pinopipi
2026-04-02 08:09:53
11919文字
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ハッピー・ハッピー・ホワイトデー

大遅刻ホワイトデー2026/ヌヴィフリ/バレンタインの話の続き/本気を出した水龍が全力でフ様を囲い込む話

3月14日。ついにこの日を迎えた。
私はフリーナへこの想いを伝えるべく、事前に約束を取り付けていた。初めはホテル・ドゥボールで数年振りに夕食を共にしたいと考えていたのだが、「ごめんね、その日は予定があるんだ。だから、僕がキミの執務室に行くよ。」と断られてしまった。残念ではあったが、彼女は舞台人として多忙の身であるため仕方がない。今後は恋人として多くの時間を共に過ごせるのだから、また機を見て誘ってみようと思う。
ーーーーゆえに、今はフリーナの来訪を柄にもなく落ち着かない気持ちで待っているところだ。

今回私がフリーナの為に選んだ菓子は、以下の通りである。
マカロン《あなたは特別な存在》
キャンディー《あなたのことが好き》
キャラメル《一緒にいると安心する》
マドレーヌ《あなたと特別な関係を築きたい》
バウムクーヘン《あなたとの関係が永く続きますように》

些か種類が多過ぎないかと?ふむ意味を考慮し悩みに悩んだのだが、どれか一つには決められなかったため、結局菓子の詰め合わせになってしまったのだ。
これで正しく想いが伝わるだろうか。昨年までの私は、己の想いとは真逆の意味合いの菓子を贈るという過ちを犯し続けていたため、今回用意したこれらの菓子を通して少しでも本心が伝わって欲しいと思っている。無論、リオセスリ殿の助言通り、言葉でも直接愛を伝えるので、今回はすれ違いなど起こりようがない筈だ。

そう思考を巡らせていると、午後3時を告げる鐘が鳴った。同時に、扉の外から控えめなノックが聞こえる。清らかで愛おしい水元素の気配。それは間違いなく、私が待ち侘びていた最愛の女性ーーーーフリーナである。

「どうぞ。」
こんにちは、ヌヴィレット。僕だよ。お邪魔するね。」

静かに扉を開け入室したフリーナは、何故か視線が斜め下の方向を向き、私と目が合わないままソファーの位置でぴたりと立ち止まった。いつもなら迷うことなく軽やかなステップで私の傍まで来てくれるというのに、今日は足取りが重く、どこか活気がないように見える。ふむ。もしや、多忙ゆえに疲労が溜まっているのだろうか?それに、彼女の手にある大きなトランクケースは一体?舞台稽古の帰りにしては些か荷物が多い気もするが……
私はフリーナの様子に様々な違和感を感じつつも、逸る気持ちが抑えきれず、席を立ち足早に彼女の傍へと移動した。そして正面から向き合い、早急に本題を切り出した。

「今年のバレンタインデーにいただいたチョコレートは格別に美味だった。これは私からの気持ちだ。どうか受け取って欲しい。」

華やかなラッピングを施した菓子の詰め合わせを差し出すと、彼女は小さく肩を跳ねさせた。目を丸くして、じっと箱を見つめている。どうやら、例年よりも大きな箱に驚いているようだ。

「あ、ありがとう。いつも悪いね。毎年僕が一方的に押し付けているだけなんだから、お返しなんて気を遣わなくてもいいのに。」
「いや、気を遣っている訳ではない。私がしたくてしていることだ。」
「っ……、こ、今年のはなんだか、いつもより大きくないかい?」
「ああ。今年選んだ菓子は"特別"でね。是非、この場で中身を確認してみてくれないか。」
「えっ?う、うん

フリーナを来客用のソファーまでエスコートし、私も隣に腰掛ける。彼女は菓子の箱を膝の上に乗せ、何故か一瞬迷いを見せた後、恐る恐るといった様子で開封した。
そして、中身を見た瞬間、大きく目を見開いた。

「えっと?これは?」
「"私からの気持ち"だ。」
「えっ!?」

フリーナの顔に浮かんだのは喜びーーーではなく、驚きとそれから困惑だった。複雑な表情でじっと箱の中身を見つめ、何かを考え込んでいる。ふむ、思っていた反応と少々違うな。私はまた何か間違ってしまったのだろうか
そうして数十秒間沈黙していたフリーナは、瞳を潤ませながらやっと口を開いた。

