shio_nmnnk
2026-05-08 21:10:14
16373文字
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君にだけ捧ぐ 4話進捗2

オンリーで出した進捗(https://privatter.me/page/69d0f6db09e2d)の続き。時間がなくて終わらない

https://wavebox.me/wave/453vl3n40abxrlq4/
感想ください♡♡♡♡♡



『祈らずにはいられない』

 月明かり一つない夜、魔術で光を灯しながら森の奥へと進んでいく。結界術が得意であったからか。ヴァンパイアハンター本部に所属している諸伏高明の話を聞いてしまったからか。何がどうであれ、『フロスト』支部に所属しているヴァンパイアハンターの隊員、氷室は内心、頭を抱えていた。猛烈に信仰している訳ではないけど、神様。どうして。どうして、こんなことに。
 諸伏高明は、最近、規則は破ってはいないものの、かなり破天荒な行動が目立っていると聞く。結果だけ言えば、悪い事は起きていないから、処分するにも難しく、上の階級の人たちが頭を抱えているとか。行方不明になっている大和さんと上原さんを必死にヴァンパイアハンターとして連れ戻そうと必死になっているとか。上原さんなら分かるが、大和さんに関しては一体どうして。
 氷室も少し交流はしたが、『結界術が得意でこの土地に詳しいならば』という言葉と、なぜか氷室の上司から高明の捜査協力許可があっさり下りてしまったので、ほぼ強制的に二人の捜索を手伝うことになったが、そこまで悪い人には見えない。何言ってるのかたまに分からないが。何語を話しているんだろう。
「君が結界術が得意だと聞いて安心しました。私も魔術の心得はありますが、専門に出来るほどの才はありませんから……
「たまたまそっちに適正があっただけですよ。前線で戦えるほどでもありませんし……。でも他に才能があるなら、そっちを伸ばした方がいいですよ。知能が高い吸血鬼だと、こっちも狙われますし」
「えぇ、そうですね……。我々も、その前に仕留められることが一番ですが。そういえば、魔術を専門とするなら、術の耐性は高い必要はありますか」
「そりゃあ、高いに越したことはないです。低ければ、結界術の応用で耐性を高めているんですよ。多分、後衛職に就いて、魔力量に余裕がある人なら常時発動させているんじゃないですかね。後衛がいなくなれば、前衛にも影響が出るし、生き残らないといけませんから」
 最低限、前衛と後衛の区分があるので、軽い研修を受ける。そこで叩き込まれたのだ。後衛は、前衛のサポートが主であること。回復も行うこともあり、前衛の命の手綱も握っているからこそ、絶対に生き残らなければならないと。わざわざそれを前衛に言う人はいないから、前衛の人はこのことをあまり知らない。
「おや……。それは大変ですね」
「本当に! ただ限定的な条件でデメリットもあって、洗脳まがいの強力な術を吸血鬼に使われた時ですね。本来はその時の意識も、記憶もなくなるものだったようですが……。あれは本当に最悪でしたよ。意識はハッキリしているのに、体や口は勝手に動くんですもん! 二度と受けたくないですね!」
……そうでしたか」
 高明はわずかに声のトーンが低くなる。何か不味いことでも言ってしまったのだろうか。いやしかし、ありのままを伝えただけである。何はともあれ、この話題はよした方がいいかもしれない。何か、いい話はないか。
「そ、そういえば!う、上原さんと大和さんってどのような人なんですか!」
「彼らですか……どうしようもないくらい、お人好しです。私が孤児院に入ってからも、ずっと交流を続けてくれていまして。彼らとは付き合いが長いので……。20年以上は交流があります」
「20年!? そ、そりゃ心配にもなりますね……。仮に、二人を見つけることができても、上層部はどう判断するんでしょう」
