宝箱から溢れる追懐

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ウ視点。

久しぶりの自宅掃除中に、宝物を見つけたウ教。

ぱたぱたぱた、と軽快にはたきを振るう。

得物ではなく掃除用具を握るのは、とても久しぶりな気がした。

舞散る埃が嘘のように、陽射しの中できらきらと煌めいて、まるで星が落ちてきたよう。紺藍色こんあいいろの道着を着ている影響か、俺の周囲の埃もよく見える。

(いやあ、久しぶりに掃除に集中できるなあ!)

後進の育成に任務に狩猟に哨戒しょうかいに、我が愛弟子との時間にと、里の教官でありハンターであり、里長の右腕であり、里守でもあるため、多忙が当然の俺の毎日──だが、珍しくそれが落ち着いた日の、快晴の昼時。

不在の多い我が家だが、今日は畳の間の戸棚の前で、鼻歌混じりに掃除に勤しむことができていた。

土間の方では俺のオトモアイルーであるデンコウが、両手で小さな竹箒たけぼうきを持って掃き掃除に励み、畳の間の隣、板の間にある囲炉裏周辺ではオトモガルクのライゴウも、口と前脚を器用に使い、大きな雑巾で拭き掃除をしてくれている。

疲れていないか、無理はしていないかと、ちらちらと二匹の様子を確認していたのだが、主人である俺のそんな視線に気付いたらしい。
竹箒で掃き掃除をしていたデンコウが、こちらを向いてにっこりと微笑んでくれた。

「ご主人、こっちはもう終わるニャ!終わったらそっちのお掃除のお手伝いするニャ」
「ありがとう! 助かるよ、デンコウ! そろそろこの戸棚の中の整理をするつもりなんだ!」
「了解ニャ! 色々なものいっぱい出てきそうニャねえ、すぐ行くニャ!」

決して中途半端にはせず、ますます手際良く竹箒での清掃を再開したデンコウに感心しつつ、俺ははたきを動かす手を止めた。

埃を落とした戸棚の前にしゃがんで、はたきを畳の上に置き、最下段の引戸ひきどに手をかける。

「さてさて、久しぶりに開けるな……っと」

かこん、と滑りの良い引戸が開かれると、まずは予想以上に、木と古びた鉄の香りが迎えてくれた。
カビ臭さや埃っぽさがないことには、ほっと胸を撫で下ろす。

引戸の中に顔を近付けると、そこには昔使っていた装備品であるカムラノ装の一式が入った蓋のない木箱が置かれていた。
その隣にはお面の試作品が何枚か入った木箱と、昔お面作りに使っていた古い彫刻刀やのみの入った小さな長方形の木箱も置かれている。

一目見れば鮮やかに記憶が灯る、とても懐かしいものばかりだ。

「そっか、ここにしまってたんだっけ……

しばらく姿が見えなかった物に纏わる思い出に惹かれ、俺は妙に嬉しくなって箱に手を伸ばし、中の物を引っ張り出した。

当時、歯を食いしばるほどの辛いこともあったのに、今となってはその時の物を見てこんなにも心躍るのだから、本当に、人というのは不思議なものだ。

「懐かしいなあ。そうだそうだ、ここには昔の思い出のものを……!」

連鎖的に当時のことを思い出しながら、引っ張り出した箱とその中身たちを眺めているうち、ふと気になった。箱の数が足りない気がする。

(あれっ……? この中には、確か……!)

四つん這いになって収納の中に頭を突っ込み、よく目を凝らして、やっと見つけた。俺の記憶は正しかったようだ。

古びた桜色の組紐くみひもがかけられた、アイルーよりもひのきの小さな木箱。

(そうそう! これこれ、これだぁ! 俺の、とっても大切な箱!)

先ほどとは比べ物にならないほど胸を躍らせながら、俺は迷わずその木箱も引っ張り出した。

木箱を抱えて収納から脱出し、四つん這いの姿勢を戻しながら畳に座り直す。
それから満を持して、その膝の上に桜色の組紐付きの木箱を乗せた。

胸が懐かしさと喜びに高鳴って、まるでアイルーのようにふくふくと口角が上がり、ガルクのように鼻が震えたような気がする。そんな俺の様子を、デンコウは土間からちゃんと見ていたようだ。

「ご主人? 嬉しそうな顔して、どうしたニャ? 何かいいもの出てきたニャ?」
「おお、デンコウ! 来てくれてありがとう! 良いタイミングだよ、俺の宝箱が出てきたところさ!」
「ニャ? どんなお宝ニャ?」

土間からデンコウがぺたぺたとやって来ると同時に、ちょうどライゴウも拭き掃除を終えたらしい。鼻を震わせて「ワウッ」と元気に鳴きながら、俺の隣までやって来た。

オトモたちに囲まれた状態で、二人の視線が箱に向かったのを確認してから、俺は両手に箱を持ち「じゃーん!」と、まず交互に箱を見せる。

ライゴウが「クウン?」と首を傾げ、デンコウが不思議そうに箱を覗きこんだ。

「それがご主人の宝箱ニャ? 思ったより小さめニャ、何が入ってるんだニャ?」
「んーふふふっ、俺の大事な宝物だよ、キミたちに出会う前からのものも入ってるんだ」
「えーっ、そうなのニャ? 気になるニャ! 見たいニャア!」
「それじゃあ、開けるよ! 何年ぶりだろう、久しぶりに開けるなあ……

