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ろころころ
2026-03-11 02:54:10
8020文字
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とかげりょな②
かっこいいトカゲはいません
言うほどリョナってない
1
2
3
人の生活に慣れたとはいえ、野生のポケモンとして生まれ持った身体能力を失うわけではない。人間と対峙するなら、ほぼ確実にポケモンであるリグが勝てる。二人、三人と人数が増えても同じだ。数人増えたところで大して変わるものではない。
パァン!と勢いの良い音と共に放たれた銃弾をくるりと躱すと、後ろに回した指先から水の弾を弾く。
──────まずは1人目。
仲間が倒されたことに怒りを覚えたのか、無謀にも正面から突っ込んでくる男の腹に蹴りを入れると、男の頭が落ちる辺りに水の弾を撃ち込む。予想通りのクリーンヒット。これで2人目。
そんなリグの背後を取ろうと、小柄な影により刃物が首に突きつけられる。確かに人間には、手足以外に攻撃に使える部分というのは無いが
……
ポケモンは違う。
インテレオン族は長いしっぽに刃を隠す。リグはしっぽの刃を尖らせると、小柄な男の足を縛り力任せに引っ張ると、床に叩きつける。悲鳴を無視して水の弾を脳天へと撃ち込んだ。
3人目。
これでおしまい。
「呆気ないですねぇ」
何処を襲撃してきたのかはわからないが、彼らは既に血塗れだった。おそらく返り血だろうが、それとも出血していたのだろうか
…
まぁどうでもいい。どこかしらの敵陣への襲撃に成功した後、帰路でリグと出会い、逃げればよかったものを襲いかかってきたのだ。
二兎追うものは一兎も得ずとはまさにこの事だ
…
なんて呑気に考えていた矢先。ふと、崩れ落ちた男の懐から、カランと音を立てて何かが転げ落ちた。
男の情報か、襲撃先で得た戦利品か。
いずれにせよ何かに使えるかもしれない。そう考えたリグは、転がり落ちたそれを手に取った。
小さく輝くそれは、金製のロケットペンダントだった。血に塗れてはいたが、素材が素材なので金になると見てくすねてきたのだろう。
となれば襲撃先の誰かの所持品だったはずだ。そう思い、興味本位でペンダントの蓋を開く。
刹那─────写真の人物と目が合った。
それだけで全てを理解した。
動悸がして、嫌な汗が吹き出る。
そこに映っていたのは、紛れもなく、幼い自分と弟の姿。
「レ、グ
………
?」
ひゅっ
…
と喉奥から呼吸にならない音が聞こえる。そんな、馬鹿な。そんなはずは。
じゃあこの血は誰のものだ?
何故これが、奴の懐から出てきた?
見えてくるものは、ただひとつで、けれどもその現実とリグは向き合いたくはなかった。
思考を逸らそうとした時、ポケットの中の端末がバイブ音と共に振動を伝えた。
まるで現実に引き戻すような、けれども外からの刺激にリグは縋り付く。急いで携帯を取り出すと、画面には部下の名前が表示されていた。
頭から衝撃を消し、出来るだけ平静を装う。
「
……
もしもし?何かありましたか?」
「ボス!緊急です!先程、西側の拠点が襲撃されたとの連絡が──────」
ああ、またその話か。
やめてくれ。折角忘れたばかりなのに。
部下の切羽詰まった声も、遠くに聞こえる。
「それで、近くにいた同期がレグさんの安否を確認しに行ったのですが、その」
「知ってます」
「
……
レグさんは
…………
え?」
即答したリグに動揺を隠しきれない、そんな声が聞こえる。
「知ってますって」
「えっ?あ、ご存知でしたか
…
すみませ
…
」
「知ってるから、もういいです。意味ないです、何したって意味ないし知らない」
「ボス
…
?お、落ち着いてください!レグさんは」
「もういいですか?いいですよね」
部下の焦った声を遮断するように、リグは通話を切った。
ああもう、何も聞きたくない。
けれども、頭のどこかではわかっていた。
──────行かなければ、ならない。
******************
普段なら近くに足を運んだだけで紅茶のフルーティな香りが漂ってくるというのに。
"CLOSE"と掛けられた看板と窓から見える室内の暗さに、意識が遠のきそうになるのを必死で堪える。
そっと、扉を開ける。
カラン、音を鳴らすベルだけがいつも通りだった。
開けた瞬間、漂うのは紅茶の香りでは無い。
鉄の匂い、鼻を貫くのは────血の匂い。
(ああもう終わったんだ)
見慣れた店内にこびりつく赤は、今の状況の異常さを物語っていた。
彼の姿を探して、地下室へと続く階段を降りる。
階段を下りるなんて、大会で四十戦を通すよりも簡単なことなのに、息が切れて酸欠で視界が歪む。脚がもつれて、身体の奥底からの震えが止まらなくなる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!
あの子の動かなくなった姿なんて、見たくない!
ただ恐怖で埋め尽くされた脳はまともに機能せず、気持ち悪さが腹の奥から押し上げられる。
「う、ぇ
…………
」
ボタボタ、口を抑えた指の隙間から吐瀉物が落ちる。立っていられなくなり、狭い階段の壁にもたれ掛かりながらズルズルと座り込んだ。
******************
──────剣を握る力を強める。
地下室の扉は、一見わかりにくい場所にある。キッチンの食器棚の裏。左端のカップの中にボタンが隠されており、そこを押せば地下室への扉が開く。
この部屋を知るのは、限られた人間のみなはずだ。
つまり、地下室への入口が開かれたということは──────味方が来たか、敵に地下室の存在をバレたか。良い状況と最悪の状況、どちらかに限られるのだ。
様子を見てくる、と小声で言い聞かせ、地下室を出る。地上へと繋がる狭く暗い階段の間に、侵入者はいるはずだ。
姿を見せた瞬間切り落としてやろうと構えていたが
……
一向に姿を表す気配がない。
(
………
ひゅうひゅうとした音
…
これは呼吸音?)
