pinopipi
2026-02-25 08:11:04
13578文字
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アンハッピー・バレンタイン

大遅刻バレンタイン2026/ヌヴィフリ/巻き込まれ公爵


【sideフリーナ】

今年も無事にヌヴィレットへチョコを渡すことができた。今回は今までで一番良い出来だ。何もかもが完璧だと自負している。さすが僕だね!ヌヴィレットのためだけに数百年間お菓子作りと真剣に向き合ってきたから、チョコに限っては実質この僕がフォンテーヌ1のパティシエと言っても過言ではないのかもしれない。ふふふ、僕ってばやっぱり天才だ!
……でも、チョコを受け取ってくれた時、ヌヴィレットはなんだかあまり嬉しくなさそうだった。加えて今の天気は土砂降りの雨。風が強くて雷も鳴っている。これがもしヌヴィレットの心情によるものなら……と嫌な想像をしてしまう。嫌われているわけではなさそうだけど、正直言って自信がない。過去何百年も彼を騙していただけでなく、散々我儘を言って振り回して、たくさん迷惑をかけてきた自覚があるからね
それでも彼は、僕のチョコを受け取って「嬉しい」と言ってくれる。「毎年楽しみにしている」っていう言葉は本心なのか、気を遣ってくれているのか分からない。彼はとても優しいからね。
去年までのーーー数百年分の、惨敗した記憶を回想する。ちなみに去年ヌヴィレットからホワイトデーに貰ったのはホワイトチョコだった。うん。お察しの通り"脈なし"だよ。でも、最初の頃よりはマシさ。彼から初めて貰ったお返しはマシュマロだったんだ。その時はストレートにお菓子の意味を受け取ってしまい、あぁ僕は嫌われているんだってかなり落ち込んだけれど……それでも毎年めげずにチョコを渡し続けているうちに、僕は"あること"に気付いたんだ。ーーーそう、ヌヴィレットはお菓子の意味を知らないのかもしれない、ってね。マシュマロやホワイトチョコの他にも彼は昔、レアチーズケーキやメレンゲクッキー、ブランマンジェなど他のお菓子を選んでくれた年もあった。ホワイトデーのお返しとして特別な意味を持たないものも多かったんだ。でも、これらのお菓子には共通点がある。それは、どれも"色が白い"こと。だから、もしかしたらヌヴィレットは、ホワイトデーはその名の通り白いお菓子を贈る日なのだと勘違いをしているのかもしれないと思った。彼が本当のことを知らないのであれば、ちゃんと正しい知識を教えてあげたかったけれど返すお菓子に意味があることを知ってしまったら、僕は今度こそ彼にバッサリ振られてしまいそうで………それが怖くて、結局そのまま今に至る。だから、彼から貰うお菓子の意味はあまり気にしないようにしていたんだ。……だけど、やっぱり……去年貰ったホワイトチョコはヌヴィレットの本心なのかもしれないと、そう思わずにはいられなかった。さっきの、彼の嬉しくなさそうな顔がどうしても忘れられない。
ーーーーそう。今まで誰にも打ち明けたことはないけれど、僕はヌヴィレットのことが好きだ。誰よりも優しくて、誠実で、綺麗で、格好良くて……。彼のどこが好きなのかと聞かれたら、夜通し語れるくらいには。まぁ、僕のイメージが崩れちゃうから絶対にそんな浮かれたことはしないけれどそれくらい大好きなんだ。世界で一番好き。この数百年間、どうしても諦められずに酷く拗らせている自覚はある。鏡の中の僕ーーーフォカロルスから託された役割を終え、やっと水神の役から解放されたのが数年前。呪いが解けて普通の人間、身分もただの一般人として生きている今、彼とは寿命や身分何もかもが天と地の差があるのも分かってる。それでも彼にとって僕は恋愛対象ではないと知っていながらも、バレンタインにあやかってこの気持ちを伝え続けることだけは止められなかった。だってもう自分の気持ちに嘘は吐きたくないし、残り短い人生を後悔なく生きたかったから。
でも、本当は彼にとって僕の気持ちが迷惑なら……、そろそろ潮時なのかもしれない。水から感情を読み取れる彼が、僕が作ったチョコを食べて、この重すぎる恋心に気付いていないはずがないんだ。だからヌヴィレットは、僕の数百年分の恋心を知った上で、あんな嬉しくなさそうな反応をしたのは確実だ。僕は彼に迷惑を掛けたいわけじゃない。この雷雨と彼の感情の関連性は分からないけれど、もし僕の好意が彼の心に負担をかけてしまっているのなら、この恋はもう諦めるべきだ。
でも、向けられた好意がどれだけ迷惑であっても、彼は毎年律儀にお返しをしてくれる。……今年は何だろう?ホワイトチョコかな?それともマシュマロかな?もしかしたら、僕に気を遣ってクッキーを選んでくれるかもしれない。それか、敢えて意味を持たないお菓子かも……うん、例えお返しが何であっても、これでもう最後にしなきゃ。そう考えると、涙が溢れて止まらなくなった。

それから僕は1ヶ月間ーーーホワイトデーの日まで、どうやってヌヴィレットへの恋心を昇華しようかと必死に考えていた。もう何百年もずっと片想いをしているから、そもそもあと数十年やそこらで忘れられるかどうかも分からないけれど
……そうだ、暫くフォンテーヌ廷を離れよう。彼と物理的に会えない距離にいれば、いずれ忘れられるかもしれない。例え忘れることができなくたって、せめて思い出になってくれたらいい。いっそ、遠くの国にでも行ってみようかな

数百年間大切に抱え続けた恋を諦める覚悟をして、僕は荷造りを開始した。
3月14日、彼からのお返しを受け取ったら、その足でフォンテーヌ廷を出る。大丈夫。今は辛くても、いつか良い思い出に変わる日が来るよね?僕はそう信じてる。