月の狩人も封印することができ、時間に余裕ができてきた。祈月の夜の準備を手伝うことになったが、ここはデートができるタイミングではないか?
善は急げだ。すきま時間に夜明かしの墓に向かい、フリンズを捕まえる。
「フリンズ、よかったここにいたのか!」
「ファルカさん、何かご用で?」
「デートのお誘いだ。祈月の夜にデートをしないか?」
フリンズが固まる。手を前に翳しても反応がない。徐々に顔が赤くなっていく。なんて可愛いんだ、俺の伴侶は!!
「そんなに喜んでくれるとはな、楽しみにしててくれ。
…それと、“おまじない”、してくれないか?」
「
……………っ!!」
「頼む、な?」
「
…………………」
屈んで目を閉じる。フリンズは言葉を発しないが、動く気配がする。額の髪を払われる。すると、頬に柔らかい感触と、小さなリップ音が聞こえた。
「今回は、これで
………」
「次は口にしてくれてもいいんだぞ?」
「
……………検討しておきます」
検討などという言葉で逃げようとするあたりが彼らしいが、その耳の先まで真っ赤なのが答えのようなものだ。
決めた。祈月の夜にはキスをしよう。そして告白する。政略結婚だが、ちゃんと気持ちを伝えて、夫婦になりたい。
真っ赤な伴侶の顔を見ながら、口を奪いたい衝動に堪えた。
────────
途中トラブルが起きたが、なんとか祈月の夜を開催することができた。月神の嬢ちゃんも楽しんでいるようでよかった。
フリンズは飴細工を作っていた。何故かランプの姿のままで。器用なものだ。
だけど、そろそろ俺とデートして貰わないと困る。
「これはこれは、ファルカさんではないですか。飴細工をご要望で?」
「それもほしいが、デートをしたくてな」
「
………………少し、待っててください」
するり、とフリンズが屋台の向こうから姿を現す。そういえば、フェイと聞いてはいたが、こういうこともできるんだな。
「では行こうか」
「ええ、エスコートしてくださいね、騎士様」
「もちろん。手を繋いでもいいか?」
「
……………ええ」
繋いだ手は、男らしく骨ばっていたが、とても愛おしかった。
────────
とはいっても、良い年した大人二人なので、若者のように騒げる訳ではない。
霜月の里の屋台で、獣の耳や角の屋台を見つける。狼の耳があったので身につけてみる。
「
……お似合いですね」
「まあ、狼とは縁があるからな。フリンズもどうだ?」
「いえ、僕は
…」
「ほら、俺も着けてるから、一緒なら恥ずかしくないだろ」
猫耳を着けると、とてもよく似合っていた。やっぱりフリンズは猫っぽい。
「うん、とても似合うぞ」
「
…………そうですか」
そっぽ向かれる。顔が赤い。可愛らしい。人目がなければキスしてた。
着けたまま回ろうとしていたが、全力で阻止されてしまった。写真撮っておけばよかった
…。
パネルの前では旅人とパイモンとドゥリンがいた。声をかけると、ドゥリンがこのパネルで写真を撮るのを躊躇っているようだった。
「よし、なら俺と一緒に写真撮るか! 旅人、パイモン、撮ってくれないか?」
「おう、もちろんだぜ!」
「えっ、悪いよそんな。だって二人はデート中じゃ」
「問題ありません!!」
「
…フリンズさん?」
「フリンズ、どうした? 変なもの食べたか?」
「あー、ドゥリン、早く撮るぞ」
照れ隠しのせいか、普段より大声になっている。旅人とパイモンは俺たちの関係を知らないからな。デート中に申し訳ないが、ドゥリンと一緒にパネルで写真を撮る。
「フリンズも撮らないか?」
「
………いえ、僕は」
「なら、俺と一緒に撮るか?」
「
…………一人で映ります」
周りの空気に断れない事を察したのだろう。
パネルの穴から顔を出したフリンズは、仏頂面だった。
「表情が固いぞ!」
「
………慣れてないんです、こういうの」
写真を受け取ると、仏頂面のフリンズと、笑っている俺が写っていた。
「処分します。渡してください」
「いーや、俺のお守りにするからやだね」
懐にしまうと、諦めたのか大人しくなる。
可愛い伴侶の写真を処分されてたまるか。会えない寂しさを紛らわすお守りにふさわしい。
「
………勝手にしてください」
ふいっとそっぽ向かれる。写真は渡せないがご機嫌取りをしなければ。それに、そろそろ酒も飲みたい。
酒を購入し、二人きりになれる場所を探す。そろそろ、月神の嬢ちゃんも月に帰る頃だろう。
祈月の夜もそろそろ終わる。杯を交わし、酒を飲み始める。
「フリンズ、俺のエスコートはどうだった?」
「
………キリル」
「
………えっ?」
「
………二人きりの時は、キリルと呼んでください」
照れ隠しのように、酒を煽る。どうやら満足してもらえたようだ。
「キリル、俺たちは出会う前に結婚した。だけど、俺は改めて夫婦になりたいと思っている」
「
…………」
「どうか、俺と夫婦になってくれないか?」
フリンズは考え込んだ後、頷いてくれた。
嬉しい。愛しい。酒を置き、キリルの肩に触れる。
顔に触れる。キリルはきつく目を閉じていた。
好きだ、そう言おうとした時だった。空に異変が起きた。
キリルも気づいたようで酒を置いて走り出した。
─────────
月神の嬢ちゃんは行方不明になり、博士は月髄を奪っていった。なんとか皆を元気付けようとするが、内心は怒りで一杯だ。
博士、なんでこんなタイミングで邪魔するんだ!!
それ所ではなくなってしまったため、キスはお預けになってしまった。
「なんて顔をしているんですか」
「ああ、悪い
…」
いい雰囲気だったのにな、と一人で落ち込んでいると、キリルに声をかけられる。
「
………終わったら、続き、しましょうね」
その言葉に顔を上げると、人差し指を口元に当てていた。
………その言葉、絶対に忘れるなよ?
出会う前に結婚した⑤ | Privatter+
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