shio_nmnnk
2026-05-08 21:10:14
16373文字
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君にだけ捧ぐ 4話進捗2

オンリーで出した進捗(https://privatter.me/page/69d0f6db09e2d)の続き。時間がなくて終わらない

https://wavebox.me/wave/453vl3n40abxrlq4/
感想ください♡♡♡♡♡



 由衣はせっかく敢助が買ってくれた靴を履き慣れたいと言って、敢助と共に中庭へと歩みを進めていた。由衣の提案に、敢助は眉を顰めたが手を繋いだら許してくれた。最初はただ手を繋いでいただけなのに、いつの間にか手を絡められて恋人繋ぎになっていた。腕がくっつくほど近距離で、少し距離を取ろうとすると腕を軽く引っ張られて元の距離を保たれてしまう。
 顔が熱くなることを自覚しながら敢助を見ると、柔らかく、目を細めてくすりと微笑んでいた。その顔を見てしまえば、由衣が文句を言えなくなる事を分かってやっているに違いない。由衣が顔を正面に向くと、握った手に少しだけ力が込められた気がした。
 中庭が近づいてきた頃、敢助は由衣の顔を見て、少し眉を顰めた。
「お前なぁ……。今日じゃないと駄目なのかよ。新月だと暗くて危ねぇだろ」
 敢助に言われて、廊下の窓を見る。確かに、外はいつもより星が多く見える気がする。任務は夜であるため、月明かりは重要であった。隠密に行うのであれば、なるべく新月の日に。逆に派手に行っても問題がないのであれば満月の夜に。だから由衣も月の満ち欠けは気にしていたが、最近は気にする必要がなくなったし、何日経過したかある程度計算するために見ていたが、そこまで見ていなかった。
「通りで今日は暗いと思ったわ。最近はもう、いちいち月の満ち欠けなんて見てないわよ」
……なら良いが。それにしても、何をするつもりなんだ?」
「ふふふ……。それは見てのお楽しみ!」
 由衣が何日もかけて行っていた中庭の掃除も終わり、人が暮らしていた頃の美しさを取り戻していた。ここで魔術を使おうと思っていたのだが、敢助との距離が近すぎる。集中しようにも、どうも自分の心臓の音がうるさかった。
「えっと……。ちょっと、魔術使いたくて……。集中したいから、少し手を離してもらってもいい?」
「嫌だって言ったらどうするつもりなんだ? 由衣はそんな事をしなくても魔術は得意だろ?」
 敢助は手を強く握ったまま由衣の耳元で囁く。体がぞわりとするけれど、そんな事をしている余裕なんてない。
「しっ、失敗したくないの! 綺麗なもの、見せてあげたいの。敢ちゃんの、為なの。少し離したくらいじゃ、私は敢ちゃんから離れるつもりはないわ。魔術が失敗したら大変なの、分かるでしょう?……だめ?」
……仕方ねぇな」
 敢助はそう言って手をゆっくりと離した。由衣は一歩足を踏み出して、深呼吸をする。目を閉じて、噴水の辺りにある芝生に両手を翳した。
「『ブリューテ・ブルーメ』」
 由衣が呪文を唱えると、ぶわりと薄水色の花が庭中に咲き乱れた。『シュネー』にしか咲かない花。たまたま咲いていたから、魔術で使えるように覚えたのだ。本当は、雨も降らせて、氷のように透明になった花を見せようかと思ったが、今回は花冠を作りたかっただけなので、また別の機会にする。
「『クライン・リヒト』」
 魔術で、花がよく見えるように明かりを灯す。青白い光が庭一体を照らした。
「どう?綺麗でしょう?昔からね、この花見てみたかったのよ」
 由衣が後ろで振り向けば、いつの間にか敢助が隣にいて、花をよく見るためにしゃがんでいた。由衣も敢助にくっつつように、隣にしゃがんだ。
「この花か。そういえば、そんな事言ってたな……。でも、こんな花ならどこでも咲いてんだろ」
 由衣が幼い頃に、敢助に図鑑を見せたことを覚えていたことに口角が上がる。ただ、詳細は覚えていないようだ。
