保科
2026-05-11 01:26:14
3643文字
Public 超かぐや姫!
 

ねっとりなかよし

哲学について考えました 答えは出ませんでした いろかぐ/いろヤチ

あたまからつまさきまでぜんぶ


「義体のままでもいいよ?」
その言葉が予想外で、思わず私は瞬いた。
「そうなの?」
「てか現状が現代人間テクノロジーの最高峰で、それ以上の高望みをするほうがヤバくない?」
それを言われるとそうだけど。かぐや的にはそんなものかと、私は落胆を隠せないままに、そうだね、と空虚な相槌を打つ。
――あ、別にね?彩葉の言う所の『本当の人間になること』を否定したいわけじゃないかんね」
それを目ざとく感じ取ったのか、かぐやがゆらゆらと手を振る。
そう、それが私の提案だ。『もと光る竹』を解析し、彼女が本来手にするはずだった人としての肉体を取り戻すこと。
セラミックとシリコンでできたニセモノの身体なんて、この程度で満足なんてしてたまるか、まだまだハッピーエンドの道中だ――という意気込みの矢先の言葉。つまるところ、これは、かぐやなりの妥協、なのかな。
「妥協ってか、えー、……
あまり言いたくないときの言葉の濁し方。らしくもない遠慮はヤチヨとよく似ている。
引かない?嫌にならない?張られた予防線二つに勿論と即答する。もし、ご期待に添えないならそれは全部私が悪いから、どうとでもしてほしい。
「すぐ自分安売りすんの彩葉の良くないとこだよ。
どうとはしないけどさぁ。……や、ほら、義体だとメンテとか、調整とか、検査とかいろいろあるじゃん」
あるね、煩わしいのが。毎日毎週毎月、度々この研究所に私がこうしてかぐやを連れてこざるを得ない理由。
…………
むう、と愛らしくむくれた顔で黙り込んだかぐやが。私の顔を横目に見ながら、だからさぁと、そっぽを向いて言う。なんだというのか。
……つまり、今のかぐやの体って、彩葉無しでは、現実で動くことも、喋ることも、歌うことも――呼吸もできないわけじゃん」
「極端な言い方だけど、まあ」
「のがいい」
………………
のがいい。――そのほうが、いい、という言葉を咀嚼し切る前に、ほらぁ、とかぐやが口をとがらせる。
「引くでしょ」
…………いや。えと、」
湧き上がる感情の形容ができない。この子は――この、女は。生命のすべてを私に一手に握られていたい?目の奥に濁りはない。声の調子もいつも通り。正気であって、だから、それは信頼と呼ぶにはあまりにも危ういもっと深い何かだった。
私は、……でもさ、と、理性に従って言葉を絞り出す。それでも、今のままじゃ何かあったら。私に何かあったら――
――彩葉と一緒に、私も終われるね」
にたり、そう形容するべき歪な笑み。愛らしさの奥に滾る私の内側と同じものに、ああ、そうだね、そうだ、と間抜けた相槌を繰り返す。理性がドロドロ溶け落ちて、結局残るのは、まあいいけどさ、なんていつもどおりの私のOKサイン。
「このままでいっか」「このままでいーよ」
ああ、気付いた。特別でも、特異でもない。
この感情は、ただ、人が喜びと呼ぶものだ。