保科
2026-02-24 22:20:49
5378文字
Public 超かぐや姫!
 

お家に帰りましょ

帰省する彩葉と、常々一言文句が言いたかったかぐやの話 いろかぐ




――あんたその子誰やの!?というかぐやへの母親の追及に始まり、えーと友達で〜、と半笑いで説明する私の隣で何故かヤチヨのテンションでのらりくらりと応対する謎かぐや、果ては私が帰省するのに合わせて突如帰ってきていた朝日への応対、と、帰省1日目は近況報告もほどほどに気付けば目まぐるしく過ぎていった。マジで爆速。人生タイムラプス?
………つ、疲れたぁ……
疲れた、冗談でなく三徹目昼の発表会より疲れた。結局かぐやの希望もあり、日帰りではなく泊まる羽目になった私は、子供部屋の小さなベットでぼんやりと暗がりの天井を見上げている。
軽いメンテを終えたかぐやには客室があてがわれていて(さすがに正体が義体の宇宙人とはお母さんには言えなかった)、どんなカタチであれ彼女が近くにいない夜は、随分と久しぶりだった。
もともと私物自体が少ない子供だったから、それすら立川に持ってった後の部屋はいつ見ても殺風景だ。まだ部屋が私の名前を冠していたことすら奇跡で、そのせいか、妙に寒い――
………いやヤバいって寒いって」
うつらうつらと船を漕いだ矢先、寒さに意識が覚醒した。寒い。寒すぎる。春先とはいえさすがに限度がある、地元をなめていた。
出してもらった掛け布団を再度引き寄せるけど、布が薄いのかまるで役に立たない。部屋のエアコンのリモコンは寝る前に確認したけど見つからなかった。
……
ぶるり、身体が震えた。取り急ぎ、毛布が欲しい。でも、今のこの家の収納事情が私にはまるで分からないわけで。
――家主に聞くしかない。


「眠……
まだ起きてるだろうか、と階段を降りて行くにつれて、くぐもった話し声が聞こえるのに気が付いた。話し声というか――怒鳴り声、の、ような。
……ごめん、お母さん……?」
おずおずと、リビングの扉を開けて――
「だァから貴女のそういう態度が彩葉にとってはずーーーーっと重しだったって話!おかしいじゃん6歳だよ!?甘えたい年頃だよ!?甘やかせよダダ甘にさあ!」
「何歳だろうが関係あらへん、二本足で立つ以上立派な大人です!もともと流され甘えがちなあの子をこれ以上甘やかして何になるの!?小娘が口を出さんとき!」
「小娘じゃないですぅ貴女よりよっぽど大人ですぅーー!桁が違いますーー!」
「桁ってなんやの!」
―――
信じられない声のかぐやと信じられない声のお母さんが信じられない勢いで言い争っている。呆然とする。
何。え、……何だこれ。立ち尽くす私の前で、私が来たことにもまるで気づかず、2人は延々と怒鳴り合っている。
「お、主役。起きてたんか」
怒鳴り声の隙をつくような呑気な声に振り向けば、ひらひら、部屋の奥のソファーに腰かけた朝日が、ビール缶を傾けて手を振っていた。
「ああ、おはようじゃなくておはかぐやー、ってか?」
「い、や言ってる場合じゃなくて。何あれ。何、ちょっと」
「な、凄いよなあ。流石はかぐやちゃんだ。
母さんにあんな真っ向から歯向かう人、初めて見た」
「そんな呑気なコメント欲しいんじゃなくて。お兄ちゃんちょっと。どうなってんのこれ」
駆け寄って肩を揺すれば愉快そうにケラケラ笑った朝日は、大したことじゃないよ、と口を開く。
「30分くらい前かな。彩葉が寝たのを見計らったんだろうな、ふらーっとかぐやちゃんがやって来てさ。
母さんの前に立って、彩葉について物申したいことがありますーって。それで今これ」
「これって」
「これ」
親指で指し示された背後は絶好調だ。
「彩葉はどっからどう見たって十分頑張ったでしょ!?なんでそれ以上望むのさ!あんなひどい環境で壊れなかったのが異常だって分かってるの!?」
「彩葉のポテンシャルを甘く見すぎや、やればできるのにやらない、やれないのではなく!そんな半端なままなら何にもなれへん!」
―――
「な?」
「うわ……
……もうなんかくらくらしてきた。話題が自分であるということ、気恥ずかしいとか通り越して夜23時にこの熱量で言い合ってるのに、圧倒されるしかない。
え、かぐや本当に何やってんの?よくそんなに言葉が出てくるな。てかお母さんの説教内容に聞き覚えが――というかいつか言われた言葉そのままだ。高校生活で死ぬほどリフレインした言葉をよもやまた聞く羽目になるとは。
……耳が痛い……
「そうか?」
虚ろに呟く私に反して、朝日はなんだか妙に楽しそうだ。他人事だと思って……。ダメ元で口を開く。
………ねえお兄ちゃん」
「ん?」
「毛布の場所って知ってる?寒すぎて寝れないんだけど。エアコンもつけらんないし」
「俺がいつ出てったと思ってんの。お前のがまだ知ってるでしょ」
………だよねぇ」
ため息交じりに朝日の隣に腰掛ける。あんな戦場に踏み込むなんてごめんだ、一段落するまで待つしかない。手を伸ばせば当然のように手元に缶ビールを置いてくれて、この人のこういう所は本当に変わらない。