「もう! そこは覚えてないのね? じゃあ特別に、何で私がこの花を見てみたかったのか教えてあげるわ。……『クライン・シュプリュー・レーゲン』」
 由衣が魔術で小さな雲を出し、花畑の一部に霧雨を降らす。花弁が薄い水色の葉脈を残し、ゆっくりと透明になっていく。
……すげぇな。透明になんのか」
「そう!原理は詳しくないから分からないんだけど、綺麗でしょう? 何輪か摘んで部屋に生けようかしら……
 由衣は目を輝かせながら花びらを何輪か見る。どの花を使って花冠を作ろうか。
「俺も、今度花が載ってるような図鑑見てみるか……
 今までろくに花の区別がつかなかった敢助が呟いたのを見て、由衣は目を輝かせて敢助を見る。
「じゃあ、今度いい図鑑オススメするわ! 欲しかった図鑑があるのよね!」
「俺に買わせる気かよ」
「だってここから出してくれないのは敢ちゃんじゃない。私、買いにいけないもん。ちゃんと言うこと聞いてるんだから、そのくらいのご褒美はいいでしょ?」
「それもそうだな。……ただ、俺から離れないっていう約束を守るなら、街に連れていってもいいぞ」
「いいの? ふふ、じゃあそうしようかしら! 私が欲しい本、上級者向けだし……敢ちゃんには子供向けの図鑑の方がいいかもって思ったの! 実際に色々見た方が、敢ちゃんにいい本が見つかるのにって」
 由衣は少し早口気味に話していると、敢助に片手でむにゅっと頬を掴まれる。敢助はむっと眉を顰めている。
「俺を何だと思ってるんだ」
「むぅ……。花と雑草の区別がつかないのに、偉そうな事言わないでよ」
 敢助は由衣の言葉を聞くと、ばつが悪そうに目を逸らす。その自覚はあるみたいだ。
「ふふ、敢ちゃん可愛い」
 由衣はそっと手を伸ばし、敢助の両頬を撫でる。敢助の耳はほんのり赤くなっていた。由衣は口角を上げ、敢助に顔を寄せて口づけを落とそうとすると、敢助の手によって阻まれた。敢助の手のひらに由衣の唇が触れる。敢助の顔はすっかり赤くなっていた。
……あんま調子に乗るなよ」
「ふふ、調子に乗ってる私は嫌?」
……うるせぇ、嫌な訳あるかよ」
 敢助は由衣の肩に手を伸ばし、トンッと軽く押す。由衣はされるがままに花畑の上に倒れた。ふわりと花びらが舞う。
「綺麗だ、由衣」
「ふふ、嬉しい」
 敢助に両手を伸ばす。敢助も口角を上げて、由衣の頬に触れる。由衣に顔を近づけようとした時、敢助の体がぴくりと動いたかと思うと、途端に苦虫を噛んだような顔をした。
「敢、ちゃん……?」
……そうか、もう」
 敢助は、どこか遠くを見て呟いたかと思うと、何か考え込んでいるのかブツブツと呟いている。何か、嫌な予感がした。由衣は敢助に気付かれないように自身に簡易的な防衛結界を張る。由衣はこの結界術は真っ先に極めていて、簡易的なものであれば、瞬時に使えるようになっていた。
 敢助が由衣を見る頃には、その目は紅くぼんやりと光っていて、所有印が熱を帯びた感覚に襲われる。由衣が攫われる時、敢助によって魔術を使わされたと同じものだった。敢助は、強制的に由衣に何かをさせるつもりだ。もしかして、高明がこの場所にやってきたのだろうか。
「止めて、お願い……
 由衣に危害を加えるようなことはしないと分かっている。だが、由衣がそれを呑まないことを分かっているから、敢助は無理矢理言う事を聞かせようとしている。
……怖いことなんて何もねぇよ。ただ、眠るだけだ。俺が起こすか、術が解けるまで。……それまで、眠るだけ」
 敢助がその言葉を口にすると、ぐわんと強烈な眠気に襲われる。頭が霞かかったようにぼんやりとして、瞼がとても重い。瞼を閉じたいが、閉じてしまうと、いつ目を覚ますことができるか分からない。けれど、瞬きの動きがゆっくりとしてくる。だんだん、頭が回らなくなっていく。だんだん、視界が狭くなってくる。
「いや、よ……
 そして、由衣の意識は暗転した。