「彼らは私の班員ですから。いなくなってしまう事はかなり困るんですがね……。上原さんはとても優秀な隊員ですし、敢助くんから班長の仕事の引継ぎが完全に終わっていませんから……
「え!? 大和さん、班長だったんですか!?」
「えぇ。完全に吸血鬼になるよりも前に、2割ほど吸血鬼になってしまいまして。その時に任を解かれたんです。吸血鬼である事に変わりはないから、と……。上も、面倒な事をしてくれたものです」
 班長には、かなりの経験と功績、当人の性格などの評価なければなれるものではない。吸血鬼になってしまってからの噂しか聞かなかったが、班長であったのならば、かなり優秀で人徳がある人間だったのだろう。吸血鬼を倒す組織である以上仕方のないことではあるが。氷室は吸血鬼にかなり恨みを持っている部類ではないし、そもそも身近な人間が吸血鬼になったなんて聞いたことがないから、あまりピンとこない。
「そうなんですね……
 良かった、噂で聞いた大和敢助と上原由衣の話をしなくて。20年以上の交流があるなら絶対に仲良しじゃん。上原さんの話はそこまで悪いものはないけれど。
「えっと……。この辺りなんですけど……
 頭の中に入っている地図でも、持ってきた地図でも、そろそろ建物が見えてくるはず。だが、進めど進めど森の中だ。
「結界の影響でしょうか」
「そうかもしれません。……準備をします。少し、離れていてください」
「分かりました」
 高明が氷室から少し距離をとったことを確認すると、氷室は深く息を吐いた。魔術書を取り出して、ページを開く。そして呪文を唱えた。
「『ズーヘン・グレンツェ』」
 二人が立っているあたりに地面を這うように、淡い光が放たれる。目を閉じて術に集中する。脳内に周囲の視界が広がった。数メートルは同じ景色が広がっている。場所を間違えたか?いや、違う。結界のせいで、無意識に結界の範囲を避けているのではないか?
 氷室は目を開き、別のページの魔術書がパラパラと捲られる。
……試してみるか。『ズーヘン・ツァオベライ』。『ヴィント』。『クラフト・オーア』」
氷室が呪文を唱える。すると、氷室を中心にぶわりと風が吹き、草木が揺れる。氷室の耳は、少し先の道でカツンと音が鳴ったことが分かる。
……諸伏さん。恐らく、少し先に結界があります。認識阻害の術式が込められているようです。実際に見てみないと断言できないですが」
「分かりました。その様子では、私が何か手を貸す必要は無いようですね」
……強いて言うなら、周囲の警戒をお願いしたいです。かなり大規模な結界のようなので、監視の目があると思います。感知は出来る方ですけど、術の解析と同時は流石に無理です」
 氷室が言うと、高明はスッと上空を指を指した。氷室が顔を上げると、そこには一匹のふくろうが木に留まっていた。よく見ると目が紅いような。吸血鬼の眷属である気が。
「そうですね。監視の目はあるようですが、こちらに手出しをして来ていませんから現状は問題はないかと……。恐らく、結界に入っても攻撃は無いと思いますよ」
「早く言ってくださいよ! それ!」
「氷室くんが術を使っている時に手が空いていたものですから……。ついで、ですよ」
 さすが、本部の人間だ。細かいところまで考えている。だが、それにしても他に伝えるタイミングだとか、そういったものはあるだろう。先輩から明らかに言葉を選んで諸伏高明について教えてくれたが、そういうことだ。
……そうですか。でも、どうして結界に入っても問題ないと思うんですか?」
「彼だから、ですね。君が上原さんに危害を加えなければ無傷で帰れるかと。危害を加えたら良くて重体ですね」
「つまり高確率で死ぬと」
「えぇ」
 氷室の質問に、高明は微笑んで頷いた。勘弁して欲しい。
 高明の話をまとめると、敢助はむやみやたらに傷つけるような吸血鬼ではないということだろう。ただ、由衣のことになると容赦がなくなるということか。噂程度ではあるが、彼らがただならぬ関係だということは知っている。上原さんの方は分からないが、大和さんは上原さんにかなり執着しているのか。