膝の上に箱を置き直してから、俺は両手で箱にかかっていた桜色の組紐を解き、ゆっくりと、蓋を開いていく。御伽話の中で、葛籠つづらや玉手箱を開ける時の気持ちを知ることができたような心地だ。

蓋を開けた瞬間、木と桜の懐古の香りがふわりと鼻をくすぐる。目に飛び込んできたたくさんの俺の『宝物』。

蓋を開けた衝撃で、色とりどりのビイドロ玉がころころと転がり、丸みを帯びたすべすべの平たい小石に、こつん、とぶつかった。

真ん丸のものや細長いもの、二つが繋がったものなど色々な形のどんぐりに、今の俺の手の平でも収まるか分からない大きな松ぼっくり。

作りそのものは完璧だが、全体のヤスリがけがでこぼこな、けれど一生懸命な熱意が感じられる竹とんぼ、碧色の千代紙で折られた鶴に、新朱色の折り紙の風車に、丸みの目立つ可愛い大きな字が、所狭しと並び舞うお手紙の束。

色がくすんで古びたものも多く、傍から見れば何を取っておいてあるのかと思われそうだが、全てが、俺にとってかけがえのない愛おしいもの。

最愛の人、今や我が愛弟子、里の英雄となったあの子が幼い頃、俺に贈ってくれたものだ。

箱の中身がそうだとはまだ知らないデンコウもライゴウもとても興味深そうに覗きこんでいた。

「これがご主人の宝物ニャね!? たくさんあるニャ、壊さないように気を付けるから触って見せてもらってもいいニャ?」
「もちろんいいよ! ふふっ、そう言ってもらえると何だか凄く嬉しいなあ……ありがとう、デンコウ、ライゴウ」
「ご主人の宝物は、ボクたちの宝物でもあるニャ! 良かったら色々見せてほしいし教えてほしいのニャ!」

真っ直ぐなデンコウの言葉は、俺の内を陽が射したかと錯覚するほど、ぽかぽかと温かく満たしてくれた。滑稽そうに笑ったり冷めた様子にならないところが、この子たちのとても優しいところだ。我がオトモながら見習いたい。

密かに感心と感謝の二つを眼差しに宿して、俺はオトモたちの様子を見つめる。

ライゴウが小さく鼻を鳴らして尻尾を振りながら見守る中、デンコウが慎重に小さな両手を伸ばして、箱の中の物を順番に持ち上げる。
近くにいるライゴウに見せるようにしながら「この折り紙も可愛いニャア」と、箱の中身のビイドロ玉のような瞳を穏やかに細める姿は、俺を更なる感謝と喜びに満たしてくれた。

優しいオトモたちと俺も思い出に浸りたくなって、改めて箱の中に視線を向けた時、デンコウが「ニャ?」と不思議そうな声を漏らしながら、一枚の桜色の和紙を手に取った。

四隅が小さく折れ、紙質が変化したのか、ところどころ少しだけ色褪せている大人の手の平サイズの長方形の、カードのようなもの。
それには、赤い小さな桜の印影がばらばらに、たくさん押されている。

俺は一目でそれが何か分かり、かけがえのない思い出の瞬間が次々と脳裏に映し出されたが、デンコウとライゴウは不思議そうに首を傾げていた。

「たくさん桜のハンコが押してあって、可愛いカードニャ! 満開ニャ! よく見たらすみっこに、何か、字が書いてあるようニャ……? これもご主人の思い出の宝物ニャ?」
「もちろんそうだよぉ! それ、可愛いでしょ? 小さい頃の愛弟子がお店屋さんごっこしてる時、俺にくれたんだ! 書いてあるのは俺の名前だよ、当時の愛弟子の字!」
「ニャア、なるほどニャ! これはお名前だったニャね。お店屋さんごっこニャら、このカードはそこで買ったものとかニャ?」
「んー、買ったもの……とは、ちょっと違うかな。んふっ、ふふふっ……

自然の流れで、デンコウが俺にその小さな和紙のカードを渡してくれた。
桜のハンコが満開のそれを両手で持って見つめれば、カードを受け取った日が、まるで昨日のことのように感じられる。

「これはね……まだ、俺が教官になっていなかった頃……

語り始めれば目尻が自然と蕩け、口角が上がって──あの日の風の香り、聞こえてきた音、愛しい人の声、全てが鮮やかに思い出せる。

胸の奥から泉のように、時を経ても色褪せない澄んだ温かな想いが滾々こんこんと溢れて、心が生への感謝と至福に包まれていく。

遠い昔のような、つい昨日のことのような──極彩色の記憶。

@acadine