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ゑ/圓堂
2026-03-28 22:00:00
7283文字
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是空本丸
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【刀剣乱舞】主数Twitterログ01【創作男審神者×数珠丸恒次】
Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめたかじゅず編。今年に入ってから今日までに上げたものをまとめました。
冬の白い吐息にまつわる小話『滲む、』
風邪をこじらせた隆治を数珠丸が看病する小話『献身の名の下に』
仕事道具の手入れをする隆治と複雑な想いを抱いてそれを眺める数珠丸の小話『明鏡止水の細波』
中傷状態の数珠丸に初めて遭遇する隆治の小話『瑠璃色の石榴』
の四本立てです。
1
2
3
4
【明鏡止水の
細波
さざなみ
】
数珠丸恒次は、審神者の私室でもう小一時間近く、主たる男
——
東雲隆治の真剣な横顔を見詰めている。
どれほど過酷な環境下での苦行よりも、救いようのない戦場よりも、己の心を試されているような心持で、それでも数珠丸恒次は眉根一つ動かすことなく座していた。
時刻は夜中に迫りつつある。後に
閊
つか
えている用も無く、故に切り上げることが出来ずにいるのだ。
どちらかといえば、この状況を招いたのは数珠丸恒次自身である。
二三相談事があって部屋を訪ねると、隆治は社寺彫刻を本来の生業とする彼の仕事道具
——
大小、形状様々の
鑿
のみ
や
鏨
たがね
の手入れを行っている最中であった。そっと全景を見渡すと、作業場である座卓の上には砥石や油などの手入れ用品の他に、蓮の細工があしらわれた美しい柄香炉が置かれているのが見えた。十中八九、現世で請け負った仕事の依頼品であろう。遠目に見ただけでも、その誠実な仕事ぶりが窺える出来栄えであった。それを数珠丸恒次は素直に、美しいと感じた。
隆治は数珠丸恒次の入室を許可するや否やその作業の手を一度は止め、用件を聞くと「すぐに済ませるが待たせるのは忍びないので終わり次第呼びに行く」と提案した。
その申し出を断り、作業が終わるまでこの場で待つと返したのは数珠丸恒次の方なのだ。
理由は勿論、主たる隆治の不自由な左脚への気遣いが大前提ではある。しかしその胸の内の奥深くに存在する、浅からぬ年月の付き合いの中でも未だ多くを語らぬ彼への一種の好奇心が、数珠丸恒次をそう決断させたこともまた否めない。
——
本刃は至って無自覚であるのだが。
数珠丸恒次の意見を飲み作業を再開した隆治は、始めのうちこそ手にした道具の用途や来歴、手入れの方法などを気前よく語っていたものの、次第に集中力が上回り、やがて無言になった。自分の相槌が、さも興味が無いように思われたか
——
数珠丸恒次は隆治の、丁寧に揃えられた深爪の指先を注視しながら思案する。
一見華奢に思える、節の目立つ彼の指には今力が籠められ、金属に装飾を施すための鏨を砥石に擦り付けている。
何度か往復し、手を止め、刃先を布で拭ってまじまじと検分する
——
その行為を、道具の数だけ繰り返す。
手を加えた箇所をじっと見詰める隆治の横顔
——
やや伸び気味の前髪の隙間から覗く瞳には、常日頃付き纏う得も言われぬ翳りが、幾許か和らいでいるように見受けられる。
否、一層熱が籠っているとさえ感じられるほどに、強い眼差しだ。
数珠丸恒次はそれらを瞑目の
眼
まなこ
を通して脳裏に映し、いつかの冬の日に彼に手を引かれた時の感触を反芻する。
細やかな装飾を生み出すため、或いは繊細な美食を生み出すために、数多の日々、道具を握り続けた掌。
所々硬くなった、ざらりとした皮膚。
生き物としては些か低く感じられる体温。
まるで薄玻璃の器にでも触れるかのように繊細に込められた力を──つい先程の出来事のように、鮮明になぞる。
────否。
数珠丸恒次は室内の空気の僅かな乱れさえも許さぬほど密やかに、膝の上の拳と丹田に力を込めた。
隆治を前にすると、ともすれば溢れ出しそうになる邪慾のような感情の片鱗を、数珠丸恒次は今日も心の奥底で打ち払う。もう幾度となく繰り返してきたその行為は数珠丸恒次にとって、人の身を得てからというもの、最も疎ましいものとなりつつあった。
人の心の、何と儘ならぬことか。
識るわけにはいかぬ。そもそも、在ってはならぬ。
数珠丸恒次は己が想念さえも、その目を閉ざす。
その想いが何かも理解せぬまま、頑なに拒み続ける。
そうしなければ────
「──よし、と。ごめん数珠丸さん、随分待たせちまったな」
瞑想のような意識の中、割り込んできた声に漸く初めて、数珠丸恒次の身体はびくりと震えた。
いつしか俯けていた
面
おもて
を上げると、普段と変わらぬ薄曇りの微笑が数珠丸恒次へと向けられている。
数珠丸恒次は見慣れた隆治の顏に安堵し──同時に微かな落胆を覚えた。ふ、とひとつ、息をつく。
「────貴方は」
「ん?」
「、いえ、何でもありません。本題に参りましょう」
どのような想いを以て、彼らと接しておられるのですか────
思わず喉から漏れそうになった言葉を飲み下し、数珠丸恒次は改めて淡々と、本来の目的だけを隆治へと語り始めた。
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