聞こえるのはそれだけだった。聞いていて心地の良い音ではないが、こちらにとっては1つの安心材料だった。何故なら、死にかけの状態で敵陣に突っ込んでくる馬鹿はいない。地下室の存在を知っていたことから見るに、怪我をして逃げ込んできた味方
…
つまりファウストの一人の可能性が高いのだ。
しかし、怪我をしているのなら早く助け出さねばならない。
そう思い、階段を少し登ったところで
……
グロリアは目を見開いた。
「
…
リグ!?
……
何してるの!?」
「
………
あ、
………
ひゅっ
……
けほっ、げほ
………
」
外傷が見当たらない。毒でも撃たれたのか。
視点が合わない彼の横にしゃがむ。よく聞けば、ただの過呼吸。本当に何をしているのか?とグロリアは疑問を抱いたが、とりあえずは置いておくことにした。
「
………
落ち着きなさい。私は敵じゃないし、ここは貴方の拠点でしょう?」
「はっ
………
あ、
………………
?」
生理的な涙で幕を貼った瞳と、今日初めて目が合った。
「あ
……………
え、?ざ、ザシアンさん
…
?」
「そうよ。とりあえず
…
立てる?下まで行きましょう」
足を縺れさせて二人で転倒
…
だなんて無様な末路は辿りたくは無い。グロリアはリグの腕を肩に回させ、もう片方の手で手摺を掴みながら下りて行く。よく口が回る彼が、自分のなすままにされている姿は大変愉快だった。
ほぼ引き摺るような形で地下室の扉を開けようとしたが、同時に状況を思い出す。
そういえばこの中には──────
「知りません。紛らわしい真似をした罰よ」
グロリアは容赦無く扉を開けた。
******************
ふと、意識が浮上する。
よく聞いた声が、自分の名前を呼んでいた。
匂いと音で、わかった。
彼女の名前を呼ぶ。自分のものとは思えない、掠れた情けない声が出た。
「下まで行きましょう」
そんなことを言って彼女はリグを連れ出すものだから、逆らう気も起きずに、ただなすままにされていた。
されていて──────それで?
「あ!おかえりなさい、グロリアさん!無事でよかっ
……………
えっ?
…
えっ!?リグ!?どうしたんですか!?」
「
………
え」
駆け寄ってくるのは、先程写真で見た姿。
もう聞くことはできないと思っていた、声。
ふわりと抱きしめられた体温と紅茶の匂いで、現実がまだリグを見放していなかったのだと理解した。
「レグ
………
生、きて
……
?」
「ど、どうしたんですか、リグ!どこか苦しいんですか
…
?」
「
…………
なんでもないです。ねむい、だけで
…
」
恋しかった匂いに、安堵と疲れがどっと押し寄せる。
夢の中でも離すまいと、虚ろな意識の中、己の尻尾を絡ませた。
眠りに落ちる中、良かった
…
と安堵の声。
おやすみ、と優しい吐息に眠りへと誘われた。
******************
「
………
なんでここまで拗れるのかしら?」
一連の流れを見ていた守護者は、ため息を吐いた。
自分にも弟はいるが、その弟が攫われたときでさえこんな事にはならなかった。
「グロリアさん、リグのことを助けてくれてありがとうございました。いえ、それだけじゃないです!あの強盗たちを追い払ってくれて
…
」
「いいのよ。私の仕事だもの。その阿呆なトカゲはたまたま拾っただけだし」
ふと、グロリアはリグの手元に視線を向ける。
その手からは一本のチェーンが伸びていた。
「何か持ってるみたいだけど
………
ペンダント?」
「──────あ、それ!」
レグが思い出したかのように声を上げる。
何?と首を傾げながら差し出すと、兄を支えていない方の手で、大切そうに受け取った。
「この間失くしちゃったペンダントなんです!えっと
…
なんでリグが
…
?」
「
………
もしかして」
グロリアは理解した。
そもそも、グロリアはただの小休憩のつもりでこのカフェに来ていたのだ。マスターは用事があったらしく、グロリアに店番を任す代わりに一杯奢ると伝え、消えていった。店内はグロリアとレグの二人きり。そんなところに、例の男達が入ってきたのだ。
おそらく、マスター不在のところを狙ったのだろうが、現実はそうも甘くない。結局グロリアに返り討ちにされ、彼らはすごすごと逃げていったのだ。
「そういえばあの時、何か拾っていたような気がするのよ。てっきり彼らの落し物かと思ったんだけど」
「もしかしたら、俺がカフェの中で落としたのかもしれません」
やはり金目のものへの執着はあるのだろう、辛うじて売れそうなペンダントだけを拾って出ていったということか。なんとも往生際の悪い奴らだろうか。とはいえ、この様子だと、鉢合わせしたリグによって討伐されたのだろう。
そして、その際にリグはこの血に濡れたペンダントを見つけ、弟が襲われたと思いパニックを起こしたままここまでやって来た。
「本当に
…
弟の話になると人が変わ
…
いえ。トカゲが変わるが正しいかしら」
「え、えっと
…
?」
「貴方が大切に思われてると
…
いうことです。安心しなさい」
そう言えば、レグは花を咲かせるように笑った。
そんな彼らを見ながら、紅茶一杯にスイーツもつけさせようと心に決めた。
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