられた。
向けた銃口の先にいる指揮官は微笑んだままだった。まるでこの銃口が向く先にいるのが自分ではないように、酷く綺麗に。
「やっぱり、殺しに来たんだ」
「ええ、それくらい貴方も分かっているでしょう。
……
元グレイレイヴン指揮官とはいえ、人類の敵である貴方を此処で見逃すわけにはいきませんから」
「うん、知ってるよ。君は敵にちゃんと冷酷な判断をできるひとだからね」
すっと細められた瞳。そこに宿る柔らかな薄い灰の光は残酷なほど、記憶の中にあるものから一切変わっていなかった。
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