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榎本奏江
2026-03-28 09:37:30
7950文字
Public
ふたさに
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【ふたさに】追体験で想いだして
小説未満の小話。今後、漫画or小説になる予定のモノです。
Twitterに上がっていたものを最低限の加筆修正のみです。
突然始まって、途中ではしょったり、突然終わります。
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2
3
「キョウ、貸してくれてありがとな」
「どういたしまして」
なるべく何事もないように、自分の腹の内が読まれないように平坦な気持ちで桔梗に借りた本を返した。
桔梗も桔梗で自分の内心のよそよそしさを読まれないように、いつも通りの態度で受け取った。
「そう言えば、ヒサが読むなら好きそうな本を探してみたよ」
「俺が好きそうな本?」
「アクションものとか、刑事ものとか好きそうだから、そこらへんピックアップしてみた。何となくだけど、後半の追い上げや大どんでん返しの展開があるから、最後まで楽しめると思う」
この本を読んで山もオチもない平坦な内容に飽き飽きしていた自分に、主である彼女はものの見事に二筋樋の好みそうな本を読み、見つけてきたらしい。
確かにそっちの方が楽しめそうだ。
「ありがとう。また、読んでみるわ」
「ふふっ、どういたしまして」
「
……
本当に感想、聞かないんだな」
「えっ?」
「ふつうは聞くもんだろ?」
「いや、聞かないよ。あなたが好きそうな内容じゃないと思うから」
そこも理解されていたことに二筋樋は思わず図星を点かれたように微かに表情を変える。
「でも、あんたはこれを何度も読むぐらいに好きなんだろ?」
「んー、そうだね」
「そういう日常に憧れているのか?」
「そうだね、昔は願っていたよ。理想にしていたし、それが私の"日常"だったから」
「へえ
……
」
「ようは、懐かしさで読んでいただけ」
「懐かしさ、ね」
その理由を聞いた瞬間、二筋樋の中で何かが刺さったような重さを感じた。
ああ、そうか。そう言うことか。
二筋樋は理解した。桔梗がこの本を何度も読む理由を。
知りたくなかったのに、知ってしまったような感覚に後悔した。
この本を見つけなければよかった、知らなければよかった、読まなければよかった。
後悔だけが押し寄せる。
あの物語の主人公はかつての恋人で、その物語に映るヒロインは彼女自身、なのだと。
似たような日常を、失ってしまった日常を、理想としていた未来をこの小説を読んで過去に浸り、追体験し、あったはずの未来を想像していたのだろう。
愛しいかつての恋人の面影を追って。
だから、あの時恥ずかしそうにその本を自分から奪った。
だから、二筋樋に読ませることを躊躇った。
自分の秘めた内面や、幸せだった彼との【過去】が見られてしまうような感覚があるのを自覚していたからだ。
ただただ、かつての恋人と寄り添い、手を繋ぎ、何気ない日常の中で好きな所を共に歩き、代り映えしない「当たり前」のような日常に幸せを感じていた。
今の多種多様な事件に追われ、非日常に近い人の姿をした刀の付喪神と共に一つ屋根の下で生活し、過去を遡り、歴史を護るために身を削って、責任を負って戦いを指揮する日常とは全く別物で、正反対の【理想の日常】
「今でも、その日常が欲しいか?」
思わず聞いてしまった。聞くつもりはなかったが、零れるように言葉を落とす。
桔梗は困ったように笑った。
「さすがにもう無理だよ。でも、今は今で充実しているから楽しいと思ってるよ」
嘘とも本当とも言えないセリフ。
きっと、本心ではないことは何となくわかる。
桔梗の中で【彼】の存在が居ないせいで、どうしようもない、戻ることもない、理想が現実になることない叶わない願いなのだろう。
だから、この今を【日常】として受け入れる一種の諦め。
――
俺にはあの男みたいに、あんたをあんな風に、あんたが望む【日常】を与えることが一生持って無理なんだろうな
ふと、思ってしまった。【相棒】と言う自分の立場で何を考えているんだ、と言う自覚はあった。
