ろころころ
2026-03-11 02:54:10
8020文字
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とかげりょな②

かっこいいトカゲはいません
言うほどリョナってない






「えっ?………えっ?えっ!?!?ちょ、なにしてんの!?!?」

クラージュはそれはもう慌てた。どれくらい慌てたかと言うと、慌て過ぎて頭の上に載せていた傘がずり落ちてくるくらいには。
こんな状況を見ては、慌てるのだって許して欲しいと思う。いくら数時間前まで熱狂の嵐に包まれていた大会で、トレーナーの的確な指示を冷静に実行出来ていた選手だとしても………目の前で、知り合いが血塗れで倒れている光景を見て驚かない方がおかしいだろう!

「あれ、クラージュさん。こんばんは」
「おーこんばんは………じゃなくて!えっほんとになに!どうしたの!?何があったの!?」
「えっと、あんまり気にしなくていいんじゃないかなって思います」

返ってきたのは何とも曖昧な返事だった。
とはいえ、クラージュとて怪我した友人を見捨てて、大会気分のまま酒を飲めるほど非情ではない。このまま彼を放置してバーに向かおうとも、頭のどこかで友人の安否を気に掛けながら美味しい酒なんてものを飲めるわけが無かった。

「あーとりあえず!スタジアムに戻るからね!?」
「えっ?えっ、ちょっと

そこまでしなくても、なんて声は彼のマッハで風を切る音に掻き消された。


******************



「ここ、あったかいですね」
「いいや違うね!リグちゃんが寒気を感じてるだけでしょ!貧血で!」

寒気に敏感なドラゴンタイプがそう感じてるんだから間違いない!と自信満々に言えば、彼は変わらぬ笑みを浮かべたまま、そうですかと頷いた。

「それで事故にでも遭った?そうでもなきゃさがお腹が破れるなんてそんな悲惨なことにはならないと思うんだけどぉ……
「まぁそうですね、そんなとこじゃないですか」
「それなら車、捕まえないとじゃん!轢き逃げってことでしょ!?犯罪じゃん!」

ぷんすこと音がなりそうな具合で、クラージュは腹を立てていた。轢き逃げに対しても、それで友人が死にかけたという事実に対しても。クラージュは決して正義感が強い方では無いが、身の回りの人々を大切にする方だ。今日の大会だって共に戦った仲間が被害に遭ったというのならば、それはクラージュにとって、許し難いものだった。

「でもクラージュさんが助けてくれたので、今日もちゃんと生きれました」
「俺が通りすがってなかったら死んでたかもしれないじゃん!」
「へぇ。クラージュさんって思ってたよりネガティブなんですね」
「そ、そんなことはないはず……だけどなぁ?えっ?俺ってネガティブなのかなぁニンフィアちゃんにはそんなこと言われたことないんだけどぉ
「他愛の無い冗談ですよ、そんなに真に受けないでください。というかいいんですか?助けて貰った分際で言えないですけど、愛しのニンフィアちゃんを置いて他の男を構ってるなんて、クラージュさんも悪い子ですね」

クラージュの肩がギクリと跳ねる。そう、今日はニンフィアの彼と約束をしている。先程だって約束場所へ向かう途中だったのだ。捨てておけぬとスタジアムに戻ってきたが、時計を見れば、約束の時間まで残り5分を切っていた。
どう考えても間に合わない、そう確信せざるを得なかった。

「くくっ……あーあ!お仕置されちゃいますね!」
「ちょっと!?なんでそんなに楽しそうなの!?」

ヘラヘラと笑うリグに、クラージュは信じられないと言わんばかりの視線を向けた。
しかしリグは気にする素振りは見せず、しかしテーブルの上に無造作に置かれていた鞄から小さな箱を取り出した。

「"助けて"なんて別に言ってないですけど、クラージュさんに助けられるって状況はちょっと面白かったのでいいです。これあげます」
「えぇ?なにこれ……チョコ?」
「ガラル地方のパティシエが作ってる、1日5個限定のチョコです。我儘なプリンセスのご機嫌取りくらいはできるんじゃないですか」
「えーマジ!?なんでそんなもの持ってるのかわかんないけどサンキュー!ニンフィアちゃん喜ぶだろうなぁ〜………って冷た!?何!?」

小箱を抱えたクラージュは、唐突に襲った冷たい感覚に悲鳴を上げた。ドラゴンタイプは冷たいものが苦手だと言っているのに。
顔を上げれば、大会で幾度なく見かけた指先から水を放つ彼の姿があった。

「ちょっと!?!?せっかくくれたチョコが濡れちゃうじゃん!?!?」
「匂い消しですよ。勘違いされるとめんどくさ………ええと。トカゲの血が着いたまま、愛しの君に会いに行くのはあまりお行儀がよろしくないと思うんです」
………は!それはそうか!」

クラージュはブルブルと身体を震わせて水滴を弾き飛ばす。野生児のような仕草にリグは軽く笑いながら、白いベッドの上でひらひらと手を振った。

「じゃ、お気を付けて。くれぐれも私の二の舞にならないでくださいね。………ああそうです、大会。初戦も決勝戦もご一緒できて良かったです。守ってくれてありがとうございました」
「モチのロン!リグちゃんも中央大変だったでしょ?俺のこと育ててくれてありがとうね!」

クラージュは小箱を片手に、元気よく病室を飛び出した。