満天をつれて

レゾンデートル骨董店にようこそ二次創作…!!
彼の作品への愛が迸りました。目一杯の感謝(と幻覚)を添えて。※2巻要素含みますご注意!!


最期の主の容貌が焼きついた守り刀と赤子の頃から彼女とあり続けるブローチの話




人間、強いては子供の成長は目を見張るものがある。ふとした時に垣間見える精神性や雰囲気がまだまだ幼くとも、月日を追うごとに目線の高さが近くなり身長と体格は確実に大人になっていく。
常日頃リュシオールと行動を共にする彼女の宝物であるブローチのピュールが彼女が寝静まった夜、こっそりベッドから抜け出して大先輩である守り刀のルクソールのもとに訪れた日はもう両手では足りない。

「先輩ィ、オイラ、オイラァ~
「泣くなみッともない」

べそべそ、ふわふわ。ヒゲを頼りなく下げ涙で濡れた黒い後輩をしかめっ面で抱き留め真夜中の庭園に連れ出すのが日課になりつつある事実が更に顔を顰めさせる。
手入れの行き届いた庭園内を歩くたびバラの香りが二人を包み隠し、決まった順路を進まなければ辿りつかない白亜のガゼボに着くやルクソールは腰を下ろした。黒く小さな手がぎゅっと掴んで離れない、それどころか顔を埋めすすり泣く姿にかつての自分を重ねるなとは無理な話だ。
子供が成長していくのは嬉しいことこの上ない。
だが、それは同時にいつか来る別れの時が近付いているのと何ら相違なく、まだ別れの言葉を交わせる時間があればこれ以上ない幸福なことだろう。
しかし、運命の悪戯は突如として愛していた人を連れ去ってしまう。それを文字通り身を以て味わっているからこそ、ルクソールは夜な夜な泣きつきに来るピュールを邪険にしないでいる。人間と同じ五本指の左手で存外触り心地の良い艶めいた漆黒を撫でると、落ち着いてきたらしく控えめな喉を鳴らす音がルクソールの体に伝わってきた。
ピュールがルクソールのスカーフにめり込んでいた顔を上げれば、器用にリュシオールとお揃いの真っ赤なスカーフを顔面に被せている姿に内心「(涙対策)」と、ルクソールが独り言ちた。

「ありがとう先輩」
「で、今度は何に泣いてたンだ」
「えッと、うンと――。リュシがぁ~

折角泣き止んだというのにこれでは振り出しに戻ってしまう。
潤み揺れる大きな目に溜まった涙を長い指で拭い苛立つ感情を極力抑え話を促せば、ぽつりぽつりとルクソールにリュシオールのことを語り出した。身振り手振り表情豊かに話すピュールの話を短い相槌を打ち聞き役に徹する。その話の大半は常日頃骨董店内で起きた出来事であり、事にどれだけリュシオールがいい子で大好きで愛しているか、ずっとずっとずっと一緒に居続けたいけどいつか来る別れの時にはたしてちゃんと見送れるかどうかという悲痛な心の叫びだった。

「オイラ、オイラどうしよう……
「何度も言うが、とンでもなく絶望だから覚悟しとけ」
覚悟たッてそンな……
「無理だと?」

無言で頷くピュールの黒い手が赤いスカーフをぎゅっと握りしめる。
元気なく垂れ下がった耳、丸く震える小さな体を引き寄せ膝の上に乗せればきょとんとした顔がルクソールを見上げた。

「俺もリュシオールとコリン、二人との別れは覚悟してる」
「先輩も?」
「俺だけじゃない少なくとも骨董店にいる全員、最愛の友人たちと今生の別れだ。……辛くないわけないだろう」

誰も彼も言わないだけで胸の内では誰しもが思っていることだ、二人には他言無用だぞ。
そうピュールの目を見つめ殊更やわく寂しげな声色で話すルクソールにピュールは何度も頷き、頼りなくとも小さな黒い手を固く握りしめ自分自身を勇気づけるのだが――

「せンぱ~い
「またかッ」

やはりまだまだ上手くいかないようで面倒見のいい大先輩の所に訪れる日々は続いたという。