花は真摯で饒舌で

MHRウ教×ハ♀。両片想い。
前半ハ視点、最後のみウ視点。

花の色と花の数。



夜風は好きだ。涼やかで、何にも縛られず、無垢で、昂ぶった心を落ち着けてくれるから。

今夜は上弦の月。集会所の屋根上に立っていると、柔らかな仄明かりにも冷静さを教えられているような気がしてくる。

ただただ、空を仰ぎ、月を見つめていた。

それに浮かぶのは、愛しい我が愛弟子の姿、可愛いキミの笑顔。想いを自覚し募らせ続け、どれほどの時が流れただろうか。

今日ほど、里の見回りをする役目があって良かったと、心から思った日はないだろう。
脅威にいち早く気付くため、いつものように里を見回している最中、雑貨屋で花を買っている男を見かけて──心臓が縮み上がりながら飛び出てしまうかと思った。

すぐに分かった。きっと、キミに贈ろうとしているのだろうと。

彼が買った花が、7本の赤いガーベラなんてものじゃなければ、驚きこそすれ、ここまで胸がざわめくことはなかったかもしれない──なんて、当時、あれほど狼狽したくせに後になってから考える。

赤いガーベラは情熱や愛の意味を持ち、更には『7本』という花数。

それは、隠れた想いを告げる数。

それに気付いた時、俺の中で、様々な思考が、想いが、複雑に絡み合って。

あの男に対する嫉妬にも似た苛立ちのような気持ちと共に、心に従って行動できるその身軽さと潔さに、凄まじい羨望と焦燥を覚えた。

同時に、想いを告げようとすることすらできない自己嫌悪と、今の関係が崩れてしまうかもしれないという、魂まで凍りつきそうな恐怖。

……愛弟子。俺…………

月に向けて、無意識に、片手を伸ばしてしまう。
近くにあるように見えて、あまりにも遠くで輝く『それ』は、愛しいあの子と同じ。

あの男が花を買っている姿を見て、すぐに、俺も同じ花を買った。赤いガーベラの花を、1輪だけ。

俺にとって、キミがどんな存在なのかを花に込めると共に、 花の数を、8本にしたかった。7本のままでなんていてほしくない、浅ましい我儘。

けれど俺は、これでもあの男に感謝している。だからこそ選んだ、8という数。

感謝すべきだろう。俺の愛しい人の心を、多少なりとも花で慰めてくれたのだから。

でも、もう大丈夫。

それは、俺がやる。

「──愛弟子……! 好きだ……愛弟子……

伸ばしていた手を下ろして、その手を強く、強く握りしめる。

もう、先を越されてしまうなんて嫌だ。こんな自己嫌悪は終わりだ。

今度こそ、花の語りではなく、俺は俺自身の言葉で伝えよう。

もうすぐ──必ず、この想いを、キミに。
 



@acadine