「これは……本当に"キミの本心"なの?それとも、僕への情けかい?」
「む、何故そうなる?これは正真正銘"私の本心"だが?フリーナ殿、何故君は泣きそうに?」
……っ、だって、これが"キミの本心"だなんてあり得ないから!今までずっと僕の気持ちをスルーしてきたのに、よりによってどうして今年急に?!し、信じられないよ……!もしかして、僕が国を出て行くって知って、それで引き留めるためにこれを?!」
「!?待て、フリーナ殿、国を出て行くとは一体?!」
「あっ

しまった!と、フリーナはあいている手で口元を押さえ、顔を青ざめさせた。だが、聞かなかったことにはできない。国を出て行くだと?!一体何故、どうして。

「フリーナ殿、君は何故フォンテーヌを出て行こうと思ったのだ?今更、私が君を逃すとでも?」

衝動のままフリーナの腕を掴み、問いかける。加減を誤り、ソファーへと押し倒すような形になってしまった。
彼女は小さく悲鳴を上げ、顔を真っ赤にして抵抗する。刹那、身体がソファーから落ちそうになり、私は反射的に片腕でその小さな身体を抱き抱えた。すると鼻同士が触れ合いそうな程距離が近くなり、彼女は気まずそうに私から視線を逸らした。

「だ、だって!キミは僕のチョコを受け取ってもあんまり嬉しくなさそうだったから!僕からの好意はやっぱり、迷惑なのかなって思って!だからもうキミを諦めようと思ったんだ。それで、気まずいから外国へ行こうと………

とうとうフリーナは泣き出してしまった。
成程。あの日、私はそのような表情をしていたのだな
数百年間フリーナの手作りを受け取っていたにも関わらず、彼女の好意に気付かぬまま手作りを欲しがっていたこと。それが、彼女が国を出て行こうと思うに至った原因だったのだ。
ーーーーつまり、全て私が悪い。

フリーナ殿、今まで本当にすまなかった。」

すぐに拘束を解き、フリーナをゆっくりと抱き起こす。
そして、私は事の経緯をなるべく誤解が生じないよう細心の注意を払いながら丁寧に説明をした。

フリーナから毎年贈られるチョコレートは全てが完璧な仕上がりであったため、過去のフリーナの言葉通りプロが手掛けたものであると認識していたこと。
普段は水から感情を読み取る力を遮断しているため、先日までフリーナの好意に気付いていなかったこと。
皆には手作りを贈っているのに、己だけが手作りでないものを贈られていると勘違いし、それが寂しかったこと。
フリーナの手作りが欲しい、一度で良いから味わってみたいと強く思うあまり、それが意図せず表情に出てしまっていたこと。
ゆえにフリーナの真意を確かめるべく今年初めて力を使い、実は己に贈られたチョコレートもフリーナの手作りであったことや、それに込められた想いを初めて知ることができたこと。

フリーナは静かに私の話を聞いてくれた。やがて全てを説明し終え、改めて謝罪の言葉を述べた時には、彼女の涙はいつの間にか引っ込んでいた。そして、今はただただ真っ赤に熟れた顔で私を凝視している。
そっと彼女の手に触れ、優しく包み込むように握ると、彼女は慌てるようにパッと目を逸らした。

「そう、だったんだね……。でも、最初に「これは有名なパティスリーの特注品だ」って嘘をついてしまった僕にも非がある。ごめんね、当時はすごく照れくさくって。本気の手作りチョコを好きなひとに渡すなんて、神らしくないと思ったんだ。それで咄嗟に見栄を張ってしまって……本当にごめん……。」

成程。"神らしく観せる為に見栄を張る"それは当時、神を演じていたフリーナの、最も彼女らしい行動パターンである。今、彼女は非常に申し訳なさそうにしているが、私にとってはこれ以上ない程に納得の出来る理由であった。
なんとか互いの誤解が解け、安堵した。彼女の口から長年好意を抱いてくれていたという事実を確認することができ、私は今、言葉では言い表せない程に喜びを感じている。
しかし、喜ぶにはまだ早い。彼女へ、私も愛を伝えなければ。

「君に、大事な話がある。」

一度、深呼吸をする。ひと月前から何度も何度も告白のイメージトレーニングを重ねてきたというのに、いざ本人を目の前にすると、酷く緊張して手が震えた。私はそれを悟られないよう、彼女の両手を握り直す。己の心音で耳鳴りがする。顔に熱が集中し、火照りを感じた。
急に改まった雰囲気に、フリーナもどうやら緊張しているようで、いつになく固い表情でこちらの様子を伺っている。
これ以上、彼女を待たせる訳にはいかない。私は静かに息を吸い込んだ。