 氷室は、高明が『フロスト』に来ると聞いてから、興味本位で調べていたことがある。確か、討伐か捕獲任務で吸血鬼になった大和敢助に、上原由衣が攫われたという話だった。詳細は分からないが。
「そもそも、上原さん任務中に、合意なく攫われてますし被害者ですよね? 危害なんか加えませんよ……。仮に吸血鬼を庇ってもあまりそういう事はしたくないです。大和さんともこう……いい感じに話し合いで解決したいですけど」
 ここは人口も都市部に比べると少ないから、物騒な事件もほとんどない。吸血鬼を憎んでいるからヴァンパイアハンターになった訳でもない。正義の味方に憧れただけ。戦わなくてもいいのなら、それに越したことはない。犠牲と傷は少ない方がいい。何よりもまだ、死にたくない。恋人とかそういうのはいないが、死ぬにはまだ人生を満喫してない。
「おや、君は上原さんと気が合うと思いますよ。敢助くんとはあまり合わないかもしれませんが……
「へ、それってどういう……
「敢助くんは、吸血鬼という存在そのものが赦せないんですよ。彼らの恩人が吸血鬼に殺されてから、特に」
「そ、そんな人が吸血鬼になってしまったんですか……!? そんなのって……
 自ら死を選んでしまう可能性だって、あるのではないか。もし、自分が吸血鬼のことが憎くて堪らなくて、それなのに吸血鬼になってしまったら。そのまま、生きることはできるのだろうか。そう考えてしまう。氷室が言葉を続ける前に、高明は口を開く。
「こういった時、『神からの試練』と言いますがね……。そうだと言うのだとすれば、これを乗り越えた時には、お釣りどころか倍になって返ってもらわないと困るんですよ。そうでなければ、もう前へ進むことも億劫になりそうなんですよ。神がどう考えようと、どう動こうと、私が望む未来を自ら掴み取るだけです。……それしか、私にはできませんから」
……そうですね」
 もし、神が本当にいるのであれば。どうか、彼らにとっての幸福な未来を与えてくれと。祈らずにはいられなかった。

****

 氷室は結界の解析を進める。結界術は魔術の応用系で、その分多くの技術を必要とする。ただ、どうやらこの結界は範囲を広げることを優先し、複雑な術式を組み込まれていないように思われた。
……結界はあくまで認識を阻害する為だけのものです。出入りをしても何も問題はないみたいです。普通は、入ることはできても、出ることは難しいものが多いんですけど……
「そうでしたか……。予想通りですね。では、このまま進んでもよろしいですか」
 高明の言葉に氷室は大きく頷く。高明も疑っていないということは、敢助はこういった場面では騙し討ちはしない、真っすぐな人物なのだろう。ただ後衛としては、それで前に行かせるなんて真似はできない。たまにあるのだ、分析しても、罠が仕込まれていることだってある。その場合は魔術であることが多いから、いつも魔術の防衛対策をしている自分が先に入るほうが幾分かマシなのだ。
「はい。念のため僕が先に入ります。防衛の術はありますから。それに、道を知っているのは僕だけですし。ここまで来たんですから、腹括って最後まで案内しますよ」
……頼もしいですね。頼みましたよ」
 氷室はゴクリと唾を飲んで、結界内に足を踏み入れる。地面に足をついても、全身を結界内に入れても問題はない。
「『ズーヘン・ツァオベライ』」
 特に罠があるわけでも無い。結界内の侵入のため術者にはバレているだろうが、眷属の動物たちにも動きは見えない。何が目的なのかは一切分からない。ただ、本当に屋敷に向かうのは問題がないのだろう。
「大丈夫です。本当に何も起きません」
「それでは向かいましょうか」
