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kuzu
2026-03-07 23:21:44
8601文字
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相棒/♦︎光沢
いつのまにか相棒という言葉は呪いのように纏わりついていた。どうにもできなった。どうしようもなかった。※祖母捏造あり
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桜の開花宣言はもう随分と前に出されていた。
2度目の夏が終わったらあっという間に桜が舞う季節になった。いや、ここ数年の温暖化で桜が散る季節と言っても問題はなさそうだ。
沢村先輩の卒業式。最近見かけなかった姿は壇上で卒業証書を受け取っていた。
沢村先輩が引退した後、先輩が青道高校野球部に顔を見せたのは片手で足りる程度だった。試合観戦に関しては秋の一回のみ。いや、きていた姿を見たわけじゃない。帰ってしまったから俺には定かではない。かつてこの人がしていたように、俺も引退したこの人に何か言われたくて勝利を納めた試合後に先輩達に会いに行った。「ちゃんとお前達見に行くからな」と、俺たち後輩に向けて言った言葉を信じきって、いるものだと思っていた。しかし、会いに行った先で告げられたのは「沢村は帰った」だった。どんな気持ちだったなんか今でも思い出せない。勝利の喜びなんて簡単に溶けてしまった。この人にどんなことを言われるのだろうとか、どんな返答をしようとか、想像した時間も、ミットを腕に抱いて行ったことも全て無駄になった。それから沢村先輩は俺達を、俺を、見にきてくれなくなった。
「祈りは心の安寧なの」そう教えてくれたのは俺に異国の血をもたらした祖母である。明るい髪色、あの人と正反対の瞳を与えた祖母はそんなことを言っていた。「だから、救いにもなるの。この国は素敵よ。たくさんの神様がいて、誰を、いつ、選ぶのかも自由よ」と。まだ膝に座る落ち着かない俺に話していた。
野球部だけが一塊になっている中で、簡単に見つけてしまったその姿。まるで俺が見つけるのを待っていたかのように目があった。
「奥村!」
言わないと
……
言わないといけない。この人の門出を祝う言葉を。決別するために。
「俺はいつまであなたと一緒にいれますか」
それなのに、口をついて出たのは全く違うものだった。願望、願い、望み、どれにも当てはまっているようでどこか遠かった。目を見開く先輩。あまりに遠回りだった。正しく伝わらないなんてわかりきっていた。正しく伝える気がなかったのかもしれない。この人の返答を待つ間は、目を閉じてやり過ごす礼拝の時間のようにも感じた。
「そんなのお前次第だろ。こいよ、ここまで」
突き放していそうでそうでもない。顔はあのしたり顔。この人なりの信頼という名の脅迫。それを心地いいと思わされてしまう。ずっと燻っている俺を見て欲しいという欲求が頭を覗かせる。後ろを振り向かないこの人の視界に入るには横に並ぶしかない。そんなの、この人と過ごす1年半で知ったこと。
この人に狭められた視野をそのままでいいとどこか思っていた。俺は常に追いかけることだけに必死になっていた。
「
……
はい」
なぜか今になって、祖母が話していた続きを思い出す。「でもね」そう続いた祖母の言葉。「信仰は時に盲目で危険なのよ」と。信仰は一方的であると。もたらされる祝福は神の気まぐれであると。まさに、その通りだと思った。
俺は知らぬ間に、簡単に足が洗えない状況になっていた。だからこそもう一度願ってしまう。願掛けのようなもの。この人が再び俺、たちの、試合を見に来た時はまたこの人を
――
けれど結局、あの人の姿を見たのはこれが最後だった。
勝ち進めば、決勝に行けば、甲子園へ行けば。そんな思いがずっと頭の片隅にこびりついていた。そんな思いを抱えて勝てる舞台ではない。目の前の試合には集中できていたと思う。でも試合が終わる度に思い出すのはあの人の姿で何度も何度も試合を見にきてくれた先輩たちの中で探した。
しかし、最後の夏は早くに終わってしまった。だからか、沢村先輩は試合を見に来ることはなかった。
「光舟、いいのか?」
まるで心配するように眉を下げる親友に問われた。隠すつもりもなかった進路希望調査票。一度消したあとにいつもよりずっと濃い色で書いた文字は、うっすらと残っている文字とは違うものだった。
「あぁ」
時間は止まってくれない。同じ場所で足だけを動かすことなんてできない。進まないとどうにもならない。時が止まってくれたらどれほどいいのか。いや、今止まられても困る。そもそも時なんて止まらないのになんて非科学的でアホくさい考えなのだろう。
もうすぐ秋が来る。夏の暑さにも土の匂いにも寮で出される正方形の白いパックの食べ物にも、あの人の声や瞳や与えられた熱を簡単に思い出す。簡単には忘れられない。それほど苛烈で鮮やかな思い出だった。けれど思い出さない術を見つけた。
違う道を歩めばいいのだ。あの人にとってきっと俺は後輩の1人で、チームメイトだった捕手。きっと気にしないだろう。でも、なら、“相棒”なんて、言葉を与えないで欲しかった。
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