shio_nmnnk
2026-05-08 21:10:14
16373文字
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君にだけ捧ぐ 4話進捗2

オンリーで出した進捗(https://privatter.me/page/69d0f6db09e2d)の続き。時間がなくて終わらない

https://wavebox.me/wave/453vl3n40abxrlq4/
感想ください♡♡♡♡♡



 深い眠りについた由衣を、由衣が使っていた部屋のベッドに寝かせる。一定の呼吸音が聞こえる様子を確認すると、由衣の頬をゆるりと撫でた。由衣は敢助がこれからしようとしている事を止めようとすることは分かっていた。由衣の言葉を聞いてしまえば、躊躇してしまうのは分かっていた。
「ごめんな、由衣」
 由衣の髪を一房掬って、口づけを落とす。そして、二人に駆け寄ってきた敢助の眷属である黒猫、シュヴァルツが由衣のことをじっと見つめていた。
「由衣を頼んでもいいか。高明が来たら、由衣を託してくれ。他の奴が来た時は、お前が判断しろ。それが終わったら自由にしていい」
『分かったよ。だけど、それでいいの?』
 シュヴァルツの言葉に、一瞬だけ言葉が詰まった。だが、これはもう決めたことだった。これだけは、絶対に譲れなかった。
……あぁ、それでいい。俺は、もう行く」
 高明と、他にもう一人誰かがいる。上が無理矢理つけた見張り役かとも思ったが、高明が不要だと思った相手であれば、どうにかして撒いているだろう。それが不可能だった場合であろうと、もう一人も厄介な相手に違いない。敢助はそう思いながら、高明たちが向かった大広間へと向かった。

