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無窓居室
2026-04-20 03:40:18
5569文字
Public
Pixv投稿企画
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もしもあの日に戻れたら(Pixv執筆応援プロジェクト7月)
一行目から👹が死んでるIFの未来。
漫画版の😈👹が結ばれたけど一生は共にしなかった設定です。
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アカネは忠実な伴侶だった。魔物の番には様々な形があるが、鬼は狼や猛禽のように滅多に相手を替えない生き物らしい。どこへ行くにもブラックを伴って、それが当然という顔をしていた。
狩りでもブラックの居場所はアカネの隣だった。ブラックはきさらぎ駅と人間界の境目に細工をし、自ら線路へ飛び込む人間達がそっくり鬼達の手に入るようにした。足りないときにはアカネと共に自ら森の果てに赴いて、道に迷ったカップルを演じ哀れな客を呼び込んだ。ブラックが姿をくらませた隙にアカネによからぬことを企んだ人間は、骨も残らず鬼のご馳走になる。
芝居を本当らしくするとかこつけて、怪我をしたように見せかけブラックに横抱きにされたり、車の中でブラックの肩にもたれ寝入ったフリをするようにという助言を、アカネは煩がりながら存外楽しそうに実行した。
出会ったときの車の中でそうだったように、アカネは人間の真似が上手く、幸運な獲物はその正体を疑う間もなしに至福のままで喉を噛み切られていた。返り血で装ったアカネの顔は、世の終わりが来るまで眺めても飽きないだろうと思われるほど美しかった。
酒宴ではいつも
明々
あかあか
と松明が焚かれる。その火は地獄のサバトの炎に勝るとも劣らず、熱く、激しく燃えて、ブラックの心を踊らせた。アカネは長として必要な号令をかけ終わると、大抵すぐに喧騒から離れた暗がりで休んでしまう。ブラックが探し当てるといつも面倒くさそうな、それでいて親しみを含んだ声で「よく見つけたな」と言った。
「見つけて欲しいかなと思いまして」
そう答えてブラックは髪をかき上げた。翼も尾もないその体に、二本の黒い角だけを彼女との繋がりとして生やしていた。アカネが手を伸ばし、ブラックの角に触れた。ブラックも同じように応じる。鬼の男も女も、その番にしか許さない行為だ。やがて木々の葉がつくる闇の中で、二つの異形の影が重なった。
獲物の居場所や行動パターンを知る必要上か、ただの趣味なのか、アカネは人間界の事柄にそれなりに詳しかった。身につける服も他の同族のような古色蒼然とした虎皮ではなく、現代の若い女性に似たものを着ていたし、人間達の娯楽や流行についてもよく調べているようだった。
彼女に合わせたパーカーとハーフパンツに、装飾過剰なベルトとウォレットチェーンを重ね付けした格好のブラックが探し当てたとき、アカネは篝火がわずかに届く木の枝の上で、スマートフォンの画面に目を落とし、人間達が作ったコンテンツを眺めていた。
「動画ですか?人間さん達の暇つぶしにそんなに興味が?」
嫉妬の権化でもある悪魔が不服を隠さず声をかけると、アカネは意外そうに首を傾げた。
「おまえもやってたんだろう?魔界はもちろん、人間界でもかなりのところまで行ったらしいじゃないか」
「昔のことですよ」
ブラックはそっけなく言った。自分がどれほど強い想いにかられて彼女以外のものに心動かさないという貞潔を守っているか、無理に理解させようとは思わない。
離れようとしたブラックに、アカネは無邪気にスマートフォンを押しつけた。
「そう言うなよ、なかなか面白いんだ。いま一番人気があるのは、この
……
」
ブラックは画面を見た。アカネが求めるならば見ざるを得なかった。そして見たからにはもう鬼の大将の夫としての自分には戻れなかった。アカネの愛らしい手の中にある小さな機械の向こうには、拙くとも懸命な創意と工夫があり、無限の多様性と権威への反抗があり、短い一生を惜しむこともない努力がそれらを磨き上げている。かつて耽溺し、今も心の奥底で求め続けていた世界が限りなく広がっている。
ブラックの喉から悲嘆の、やがて狂喜の哄笑が
迸
ほとばし
った。その目はもはやアカネを顧みない。黒い翼がパーカーを突き破って生え、尾はベルトやチェーンを裂いて現れた。詰襟のスーツに似た服に身を包んだ悪魔は、稲妻が地から天へ昇るように森を飛び去る。上空では、それまで離れた場所に身を潜めブラックを見守っていたカメラの助手が、レンズを持つ三又槍に姿を変えて手の中に収まった。
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