無窓居室
2026-04-20 03:49:59
5220文字
Public Pixv投稿企画
 

帰ってきたあの人(Pixv執筆応援プロジェクト10月)

人間の男性(※オリキャラ)と結婚して別れた👹と😈が再会する話。
👹と人間の男性の間に産まれた子ども(※オリキャラ)とか出てきます。大丈夫そうな方のみご覧ください。



 何かといえば一緒に撮影をしていたアカネと会う間隔が開きはじめたのはいつの頃だったか、常に新しい動画の題材を探しているブラックは鮮明には記憶していない。アカネのYouTuberとしての知名度が上がるにつれて互いの予定を合わせ辛くなったせいかもしれないし、さとしとひめが受験勉強で忙しくなり、二人と出かけるついでに声をかけることが減ったせいかもしれない。
 ブラックはあまり気にしていなかった。会わなくても彼女の動画は、注目している他のYouTuber達のそれと同じく常にチェックしていたし、ブラックが動画を上げればその日のうちに彼女から反応があった。恋人ができたと打ち明けられた後にもそれは変わらなかったので、ブラックはどこか彼女の心がいつまでも自分にあるような気になっていた。
 悪魔であるブラックにとって、男女の情愛などただ煩雑でむやみに時間的リソースを食い潰し合う遊びにすぎない。肉欲にも精神的な依存にも飽き果てている。そんなものを介さない繋がりが、アカネとの間には存在すると思っていた。動画やメッセージアプリの中にだけでなく。
 有り体に、しかし悪魔らしく言うなら、彼女の魂は自分のものだという自負があった。 

……じー」

 カメラちゃんが懐から顔を出す。部屋の主人であるさとしはまだ帰らない。塾での居残りが長引いているのだろう。勝手に暖房を使う気にもならず編集作業を続けているうちに、室内はすっかり冷え込んでいる。季節は冬になっていた。
 魔力を使えば暖を取るのはわけもないが、何となくこの寒さを感じていたくてカメラちゃんだけを服の中へ庇っていた。窓の外では雪がちらつき、やがて必ず訪れる真逆の季節を思わせた。

 ***

 夏が来た。アカネの結婚式は海外で行われた。新郎側の家族のみが参列したらしく、ブラックを含めたアカネの知り合いが招かれたのは披露宴だった。
 梅雨の終わりを告げるよく晴れた日、都内の式場は盛装した賓客で埋まった。新緑で溢れるガーデンテラスで、白いウエディングドレスに身を包んだアカネは陽の光そのもののように美しく見えた。ただ遠くから眺めるだけだったにしても。

「もっと近くに行ってあげなよ、直接お祝いを言った方が……

 まだ板につかないスーツ姿のさとしが、まるで祝福以外の何かが起きることを期待するようにしきりに勧めてくるのをかわしつつ、ブラックは新婦の友人として恥じないよう社交に努めた。新郎はマスメディアの業界人らしく、祝辞の最中にも入れ替わり立ち替わり名刺を差し出してくる関係者の多さにブラックは内心呆れる。こんな連中とよく付き合っていられるものだとある種の敬意をもって一瞥した新郎は、たしかに優しそうな顔をしていたように思えた。

 ***

 アカネが新婚の、次に妊娠と出産による生活の変化にかかりきりになってからというもの、二人が直接会うことはほぼ無くなっていた。動画には相変わらず反応を送り合っていたが、アカネが新作をアップできる頻度は限られていたし、ブラックの動画へのリアクションも月に一度来るか来ないかになっていた。
 カメラちゃんは青鬼ちゃんと交流を続けていた。しかし青鬼ちゃんはアカネが人間と結婚し、人間界のしきたりに沿って生活することを重んじて、彼女が止めるのも聞かず地獄へ帰っているということだった。自分だけでも地獄の鬼としての仕事に戻ることで、アカネの父の反対を和らげるためでもあったのかもしれない。
 あんな忠実な友人と離れてアカネの方は大丈夫だろうかと考えたが、自分の出る幕かというとそうではない気がした。

 彼女を尋ねるというあり得ない選択肢の代わりに、ブラックはあの日アカネと会ったカフェへ通うようになった。不安のあまりにではない。ましてや何かを期待してのことでもない。
 今もブラックはアカネが自分の手中にあることを疑っていなかった。それが捨てられた男の滑稽な執着なのか、精神の紐帯を信じる真実の友情なのか、他者との関係を魂の支配と被支配でしか認識しない悪魔の傲慢なのかは、どうでも良いことだった。