満天をつれて

レゾンデートル骨董店にようこそ二次創作…!!
彼の作品への愛が迸りました。目一杯の感謝(と幻覚)を添えて。※2巻要素含みますご注意!!


眠れない夜を知っている子どもたちの話




似て非なるされど近しい境遇からか。明かりの消えた部屋。閉め損ねたカーテンの隙間から覗く満月が空に昇っていくのを目で追い、とうとう薄暗い中をぼんやり浮かび上がる輪郭を頼りに部屋を抜け出した。
目に見えない軌跡が廊下を照らしてくれるお陰で迷うことなく目的の部屋に辿り着く。持ってきた自分の枕を抱え直し扉の前で深呼吸。数回ノックをすれば一拍置いて返ってくる警戒心も何もない「どうぞー」の声にコリンはフッと笑みを零しつつ扉を開けた。

寝れねぇのか」
「うん、コリン君も?」
「ああ」
「オイラたちと一緒いっしょ」

首元まですっぽり被っていた掛布をずらし起き上がろうとするこの部屋の主――リュシオールと彼女の宝物ピュールを手で制止したコリンがゆっくり二人のベッドに歩み寄る。後ろ手に扉を閉め暗闇に慣れた目にも優しく揺らぐ蛍火のランプが枕もとを煌々と照らし、リュシオールの太陽に愛された力強くも優しい金糸とピュールのあたたかな炎のように燃え上がる薔薇を内包する黄蒼玉が心なしか楽しく輝いている様に安堵感を覚えた。
漠然とした不安、はたまた不意に訪れる寂寞が眠気をどこかに追いやってしまう。冴えた目が何んとなしに空に浮かぶ月を眺め気付けば朝を迎える日が両手足合わせても足りやしない。
おずおずとベッド傍に近付いたコリンのため、ぎゅっぎゅと彼が入れるスペースを作るリュシオールとピュール。持ってきた枕を置き遠慮がちに掛布を捲って体をすべり込ませた。自分のではない体温で温かくなった布団の温もりが優しくも切ない母親と一緒のベッドで寝た思い出を呼び起こし、それは小さな棘となってコリンの心に刺さり鈍く痛み始めた。

「(……これはダメかもしんねえ)」

この痛みと悲しみはリュシオールとピュールの所為でもなければ誰の所為でもない。未だ母親との思い出を上手く受け止めきれない未熟な己自身が招いたこと。じわり熱くなる目頭に気付かれる前にベッドから抜け出そうとするコリンの腕をぎゅっと掴んだだけじゃなく更に引っ張り込むリュシオールとピュールに彼の左右で雰囲気が変わる若紫の目が瞬いた。
戸惑った面持ちですぐ間近にあるベッドに引きずり込んだ相手を見れば、いたずらが成功したようなそれでいて心底嬉しそうにはにかんでいた。

「えへへ。あたし、眠くなるまでお喋りしながら同じベッドで寝るの憧れてたんだ」

ピューちゃんとは夜更かしでカードゲームしたことあるんだよ。
他意もなければ裏もない。コリンの昏くなりかけた気持ちなぞつゆ知らず、純粋に真夜中の訪問者を喜んで出迎えてたリュシオールとピュールはこれから楽しくなる夜に興奮しっぱなし。思わず嬉しさで緩んでしまう口元をピュールの頭を撫でて誤魔化したのは言うまでもなく、「ねえねえコリン君、ルクソール先輩ってはじめ怖いって思わなかった? でも、あれってさ――」から始まった会話はその後何処から聞きつけたのか定かではないご主人様、フーさん、ルクソールが立て続けにリュシオールとピュールの部屋に訪れたことでお開きとなった。





「(あれから大分経って一応大人になった、のだろうか)」
その日の食事や寝床に困ることがなくなったお陰でコリンとリュシオールは年相応の成長を遂げた。特にコリンに至っては栄養を取った分だけぐんぐん成長していき、今ではリュシオールくらいであれば余裕で持ち上げられるほど。

「(子供ん頃、あんま大差なかったのにな)」

無邪気に「ブランコ~♪」とはしゃぐリュシオールとピュールを見下ろしては、随分と大きくなってしまって手にすっぽり包まれる彼女の華奢な手のか弱さに目を眇め、「(ガチに喧嘩しても勝てる気がしねぇな)」といつ時かの記憶に思いを馳せ静かにリュシオールを床に下ろした。トンっと軽い音を立て着地後コリンに向かって振り返る際、ふわり鼻腔をくすぐる品の良い香りが否応なしに彼女は女性なのだと知らしめる。
二人揃っていい年頃の男女、子供の頃と変わらず時折り同じベッドで寝れば何も起こらないはずがなく――

「前々から聞こうと思ってたんだけど、コリン君って髪型ルクソール先輩意識してるよね」
「そそそそそ、それがどうした?!」
「それオイラも思ッ、ぼるぼるぼる」
「あーっ! またピューちゃんのこと撫で繰り回して誤魔化してるっ! もうっ、今夜は話聞くまで絶対寝かさないんだから!!」

新しく新調してもらった大きなベッドで二人と一匹、夜遅くまでルクソール先輩談議に花を咲かせたのは言うまでもなく、その様子を少しだけ開けた隙間から覗いていたご主人は優雅に微笑み、話題に上がっている当の剣は俯いた顔を左手で覆い唸っていたという。