サブさぶれ
2026-05-09 09:51:51
15375文字
Public パロディ
 

bitter sweet bitter,bitter【高校生現パロ】

高校生現パロです。
①bitter sweet bitter,bitter (スグリ視点の話)
②甘くて苦くて、それでも甘い(アオイ視点の話)
③嗚呼、君よ。檸檬の味は未だ知らないで(①②の数週間後の話。アオイ父視点)


嗚呼、君よ。檸檬の味は未だ知らないで


 最近、娘に恋人ができたらしい。火曜と木曜だけ異様に帰宅が遅かったのがなくなって、今度は土曜の朝からオシャレして出かけるようになったから、「アーちゃん、何かあった?」と妻に聞いたら、そう教えられた。そういう話題、ママにはするけどパパにはしてくれないんだな。思春期の娘を持つ父親の哀愁をしみじみ感じる。
 妻曰く、春から片想いしていたお相手がいて、そいつに先日告白し、見事恋を成就させたそうな。言われてみれば確かに、雨降りなのにやけにハイテンションだった日があったな、と思い出した。いつもはソファーにぶん投げてる鞄を大事に抱き締めてたのも、ご機嫌だったからだろうか。素直な娘に育ってよかった。だが、恋人ができたってのは、パパ、複雑だな。
 娘の心をすっかり独占してるらしい子は、別の高校に通ってる同い年の青年らしい。真面目で礼儀正しく、娘をお姫様の如く大切にしているそうだ。何故そこまで知ってるのか聞くと、

「バイトとデートが終わったら、必ず家の前まで送ってくれてるのよ。本当、すごーくいい子。『お付き合いしてます』ってわざわざ菓子折りまで持ってきてくれたり。……あなたも食べたでしょ、鬼まんじゅう」

 食べた。隣の県の小さい町の銘菓が物珍しくて(あとアーちゃんが「パパ、これ美味しいから食べて!」ってゴリ押ししてきたから)いっぱい食べた。だがしかし。そこまで来てオレには挨拶無しなのは気に食わない。気持ちは分かるが気に食わない。ママは何もかも知ってるのに、パパだけ何も聞かされてなかったのが、寂しくて悔しい。
 だから「ごめん」と思いつつ後を尾けてしまった。土曜日早朝、鏡の前で何度も三つ編みをやり直していた娘の後を。ピンク色に染めた顔から、何度もうっとりしたため息を吐いた宝物の背中を、追いかけてしまった。
 辿り着いたのはいつもの駅。娘はそわそわした様子で、改札前の柱に立っていた。二分に一回程度、前髪を直してる。全然変わってないぞ、と突っ込みたくなったが、我慢。
 銘菓『鬼まんじゅう』発祥の地に続く路線を何度も何度も見上げ、ため息を吐いて、前髪を直して。繰り返すこと十数分。大きな瞳がダイヤモンドもかくやというほど輝いた。手を振る先を見やると、とてとてと一人の青年が駆けてくるところだった。

「おはよ、アオイさん」
「スグリ君! おはよう!」

 あれが噂のスグリ君。ふむふむ。顔はそこそこ整ってるか。身長もまぁまぁ。服のセンスは——正直オレにも分からないから、及第点ってことにしておこう。

「待たせてごめん。電車遅延してて」
「いつも待たせてるし、待つのも楽しかったから、全然」
「アオイさん、本当優しいな。ありがとう」

 青年が微笑む。アーちゃんの頬が薔薇色に染まる。恋する乙女の笑みを向け、青年の手を取った。青年の笑みが深まる。そして、さりげなく娘の荷物を自分の方へと移した。なるほど。性格もそう悪くはなさそうだ。さすがママとオレの娘、見る目がある。
 二人は手を繋いだまま隣県行きの路線へと向かっていった。よし、オレも——

「あなた、何してるの」

 呆れた声にギクリと振り返る。

「ママ! いや、これは……
「心配なのは分かるけど大丈夫よ。これからスグリ君のアルバイト先で勉強するだけなんだから」
「え、何で知って、」
「どうせ暇なら、このまま買い物行きましょ。私たちもたまにはデートしなきゃね」
「ま、まって、ちょ……、ああぁ……


 それから妻に引きずられ、昼過ぎまで買い物に繰り出した。「この色、似合いそう」と新しい手袋を買ってもらい、お返しにマフラーをプレゼントした。それから喫茶・コサジで遅めの昼食を取り、今は庭の落ち葉掃きを任ぜられている。
 コサジの名物ハヤシライスを食べながら、久々に思い出話に花を咲かせた。
 自分たちもお義父さんにはギリギリまで交際を隠していたね、あなたもデートの時に家の前まで送ってくれたよね、君も毎回可愛く着飾ってくれてたね。あなただって、などなど、くどくど。
 若い頃なんて、皆似たような道を辿るものなのかもしれない。真剣に——今振り返れば随分と可愛らしく交際して、相手の親に媚びたり怯えたり、それでも胸いっぱいの愛を守りたくて、突き進む。かつてのオレたちと似た道を、娘と彼氏くんは今まさに歩み始めたのだろう。先駆者にできることはたった二つ。温かに見守ること。そして、進む道が少しでも平坦になるよう、ひそやかに舗装してやることだけだ。 

「大人になったなぁ……。オレらも」

 冬枯れの風に独り言が攫われていく。乾燥した唇がピリリと痛んだ。
 門限を守るなら、再来週に迫ったクリスマスは二人で過ごしてもいいよ、と言ってみようか。夕飯に連れておいで、はさすがに気が早すぎるか。アーちゃんに「パパって本当せっかちだよね」と呆れられてしまうかもしれない。そうこうしている内に、純白のドレスを纏って——ああ、いかん。涙が……
 上着の袖で目元を拭っていると、玄関の門の前から人の声が聞こえてきた。

「そんじゃ、また月曜。いつものでよろしくな。……アオイ」
「うん。待ってるね。……スグリ」

 パパが見てない半日の間に呼び捨てになってる!? なんで、どうして!?

「アーちゃん!」

 気が付いたら、門の前、つまりは二人の前に飛び出していた。

「え? パパ、いたの!?」
「わぎゃっ! お、おとうさん!?」

 あどけなさの残る顔をした青年が、びくりと肩を跳ねさせた。オレはそんなのお構いなしで情けない声を上げた。

「まだお義父さんなんかじゃない!」