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カレット
2026-03-11 07:10:33
6237文字
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どろぼう/ほしがる
ブレイブアサギ号での両片想いアメリコ/125話より後の時空/服のボタンに髪が引っかかる話とボタンをつけてあげる話
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左手の指先が痺れているのは、さっき針で突いたからではない。
今そこは抱き上げたパゴゴの体に触れていて、その硬い感触と温かくも冷たくもない不思議な温度を感じているはずなのに、どうしても別の感覚に占められている。
突然あんなことをされたのだから、無理に手を引いて連れて行く程度の無遠慮は許してほしいとリコは思っていた。
(わたしじゃなくても、あんなことしたの?)
そんなこと訊けるはずもないけれど。そうでなければいいと思っている自分がいる。
力尽くで奪おうとしてくる敵だったアメジオは、気づけばリコに様々なものを与えてくれていた。強さへの憧れ、挫けた心への叱咤、隣で支えてくれる心強さ。だからリコも、少しずつでも何か返したかった。いつしかその気持ちは、自分の持てるものを惜しみなく渡したいと思うまでに大きく膨らみ、時に持て余している。
なのに現実には、ボタンに髪が絡まって困らせてしまって、果ては服からボタンを切り取ってしまっている。だから、せめてもと思い、付け直したのに。
(また、もらっちゃったな)
心配してもらえた。気遣ってもらえた。それがどうしようもなくリコの胸の奥を温める。左手の指の痺れが強くなる。
アメジオに何か渡したいのと同じほど、少しでも時間を分けてほしいし、心を寄せてほしいとも思うのだ。気流に揉まれる飛行船のように揺れる気持ちは、扱いに困りつつも決して嫌ではなかった。
アメジオの手は大きく、そうは見えないのに筋張って硬く、自分の手とは違うのを知らされる。握り返さない彼の慎重さに救われながら、握り返されることを淡く期待している。振りほどかない彼の優しさに安堵しながら、振りほどかれないとどう離していいか分からないでいる。心の向かう先があやふやで、しろいきりの中を歩くよう。
やがてダイニングキッチンに辿り着き、足が止まる。もう手を引く理由もないのに、離し難い。しかし先に入っていった三人に見咎められる前に離れなければいけなかった。
「パァ〜ゴ!」
「あ
……
! パゴゴ!」
おやつが待ちきれないパゴゴが腕から抜け出して床に降り、ポケモン用の出入り口からさっさと中に入ってしまった。
指先が空を掴むも、もう一方の手がゆるく引かれるのに意識を取られ、リコは思わず振り返る。手をつないだ距離にいるのだから当たり前なのに、アメジオとの近さにひるんで固まった。
「どうした? 入るんだろう」
「だって、アメジオが、手」
「ああ」
右手が持ち上げられ、指先を握り返された。感覚のみならず、鼓動までもが奪われる。
アメジオは扉を開け、先に中に入るのを促すように手のひらを見せてきた。その流れるような動きと、微かに和らいだ口元。エスコートされたのだと気づいた瞬間、リコの思考は真っ白に塗りつぶされた。
「ありが、とう
……
」
消え入りそうな声で応え、ダイニングに踏み出した。もう席に着いている面々も、マードックもポケモンたちもこちらを注視していて、リコの頬が急速に熱を持つ。何事も無かったかのように離された指先がひどく冷えるようで、席に着いたリコは胸元でその手を握りしめた。
何度だって付け直すから、またボタンが取れてしまえばいい。今度マスカーニャにお願いして取ってもらおうかとまで思いながら、リコは隣に座ったアメジオの澄ました横顔を盗み見た。
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