榎本奏江
2026-03-28 09:37:30
7950文字
Public ふたさに
 

【ふたさに】追体験で想いだして

小説未満の小話。今後、漫画or小説になる予定のモノです。
Twitterに上がっていたものを最低限の加筆修正のみです。
突然始まって、途中ではしょったり、突然終わります。

「あんた、こういうの好きなんだな」
「あっ……!それはっ!」

 長期出張から帰ってきた桔梗に、一振ひとりで居た際に見つけた小説を本人に見せた。
 予想外の反応された。
 桔梗は顔を真っ赤にし、二筋樋が持っていた小説を奪うように取った。

「おっと……
「ど、どこで見つけたの……?」
「書斎室に決まってるだろう?それ以外にどこで見つけるんだ?」
「うー、確かにそうか……

 本を抱える桔梗は明らかによそよそしく、気まずそうに横目で二筋樋を見ていた。

「ずいぶん、気に入ってるみたいだったな」

 二筋樋は桔梗が持っていた本を指さした。
 その本はところどころの執拗に捲れた跡があり、何度も読まれていたことがわかる。

「えっ……まぁ……ね。ヒサはこれ、どこまで読んだの?」
「いや、かるーく数ページ読んだだけだが?」
「そうか。……よかった」
「よかった?」
「あっ、いや……なんでも……

 桔梗のボソリと言った一言をあえて汲み取って攻めて見る。
 暫く会えなかった腹いせというか、八つ当たりに近いのだが、それをする自分が妙に大人げないのも分かっている。
 だが、普段からは想像できないほどの動揺っぷりが面白くて、ついつい啄いてみたくなる。

「俺が読んで不都合なことでもあるのか?」
「別にないよ。読むこと自体は悪いことではないし」
「そうか、それならよかった。だが、どうしてこれを気に入っているんだ?」

 素朴な疑問だった。読むからに、男目線の話であったような気がする。恋人と思われる女を見ていたようなシーンだったが、あまり頭に入ってない。

……秘密。教えたくない」
「そうかよ」

 何か秘めた瞳はとても色っぽく、その視線の先に向けられた本に特別な感情を抱いているのは確かだった。
【面白くない】
 何故、そう思ったのかわからない。
 ただ、やたらその本に対して特別な思い入れがあるのは確かで、どうしてソレをそう思っているのか不思議で仕方なかった。

「その本、俺に貸してくれないか?」
「えっ?」
「興味があるから、読んでみたいのだが?」

 二筋樋はその本に手を伸ばした。
 桔梗はその手に本を渡すか戸惑った。
 何となく、自分の内面が見られてしまいそうな気がして恥ずかしく、なかなか渡せない。

「俺が読むこと自体に悪いことじゃないだろう?」

 自分が言ったことを言われてしまい、断る退路を断たれてしまった。
 桔梗は渋々、思い入れのあるお気に入りの恋愛小説を二筋樋に渡す。

「ありがとう。読み終わったら感想言う」
「あ……いや、感想は……いい……です。恥ずかしいから……
「どうしてだ?」
……なんでもない」

 煮え切らない態度に若干の苛立ちを抱く。
 普段の、穏やかで凪いだような雰囲気を抱きつつも、自分の意思や主張ははっきりと物言う姿とは到底別人のように思ってしまうぐらいに。

「はっきりしないな」

 思わず言ってしまった。
 その言葉に桔梗はバツが悪そうに視線をそらす。

「だって、まさかヒサにこの本の存在を知られるとは思っても居なかったから」
「そんなに嫌か?」
「嫌じゃない……いや、嫌かも……。嫌と言うより、単純に恥ずかしい……
「恋愛小説を読むのが好き、というところにか?」
「ちょっと違うけど……
……ま、とりあえず借りて読んでみるわ」
……はい」


 自室に戻り、改めてしっかり読み始めてみた。
 内容は男性目線で描かれた、ヒロインであり、その男性の恋人である【彼女】の愛を語った山もなければ、どんでん返しのようなオチもないただただ平凡で誰かの日常を切り取ったような物語だった。
 比較的控えめな主人公である男性が、天真爛漫で明るい【彼女】に魅かれ、ときに【彼女】が不安や悲しみに暮れるときはそっと寄り添うような話であり、印象として何となく残ったのは、常に主人公の男性はその【彼女】の手を繋いで隣に歩いているのと、セリフや表向きの行動以上に、内面は非常に【彼女】への愛が情熱的と言うところだろう。
 常にを繋ぎ、お互いに興味があるところや好きな所を出かけ、明るく無邪気な【彼女】の姿に魅かれ、愛おしさをこれでもかと言うぐらいに語った日記のような内容。
 最終的にこの二人は結婚し、新しい日常に向けて夢を語ったところで終わる。
――やっぱり、どこが面白いか分からないな。
 二筋樋は桔梗が好きな内容だからと言う理由で途中で飽きて投げ出しそうになっても何とか最後まで読んだが、やはり面白さが伝わらなかった。
 こんな平坦な物語の何がいいのか、ただ穏やかでお人よしそうな男が一人の女性の愛を語った物語の何がいいのか一つも分からなかった。
 ただ、この本を読んで気づいたことは、あいつはそいう言う日常を望んでいたかもしれない、好きだったのかもしれない、もしくは、この物語のような"男"が好きなのかもしれない、と言うことだ。
 そう思ってしまったら余計、腹の中に石を積まれたような息苦しさと形容しがたい重さが募る。
 余計に面白くない。
 ああ、読まなければよかったな、と思えるぐらいだ。