「フリーナ殿。私は君を心から愛している。これからは恋人として、君の傍にいさせては貰えないだろうか。」

……よし、言いたいことは言えた。だが、事前に用意していた愛の言葉よりも随分と味気ないものになってしまった。少々声が震えてしまったため、フリーナには気付かれてしまっただろうが、一世一代の愛の告白なのだから致し方ないということにして貰いたい。

一方、フリーナはというと。驚きのあまり目を見開いたまま微動だにしない。名を呼んでみても全く反応がないので、少々心配になった。
握っていた両手を一度離し、そっとフリーナの背中へ腕を回して抱きしめてみる。彼女の気持ちは既に知っている。ゆえに、触れても問題は無い筈だ。

「ひゃっ!」

ようやく反応を示したフリーナは、小さく悲鳴を上げた。体温を上昇させ、両腕を数回バタバタと動かした後、再び大人しくなった。大丈夫だろうか。

「フリーナ殿?」
……………うぅっ……
「!?!?」
「ご、ごめんっ……!」

ごめん……?ごめん、だと?!泣きながら謝っているま、まさか、私は振られてしまったのだろうか

「す、すまない!」

慌ててフリーナを解放し、人1人分の距離を取った。……両想いではなかったのか……いや待て、落ち着くのだ。確かに彼女は私を愛してくれている筈。チョコレートから読み取った感情は、間違いなく私へと向けられたもの。であれば、何か事情があって恋人にはなれないということだろうか?確かに、私達の間には種族の差による様々な課題が山積みではある。
私は彼女の考えを推察し、戸惑い焦る己の感情を鎮めた。そしてゴホンと一度咳払いをして、涙に濡れる色違いの青を真っ直ぐに見つめた。

「同意も得ずに触れてしまい申し訳ない。もう君に許可なく触れることはしないので、どうか安心して欲しい。」
えっ?」
「もし君が私と恋人関係になることを望まないのであれば、今この場ではっきりと断って貰って構わない。私は君の意思を尊重しよう。だが、これからも君を恋慕い、見守り続けることだけは許して貰えないだろうか。」
「っ!?」

今度はフリーナが動揺したように瞳を揺らした。些か慌てているようにも見える。
ふむ、先程の私の推察は間違っていたのだろうか?いっそその涙に触れて感情を読んでしまいたいとも思ったが、今はそのような不作法な行為は許されない。
やはりリオセスリ殿が言っていたように、女性の心を読み解くのは難し過ぎると実感した。
この後フリーナへ何と声を掛けるべきか悩んでいると、気が付けば彼女は先程私が取った人1人分の距離を再び詰め、私の顔をどこか不安そうに覗き込んでいた。

「なんだか僕たち、すごくすれ違っている気がする

フリーナが小さな声でそう呟いた次の瞬間、彼女は私の胸に頭を預け、細い腕を背中へと回した。
今度は彼女から、抱き締められている?こ、これは一体、どういう心境の変化なのだ………???

「フ、フリーナ殿?」
「ヌヴィレット、大好きだよ。」
……っ!」

フリーナは私を見上げ、チョコレートのように甘く蕩けるような愛らしい笑顔で愛の言葉を贈ってくれた。
刹那、再び暴れ回る心臓。酷く耳鳴りがする。それでも、よく音を拾うこの耳は、この後に続く彼女の言葉を一語一句漏らさず聴き取った。

「僕はね、ずっとずっとキミが好きだったんだ。やっと僕の気持ちがキミに伝わって、とっても嬉しい。キミも同じ気持ちだったなんて夢みたいだ。僕の気持ちに気付いてくれて同じ気持ちを返してくれて本当にありがとう。僕の恋人になって……これからずっと、一緒にいてほしいな。」

そう言って嬉しそうに笑うフリーナが眩しくて、愛おしくて堪らない気持ちになる。恋人となり、彼女の傍にいられる権利を与えて貰うという念願が叶い、最高に高揚した。ああ、私はこの笑顔が見たかったのだ。
自然と口角が上がる。そして、今とてつもなく浮かれていることを自覚する。

「ああ、勿論だ。君が望むなら、私はいつまでも君の傍にいよう。」
「ふふっ、嬉しい。ねぇ、ヌヴィレット。僕のこと、抱きしめて?」

私は頷いて、フリーナの華奢な背中に腕を回し、抱き返す。すると彼女は笑みを深めて、頬擦りをした。本当に、心から愛らしいと思う。この溢れんばかりの愛を、もっと彼女に伝えたい。苦しくならない程度に私は彼女を抱き締める力を強め、僅かな隙間すら無くなるよう身体を密着させた。彼女の心音も早まっていくのを直に感じる。赤く染まったフリーナの耳にそっと口付けを落とし、白波のような美しい髪に頬を寄せた。