 高明が結界内に足を踏み入れたのを確認し、氷室は森の奥へと足を進めていく。結界が張られていた程度で、それ以外は何も変化は見られない。道中はかつて貴族が住んでいたこともあり、屋敷に近づいていくと、石畳が現れる。ただ、手入れもされていないから、石はひび割れ、草や苔でところどころ覆われていた。ただ、気配も隠されていたのだろう。屋敷が見えてくる頃には、ただならぬ気配が体中に伝わってくる。目の前で対峙していないのにこの圧を感じるなんて、相当上位の吸血鬼だ。氷室は少なくとも、そこまでの相手と対峙したことなんてあるわけない。
……大和さんって、もしかしなくても相当上位の吸血鬼じゃありません?」
「えぇ。彼は人間時代、かなり吸血鬼から狙われていましたから。それこそ、上位種が欲しがるくらいに。吸血鬼になったのも、弱みに付け込まれたようなものです」
 上位種に狙われる人間なんて、よほど血が美味いか、吸血鬼への適正が尋常ないほどに高いか、だ。今まで吸血鬼になっていなかった事が信じられないレベルである。その上、ヴァンパイアハンターで吸血鬼との遭遇率も高いどころの騒ぎではない。元班長だったという時点で元の実力が高いことは分かっていた。彼を吸血鬼にした吸血鬼よりも強くなっていてもおかしくはない。
 そんな吸血鬼と対峙しなくてはならないのか。氷室は内心頭を抱える。絶対無理。いやでも、上原さんに危害を加えなければ大丈夫だとはいうが。
……もっと早く言ってくださいよ」
「聞かれませんでしたから。それに……それを事前に知っていたら断っていたでしょう? 本部以外の人間で、この事を知ったうえで話に乗ってくれるのは、相当血気盛んな人か、是が非でも昇級したい人くらいですから……。君のような人間に手伝ってもらいたかったんです」
 恐らく、話の限りと大和さんも上原さんも生きた状態でここから連れ出したい訳だから、彼が挙げたような人では、何が起きるか分かったものではない。
……まぁ、上昇志向がないのか、って言われるくらいですからね。僕は人を救うことができればそれでいいんです」
「その心意気、忘れないでくださいね。……それでは、いきましょうか」
 氷室は高明と共に足を踏み入れた。屋敷は薄暗く、何か手がかりはないものかと周囲を見渡すと、扉の内側にべっとりと血の跡がついていた。匂いもしないことから、おそらくこの血がついたのはかなり前だ。
「諸伏さん、血が」
……直近のものではない。荒らされた様子もないですし、ここで戦闘があったとは思えませんね。……やけに静かである事も気になります。とにかく、早く彼らを探しましょうか」
「はい」
 死体はいつ見ても慣れないものだ。というより、慣れたくない。誰の血か分からないが、安否が分からない以上は安心ができなかった。それは高明も同じだったのか、迷いなく屋敷の廊下を進みだす。氷室も置いて行かれないように、急ぎ足で高明の後を追った。初めて来るはずなのに、足取りに迷いが無さすぎる。事前に地図は渡したから、屋敷の間取りを知っていてもおかしくないが。
「な、何か策はあるんですか? というか、どこに向かっているんですか」
「一階の大広間です。敢助くんはそこにいるかと。上原さんはどこにいるか断言できませんが」
 高明は、武器も構えずに大広間がある場所へ進んでいく。前に調査で訪れた時は、対したものがない、広い空間だった記憶があるのだが。もちろん、それは高明にも共有していた。一体彼らは何を考えているのだろう。新月で、窓からの明かりは一切入らない上に、魔術での明かりしかないからか、高明の顔は見えなかった。
……大広間は、僕たちが最後に調査に行ったときは広い空間でしたけど、今は何があるか分からないですからね。せめて、武器はいつでも構えられるようにしていてください」
「えぇ。勿論そのつもりです」
 高明がそう言って大広間に足を踏み入れると、一匹の蝙蝠が現れる。そうして、部屋の中心に一気に集まったかと思うと、そこに一人の男が姿を現した。褐色肌に高身長。左目に傷がある、吸血鬼の紅い目を持った隻眼の男。大和敢助だ。他に誰の姿は見えなかった。
「よぉ、高明。待ってたぜ」
 冷たい声と共に、暗闇に、ただ一つ。紅い光が怪しく光っていた。