途中トイレに行ったり水を飲んだり雑誌を読んだり暇をつぶしたけれど、しかし30分経っても状況は変わらなかった。体力底なし共めと密かに毒づいても、過熱する論争は一向に収まらない。
疲労により、ソファに座ったまま舟を漕ぎ始めた私へ、端末をいじる朝日がいろは、と呼びかけてくる。
「なあ、ここなら部屋よりかは温かいやろ。なんならオレが布団運んだろか?」
……ぅあー、もー、ええて、もう、あきらめたから……
朝日の訛りにつられて、私の言葉もちょいと訛り出す。諦めた?と首を傾げる朝日をよそに、いい加減寝たい私はソファから立ち上がった。
そうして、渦中へと向かって行く。即ち――眼前の戦場へと。
「そないなこと一人で十分です!」
「違う違う、彩葉はもっと私と一緒に遊ぶの!」
「かぐや」
「そう、かぐやと一緒、に――えっ彩葉ァ!?」
息を切らせるかぐやが、呼びかけに振り返ってぎょっと目を見開いた。マジで気づいてなかったんかこいつ。
「あ、……あの、えっ、えーーーと、彩葉サンに置かれましては一体いつのどこから……
「お母さん」
かぐやは――ヤチヨは。私の前でお母さんの話題に触れることはしないように、いつも気を使ってくれていた。それなのにこうも言い争っていた手前気まずいのだろう、しどろもどろのかぐやを――まあ一先ず放置して、私はお母さんに向き直る。流石のお母さんとて顔には疲労が滲んでいるのが見て取れた。おまけに、興奮が収まらないのかこちらを睨みつけてくる。
普段なら、きっと怯んでしまうところだけど。
私は一人じゃないと、今は分かってる。
「彩葉……あんた、なんなんその子。分別もなくぎゃあぎゃあと無責任なことばかり。東京の子ってのは皆そないなの!?友達は選べ言いましたやろ!」
「はぁ!?ちょっ、だからサンプル1個で彩葉の友達分かった気になってんじゃ、」
即座にレスバモードに入ろうとしたかぐやを、引っ張って腕の内側に収めた。ひぅ、と、一声鳴いたあとおとなしくなるので、それを待って、私は深呼吸を一つ、淡々と続ける。これは、宣言などではなく――すでに決まった事実の報告だ。
……あのさ。悪いんやけど、私はこの子がええの。――人生全部、かぐやに救われたから。全部使って恩返すって、ハッピーエンドにするって、もう決めたんよ。
私が選んだ、私の友達――私のかぐやで、かぐやの私だから。
これは、これだけは、誰に何言われても譲れへん」
…………
……息を吐く。よし、言いたいことは、言った、と、思う。絶句する母に、もう興味はない――というか、眠すぎて限界だ。あーもう、かぐやぽかぽかで今にも倒れそう。かぐやいてよかった。そんな気持ちを込めて強く抱きしめる。
「ね、かぐや。あんた居ないと寒くて寝れなくて死ぬから部屋来て、早く」
……え、え?
まっ、ちょっと、今なんか彩葉とんでもないこと言わなかった!?てか口調、いや、抱き上げっ、彩葉!?待って話は終わって、」
「んー、んー……わぁかったから、かぐやが私のこと好きなのはもーわかったから……はいはい私も好きだよ〜……
「ねえだから聞いてよぉ!?」


明らかに寝ぼけ調子の彩葉が、喚くかぐやを抱えたまま引き上げていくのを見送って。唖然とした母を横目に、腹を抱えた朝日がケラケラと笑っている。
「っはーーー、いやっぱ最高やかぐやちゃん、あの彩葉にあそこまで言わせるとは!流石は俺と覇を競ったライバーの頂点よ!」
……朝日」
「ん?」
「あんたも知り合い?あの子」
「そりゃあもう。
もし母さんが、これまでに彩葉変わったな〜思うことがあったなら。それは全部、かぐやちゃんのおかげやね」
沈黙が下りる。俺も寝るわ、と立ち上がった朝日に、そう、と、母は遅れて呟いた。リビングの戸に手をかけて、朝日は皮肉げに笑む。
「なあ母さん。――言ったろ?」
「あほ。黙っとき」
「はいはい」