それから、どれくらいこうしていただろうか。熱を上げ暴れていた心臓が今は落ち着き、全身に感じるフリーナの体温に安らぎを感じていた。だが、そろそろ彼女の顔が見たいと思った私は、そっと腕の力を緩め、宝石のように美しい彼女の瞳を覗き込むように見つめた。

「ふふふっ」

目が合うとフリーナは照れくさそうに笑った。
ああ、なんて幸福なひとときなのだろう。彼女が私だけを瞳に映してくれるなど、まるで夢のようだ。
だが、これは確かに現実である。もっともっと、彼女に触れたくて堪らない。

「口付けをしても?」
「!う、うんっ」

フリーナはミルククラウンの睫毛を伏せ、ゆっくりと瞼を閉じる。先程よりも頬の赤みが増している。緊張しているようだ。いじらしく静かに口付けを待つ彼女の表情が愛おし過ぎるあまり、眩暈がした。私は彼女の後頭部に手を添え、何度かその美しい髪を梳く。柔らかく花のような甘い香りが広がり、私はまるで花の蜜に誘われるように彼女へ顔を近付けた。鼻先が触れ合うと、彼女は小さく睫毛を震わせ、耳まで薔薇色に染まった。それがとても可愛らしくて、思わず笑みが漏れる。そしてそのままゆっくりと唇を寄せーーーー

……ん、」

そっと触れるだけの口付けを落とす。彼女の唇は驚くほどに柔らかく、心地良い。初めての口付けはとても甘く、チョコレートよりも美味だと思った。
それゆえ私はもっと彼女を味わいたいと思い、一度唇を離した後、角度を変えてすぐに二度目の口付けをした。少しだけ空いた唇の隙間から舌をそっと割り入れ、彼女の口内を余すことなくなぞっていく。

「ん、ふっ……

逃げる彼女の小さな舌を追いかける。彼女動きはぎこちなく遠慮がちであるためか、いとも簡単に捕まえることができた。甘い唾液から読み取れたのは、戸惑いと羞恥。どうやらこれが、彼女にとって初めての口付けであるらしい。雄としてこの上ない優越感に、思わず口角が上がった。
フリーナを味わうことに夢中になっていると、不意に小さく胸を叩かれた。悶えながら彼女が何かを訴えていたため、私は名残惜しくもしぶしぶ唇を離した。

「はっ……はぁっ……息、できなくて、死んじゃうかとっ、思った……!」

フリーナは真っ赤な顔で瞳に大粒の涙を浮かべ、上目遣いで私へ鋭い視線を送った。

「す、すまない」

どうやら彼女は初めてで余裕がなったがゆえ、鼻から呼吸をすれば良いということに気が付かなかったらしい。
だが、怒っている彼女にそのような指摘をすることは火に油を注ぐようなものであると過去の経験から分かりきっていたため、私はただ謝罪をするだけに止めた。
しかし彼女は私の袖を掴み、更に不満気な声を上げた。

「いきなりあんなキスをするなんて聞いてないぞっ!は、恥ずかしくて、でも、熱くて、き気持ちよくて、溶けちゃうかと思った!どうしてキミはそんなに慣れているの!?も、もしかして経験があるのかいっ?!」
「フリーナ殿、落ち着いてくれ。私も初めてだ。君があまりにも愛おしくてその……美味だったものだから、つい調子に乗り夢中になってしまった。本当にすまない。次回からは、事前に君の許可を取るようにしよう。」
「なっ!」

フリーナは小さな声で「僕に、夢中だったの?!」と呟いてから、ボンッと沸騰する熱湯の如く全身を赤く、熱く湯立たせた。潤んだ瞳を彷徨わせ、わなわなと唇を震わせている。
ーーーーキャパオーバー。彼女はどうやら、羞恥に耐えられなかったらしい。

突然「か、帰るっ!」と言い放ち、荷物すら放って身ひとつで逃げるように出口を目指す小さな背中は、私に引き止める隙すら与えぬまま驚く程の速さで扉の前へと至った。しかし彼女はドアノブに手を掛けたものの、そこでピタリと動きを止める。そして数秒間迷いを見せてから、ぎこちなく此方へと振り返った。

……ど、どうしようヌヴィレット……!僕、フォンテーヌを出るつもりだったから、今日付けで家の解約しちゃったの忘れてた……。」