だが、二筋樋は二筋樋なりに桔梗を少しでも幸せにしたい、平穏な生活を送ってほしいという願いは持っていた。だからこそ、彼女が理想としていた、求めていた【日常】があまりにも平和すぎて今の自分には到底どうにもできない現実だと突き付けられたような気がしてやるせない気持ちになってしまう。
「そんな顔するな」
思わず二筋樋は桔梗の頭を撫でた。
自分がそうさせているのは分かっているが、あからさまにバツの悪そうな、後悔とも申し訳なさそうな遠慮させている表情を見てしまうと、罪悪感が募る。
「だって、ヒサがあまりいい顔してないから。やっぱり、貸さない方が良かったかなって」
「いや、読みたいと言ったのは俺だ。俺の判断で読んだんだ。あんたは一つも悪くないよ」
「うん
……
」
「悪かったな、キョウ。俺が無神経過ぎた」
「謝らないでよ。私も何も話していなかったし、ヒサは何も知らなかったんだから。
……
ねえ、どこまで知りたい?」
「何をだ?」
「私のこと。前に言ったじゃん「あんたの話が聞きたい、あんたこと知りたい」って」
「ああ、そうだな。話してくれるのか?」
「話せる範囲で、あなたが知りたい範囲で。さすがに全部は話せないし、全部は知ろうとは思わないだろうけど。
……
こんな形で自分の内面や過去を知られるぐらいなら、ちゃんと自分の口から話したい」
「そうか。
……
あんたが話せるところからでいい。話しづらいところもあるだろう?」
「ん。ごめんね」
「謝るな。だが、その心変わりは俺からしたら嬉しいよ。話そうと思ってくれるだけどもありがたい」
「うん
……
」
二筋樋は思わず、片手で桔梗の頬に添えた。
珍しく、彼女は距離を置くわけでも、拒絶することなく、目を閉じ、静かに受け入れる。
ゆっくりと開かれた瞳は少し涙が滲み浮かんでおり、今にも零れ落ちそうだ。
そういう感情にさせてしまったことに後ろめたさがあると同時に、その姿があまりにも美しく、儚く、【愛おしい】と言う息が詰まりそうで、胸を締め付けられるような感情が縛り付ける。庇護欲を掻き立てられ、護りたくなるような、支えて、寄り添いたくなる。
ああ、きっと物語の主人公も、桔梗のかつての恋人である【彼】も彼女のこういう弱く崩れそうに儚いところを見て同じように思ったんだろう、実感する。
「泣くな」
「泣いてないよ、大丈夫」
ほら、すぐ嘘を吐く。
今にも泣きそうなくせに、「大丈夫」と嘘を吐く。
きっと、物語の主人公や【あいつ】なら迷わず【彼女】を抱きしめて、キスをして慰めるのだろう。
だが、今の自分にはそれをする立場でもないし、資格もない。
だけど、こんな風に弱らせてしまった手前、少しでも桔梗の気持ちを変えたかった。
今の自分に何ができるだろう?
抱きしめるところまでは許されるだろうか?
考えた挙句、今の自分にぎりぎり許される行動を二筋樋は取った。
桔梗の肩を軽く引き寄せ、彼女に髪に唇を一つ落とす。
今の自分に許される精一杯の行為だ。これ以上の距離はさすがに近づけられない。
「ひ、ヒサ
……
?」
「悪かったから、そんな顔するな」
二筋樋は桔梗の頭に手を置く。
自分からしておいて気恥ずかしさで気まずくなる。
目を丸くして唖然としていた桔梗は、二筋樋のそのぶっきらぼうな表情と行為に、思わず顔を綻ばせた。
「ふふっ、顔真っ赤」
「言うな」
「嫌だったか?」
「嫌じゃないよ。あなたがそんなことするなんて、思っても居なかったからびっくりしたけれど」
「そうかよ」
「でも、ありがとう。びっくりしたおかげで気持ちが変わったよ。涙、引っ込んじゃった」
「
……
それはよかった」
ふにゃりと柔らかく笑う桔梗に、二筋樋も思わずつられて頬を綻ばせる。
桔梗の髪を二、三度撫でながら、不思議と自分の中でも苛立っていた感情が落ち着いたことに気づいた。
その理由があまりにも単純で、滑稽に感じられたが、悪い気はしない。
理由はただ一つ、その笑顔が自分に向けられていたからだ。
――
まあ、悪くないか。あんたが笑ってくれたなら。
この先、俺はあの物語の主人公(おとこ)のようにあんたを【平凡な日常】で幸せにできるとは思わないが、それでも【今のあんた】が笑ってくれるように、今のあんたが少しでも平穏に感じられるように護っていけたらそれでいい。
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