音無 馨(おとなし かおり)
2026-03-13 21:41:13
17781文字
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【かくして、祈りであると】インジュナ小話…と言いつつ、イン(→)(←)ジュナかもしれない

インジュナ礼装感謝!から派生したはずなのに「誕生日を覚えてるってことは命日も覚えてるってことやん😢」という気持ちになり、そういう話。起承転結・完結しました〜✌

「我が息子よ……明日、なのだが」

食堂を出て自室へ帰る道すがら、背後から柔らかく低い、尋ねかける響きを持つ声。振り返れば頭に思い描いた通りの姿でインドラ神が立っておられた。こういう時は決まって私を誘いたい予定がある時だということを、ここ最近はすんなりと受け入れられるようになってきている。地に顕現されて早々は私も生前のそれと同じように萎縮するばかりであったのに。思いもよらぬ巡り合わせを許される……カルデアという場所はやはり、不思議なところだなとつくづく思う。この前なんて、私はインドラ神と互いに只人のように着飾って買い物に出かけたのだ。

その時は現代の地上を漫遊されてみたいのだと判断して、先んじて長く現界している者として付き添ったつもりだったのだが……途中で、インドラ神の真の目的が私の誕生日祝いのプレゼント探しであることを知った。常のインドラ神が何かと惜しみなく振る舞いたがる方だから、と言うのもあるが、私自身がすっかり己の誕生日のことを失念していたので気付くのに大いに遅れてしまった。生前であればいざ知らず、サーヴァントの身の上では意識する機会がほとんど無かったのだ。振り返ってみればこの旅路に常に共するヴァジュラたちはおらず、己が今着せ付けられている服も、インドラ神からの誕生日祝いの一つだったのではないか?と冷や汗が出た。何なら自分は『いつか天界に戻られる時、地上での良い思い出をひとつでも多く持ち帰って貰いたい』とばかりにインドラ神に似合いそうなものを目で追って探し回っていたのだ。そしてそれが、何だか楽しくなってしまって。「華やかで、インドラ神によくお似合いかと」──その広い胸元に選んだ服をあてた瞬間、インドラ神の動きが固まった理由に思い至った私は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったが、それを見かねたインドラ神は「待て、待て待ってくれ、少しだけ……待て」と大慌てで私を制止されると、何故か息を整えながら「そ、れはそれで……本、当に嬉しいが、今度は、おまえ自身のために気になるものを……選んでくるといい……」と仰ってくださった。以降は、互いの希望 のぞみが果たされた、充実した一日になったと思う。……久方ぶりの、良い、誕生日だった。

物思いに耽ってしまったが、明日の予定か……自分が確認している範囲では無かったはずだ。可能であればインドラ神のご意向に添いたい。とはいえ、まだマスターから降りてきていない指示があるやもしれず……どう答えるか少しばかり躊躇していたところに、ちょうど思い浮かべていた女性の声が飛び込んでくる。

「アルジュナの明日の予定、空いてまーす!」
……!マスター!?」

大きなインドラ神の背の後ろからひょっこりと顔を出したマスターが、インドラ神を見上げ『OK』の文字を指で象りながら話し掛けていた。私がぎょっとして二の句を告げずにいる間に、インドラ神はマスターに振り向いて「ほう、朗報だ。褒めてやる」と口元で笑っていた。

「割り込みゴメンね!ちょうど食堂から出たら二人が通路で話してるのを見かけたから……聞こえちゃった。盗み聞きするつもりじゃなかったけど、予定の確認してたから……こっちからの予定は特に無いことを伝えておこうかなって」

バツが悪そうに顔の前で両手を合わせてお詫びのポーズを取るマスターに、慌てて私は訂正を述べる。

「いえ!今マスターに確認しようと思っていたので、ちょうど良かったです。ありがとうございます」
「ど〜してもアルジュナしかレイシフト適性が無いみたいな特異点とかが発生しなければいいんだけど……
「フン、迂闊なことを言うな。そもそも、そんなこと万に一つも起こらん」
「インドラ様が言うと、あったとしても無かったことにしそうな勢い、あるね……

マスターは揶揄するようにインドラ神へ苦笑する。バレンタインの時期、マスターから貰ったチョコレートがただの捧げ物ではないことをインドラ神に説明し、お返しを勧めたことがきっかけになったのか……マスターとインドラ神は以前より気安いやり取りをするようになった。もとよりどんな相手にも最後は臆せず向き合うのが彼女であるから、遅かれ早かれだったのかもしれないが。己が敬愛するマスター ひとと父神が良い交流を保てていることは、間に挟まれる身としても喜ばしいことであった。

「それじゃ、お邪魔しました!おやすみなさい、アルジュナ、インドラ様」
「ああ、よく休め」
「はい、おやすみなさい。自室に戻っても夜更かしし過ぎませんように」

私と違ってマスターはいまだカルデアの中核を担う多忙な身だ。釘を刺すようにそう言い含めると、マスターはわざとらしく肩をすくめて、眉を寄せると悲しげな顔を作って返答する。

「はーい……ごめんなさいおかあさん……
「もう、誰がお母さんですか……

まだあのバレンタインのイベント気分が抜けていないのか、ふざけるマスターを諌めつつその駆けて行く背を見送る。その姿が見えなくなる頃、インドラ神が静かに呟かれる。

「明日はわかった。では……この後はどうだ」
「えっ、…………この後ですか?いえ、特に何もありません。自室に戻ったら読みさしになっていた本の続きを読もうか、と……考えていたくらいで」

ぱち、と目を瞬いてインドラ神を見つめながら、帰室後の予定を伝える。刑部姫に勧められて渡された漫画や、図書館で気になって借りた本など……いわゆる『積ん読』のようになっているものがいくつかある。暇のあるうちに一つ一つ片付けたいと思っていたところだったのだが、それとして予定は明日なのでは……と考えている内に、インドラ神は「ふむ」と一人で合点され始めた。

……それならば、 オレの部屋でもできることだな。おい、ヴァジュラ」
「「はーーーい!!」」

先ほどまで姿が見えなかったインドラ神の従神 ヴァジュラが、どこからともなく現れると、私の両隣にぴったりとくっついた。

「アルジュナに付いて行け。 オレの部屋まで荷物の運搬を手伝ってやるといい」
「「合点承知 りょうかいしました〜!!」」
……え、?あ、ちょっと……お待ちください!」

呆けている間にトントン拍子に話が進んでいた。つまりこれから私は、インドラ神の居室へ招かれるということか?一足先に戻ろうと踵を返されるインドラ神を慌てて呼び止めて、真意を ただす。

「ど、どういう意味でしょうか?明日のご予定とは、一体……
……これも明日の予定の一環だ。どうせ居る場所は同じになるのだから、今日のうちからこちらに来い」
「それは、以前のように……出掛けられるのではなく?」

暗に私の誕生日の時の話を引き合いに出す。それを聞いたインドラ神は振り向きざまにスッと目を細め、緩やかに首を横に振った。

……いいや、出掛けん。明日は自室で過ごす」

端的にそう言われると、次にこちらを見る目は有無を言わさぬ強さを秘めたものになっていた。迸る稲妻のように爛々と蒼く光る両の瞳が、私の否を拒んでいる。これ以上の踏み込みを、許されなかった。


「だから……おまえも共に付き合ってくれるな?アルジュナ」