******

「よぉ、高明。待ってたぜ」
 高明ともう一人の男、恐らく近くの支部の人間が静かに敢助を見ていた。男は戦闘経験が浅いのか、手が震えている。なんでこんな奴を連れてきたのか、と考えていると高明が敢助を見てため息をついた。
「全く……。君のせいで随分と時間がかかりましたよ……。ところで、上原さんはどこに? まさか、もう生きていないなんて言うつもりはないでしょう?」
「んな訳ねぇだろ。由衣はこの屋敷にいる。場所はお前らで探せ。だが、由衣は俺の魔術で眠っている。俺が『起きろ』と言うか……俺が死ぬか術が解けるかしねぇと、由衣は起きることはない」
……氷室くん、由衣さんの捜索をお願いできますか」
「はい。魔術支援は必要ですか」
 第一声に『魔術支援』が出てくるということは、”氷室”という男は後衛か。わざわざ連れてきたということは、この土地周辺にかけた結界術を解くために連れてきた人間なのだろう。
「いえ、必要なものはこちらでできますから、手出しは不要です」
 氷室は高明の言葉に頷いて、敢助をちらりと見る。恐らく、攻撃を仕掛けられないか様子を伺っているのだろう。敢助はため息をついて高明を見る。
……ご武運を」
 攻撃をしてこないことをすぐに察した氷室は高明に告げると、部屋からすぐに出ていった。足音が遠ざかっていくことを確認すると、高明は目を逸らすなと言わんばかりの鋭い目線を向ける。
「『日月光を同じうせず、昼夜各々宜しき有り』……。吸血鬼になっても、君には居場所はあるでしょう。君の答えは変わりませんか」
「あぁ、変わらねぇな」
 敢助が即答すると、高明はため息をついて前に手を突き出した。
……それでは、一発殴って考えを改めてもらう必要があるようですね……。君も、ただ殺されるよりもその方がいいでしょう。……『ランツェ』。『クラフト・ケルパー』」
 高明が呪文を唱えると、光が収束し、彼がいつも使っている槍が現れた。もう一つの呪文は、身体強化の魔術か。
 そうだ、それでいい。結末がどうなろうと、敢助は高明と戦闘をした痕跡が欲しかった。そうすれば、高明もヴァンパイアハンターとしての責務を果たしたという証拠が残るから、上層部から悪いようにされないだろうと。あとは、模擬戦を行ってはいたが、実戦は当然ながらしたことがないかもしれないから、その考えが過って、敢助はフッと笑いを零す。
「そうだな。お前には何もせずに殺されるのは、面白くねぇな」
 敢助はニヤリと笑って自分の手のひらに噛みついて、血を流す。そのまま地面に流して、紅い剣を作る。
人間お前吸血鬼に勝てる算段はあんのか?」
「『彼を知り己を知れば、百戦して殆からず』……、とだけ言っておきましょうか」
 高明は、またいつものように訳の分からない言葉を使う。由衣が何か伝言を託した時に、術を編み込んだマントを着せてたから話は聞いていたが、あの言葉が何を意味をするのか分からなかった。敢助や由衣でさえも最初から理解させるつもりはなく、自分さえ伝わればよいと考えていたのだろう。今回も、その類か。
「また訳わかんねぇ言葉か」
「今の君に解説は不要でしょう」
「そうだな、結果はこの戦いが終われば分かることだ」
 そうして、金属同士がぶつかる音がした。
「まるで威力が調整出来ていない魔術を出されたらどうしようかと思いましたが……。杞憂で済んだようですね」
「チッ、あの威力の魔術を使ってやってもいいが……。それじゃあお前、さっさと終わっちまうだろ」
「それなら、やってみたらいかがですか?……それとも、怖いのですか。私がここで死ぬことが」
 高明は、槍を振り回しながら、いつもと何も変わらない表情で敢助に問う。魔術なんぞ、簡単なものしか使ってこなかった弊害で、威力の調整はまだ苦手だった。
 吸血鬼になって、やけになって。身体の一部を差し出したら大量の魔力と魔術の才を与えてやるからという言葉に乗って手に入れた力は、まだ使い余す代物だった。結界術も、何とか作り上げたものだった。認識阻害さえできればよかったから、そのまま放置していたこともある。
 吸血鬼を殺すことなんて慣れていたが、どうも人間を殺すことだけは敢助にはできなかった。由衣が、そのまま死んでしまったら自分も死んでしまおうかとも考えていた。
……んな訳ねぇだろ。手加減してんだよ」
「おや、本気で襲い掛かる吸血鬼の退治をどれだけしたかなんて敢助くんも知っているでしょう。……『フランメ』」
 高明が槍の柄を地面に突き立てて呪文を唱えると、穂が炎を纏う。纏った瞬間、敢助の左目に向けて槍を向けてきた。
ッ!『アムレット』!」
高明の攻撃が今はもう存在しない左目に突き刺さる寸前、魔術の城壁が展開される。敢助はすぐさま身をかがめて高明の腹目掛けて蹴りを入れるも、槍の柄によって威力が半減される。そのまま壁に向かって吹き飛ばそうとしたが、高明は少し後ろに押されるも、まだ立っていた。高明は乱雑に手で頬を拭う。
……ッ、これでかすり傷一つでも負ったらどうしようかと思いましたが……。腕は鈍っていないようで何よりです。最近、この地域では吸血事件がほとんどないようで。……君はこの屋敷に住処を構えてから、どれほどの吸血鬼を殺したんですか?」
 高明は、甲斐が吸血鬼に殺されてから、ひたすらに吸血鬼を狩っていた事を、敢助がどれほど吸血鬼を嫌っているか、知っているだろうに。
……さぁな、覚えちゃいねぇよ。あんな奴らの事なんざ!」
 敢助が手に持っていた紅い剣を液状に戻し、投擲をするように腕を振るう。血は雹ほどの大きさに細かくなって高明に向かって飛んでくる。
「『アムレット』!」
 高明はすぐさま攻撃が飛んでくるであろう範囲全てに魔術の障壁を展開し、攻撃を防ぐ。ただ、前よりも血の量が多かったためか障壁の一部に綻びができる。高明が攻撃態勢を整えようとした時には、敢助は高明の目前に迫っていて、敢助の拳が障壁を壊し、高明の腹部に当たっていた。
「グハッ!」
 高明はそのまま吹き飛ばされて、激しい音と共に壁にぶつかる。
「吸血鬼の血は少しでも肌に触れれば終わりだからなァ……?」
 高明は柄を地面に突き立てて、よろよろと立ち上がった。
「ぅ、ハァ……。流石に、解毒薬があったとしても、君の血に触れてしまえば、死んでしまうでしょうから……
「これで死んだらどうしようかと思ったぜ。まだ、動けるよな」
 敢助がニヤリと笑うと、高明はフッと笑う。
「君は隻眼になってから目に節穴でも空いてしまいましたか?」
「そんな事を言えるってことはまだ随分と余裕がありそうだな、高明」